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こうしてヒーローはライトニングバーストマンになった

「アネゴはスポーツとかやってるんすか?」

「超帰宅部よ。彼もね」


 天王寺さんの頭の中ではアニキの彼女はアネゴらしく、美蘭の事をすぐにアネゴ呼ばわりしながら日常会話と共にゲームセンターへと向かっていく。自分の悪評を知らない後輩相手だからか、普段と違い大人ぶった感じになりながらも比較的自然な受け答えをしている美蘭を眺めながら、俺が一年生の廊下を渡ることすら嫌がっていたはずの彼女が一体どういう意図で天王寺さんを誘ったのかについて考えるもさっぱり答えは出てこない。後輩となら友達になれるかも、というまともな? 理由ならいいのだが。


「ここがゲーセンっすか、キラキラしてるんすね」

「来た事無かったの?」

「半年くらい前までは友達含めて真面目君だったっす。そしてその友達はアタシが変わっていくにつれ自然と離れて行ってしまったっす。……後悔はしてないっす、してないっすけど、うう」


 ゲームセンターの中に入り、周囲を見渡しながら目を輝かせ、友人を失ってしまった過去を思い出してしまったのか少し悲しい表情になる天王寺さん。この学校がいわゆる底辺校なら彼女のようにヤンキーデビューした子であっても受け入れられるかもしれないが、残念ながらここは屈指の進学校。髪を染めても校則違反にはならないが、周囲に受け入れられるかはまた別問題なのだ。


「部活はどんなのを考えているの?」

「空手っす。本当はボクシングに興味があったんすけど、女子ボクシング部なんて漫画の世界にもないっすからね」

「そう。なら、パンチングマシーンで遊ばない?」


 天王寺さんに友達が少ないのは不謹慎だが好都合だと、美蘭と仲良くするように勧めたいところだが、美蘭には美蘭の考えがあるのだろうしと、口を挟む事無く二人の会話を見守る。美蘭が指差す先には、パンチの威力を測る、そこそこの規模のゲームセンターに1つくらいは置いてある筐体。


「パンチの威力を測るんすか? それにしてはごちゃごちゃした筐体っすね?」

「ヒーローさん、解説出来ますよね?」

「え……何で俺が?」

「解説出来ますよね?」


 ただパンチの威力を測るだけのシンプルなゲームのはずなのに、筐体には色んなキャラの絵だったりが描かれている。それを不思議に思っている天王寺さんを見て、美蘭はニヤニヤしながら俺に解説をさせようとする。美蘭とゲームセンターに来た時にこのゲームで遊んだ事は無いので俺がこのゲームを解説できる根拠なんて無いはずなのに、美蘭は俺がこのゲームに詳しいと確信しているようで筐体に描かれているキャラクターを指差しながら解説を強いてきた。


「うう……このゲームはライトニングバーストマンって言ってね、それまで単純だったパンチングマシーン業界に革命を起こした偉大なヒーローなんだよ。例えばステージ1なんだけどね、女の子を助けるために悪党をパンチで倒そうって展開になって、パンチの威力が設定されたノルマを超えれば悪党を倒せるんだ。アクションゲームになったりメダルゲームにもなってる人気コンテンツなんだよ。今置いてあるのはライトニングバーストマンオールスターズって言って歴代のキャラクター達が勢ぞろいして、プレイしたり好成績を残すとキャラの好感度が上がって会話イベントとかも見ることが出来るようになってるんだ」

「……? 申し訳ないっす、何言ってるのかよくわからなかったっす」

「このゲームをやればヒーローになれるんだよ!」


 普段より早口でゲームの解説をするも、天王寺さんはきょとんとして理解してくれなかったので簡潔に伝えたいことを吠える。そう、このパンチングマシーンはプレイヤーがヒーローになりきるという俺にうってつけのゲームであり、美蘭の前でやったことは無いが昔からやり込んでいたのだ。まさか、俺のヒーローオタクという面を見せて天王寺さんをドン引きさせて離れさせるという美蘭の作戦なのか!


「そういうことならアタシもヒーローになるっす」


 天王寺さんはそこまで俺の豹変に疑問を抱くことなく、俺と同じくヒーローオタクの適性があるのか嬉々としながら100円を筐体に入れて準備運動をし始める。ステージ1は先ほども説明した通り、女の子を助けるために悪党をパンチで倒すという設定だ。


「あの時は助けられる方だったけど、今度は助ける方っすよ……必殺スカイキングパンチ!」


 天王をスカイキングと訳するセンスと共に、彼女はサンドバッグに全力のパンチを叩き込む。所詮はか弱い女の子、俺に憧れて筋トレを始めたと言っても半年程度でそんなムキムキになるはずも無く、出したスコアは同年代の女子よりは少し上といったところだ。ステージ1はクリアすることが出来たが、ステージ2で子供を助けるためにトラックを破壊することは出来ずにゲームオーバーになってしまう。


「うう……アタシもまだまだっす」

「よくやった方だよ。美蘭もやりなよ、多分ステージ1すらクリアできないから」

「言いましたね? 憎き連中を脳内でボコボコにしてきた私のイメトレ力を舐めないでください」


 しょげる天王寺さんを慰めながら、普通の女の子(未満)の例として美蘭にプレイを促す。後輩がいるという手前大人びた口調だった美蘭だが、化けの皮が剥がれたようで不敵に笑みながら100円を投入し、悪党を嫌いなクラスメイトに見立てて全力のパンチを放つ。


「くっ……もう一度です! あの女共……特にあの学級委員だけは顔面をへしゃげないと……!」

「もう無理だよ美蘭。どんどんパンチ力が落ちてる」

「アネゴも負けられない戦いに身を置いているんすね」


 脳内で嫌いな相手を倒すだけでは現実は何一つ変わらない。天王寺さんと違って引きこもり生活を続けていた美蘭のパンチ力は女子小学生と同レベルで、ムキになった彼女は連コインをするもその度に疲労によりパンチ力は落ちていく。己の無力さに絶望する彼女の頭を撫でながら、彼女の復讐に協力するつもりは無いが、男として負けられない戦いに挑む。


「くっ……最終ステージクリアならずか……」

「ヒーローさんのせいで地球は滅びましたね」

「それでもすごいっすよ、もうパンチした瞬間に音が違いましたもん」


 数分後、地球に迫ってきた隕石をパンチで破壊出来ず、肩で息をしながらGAMEOVERの表示された画面を見て項垂れる。同年代の男子に比べれば俺のパンチ力は確かに高い。しかしあの日まではもっと高かった、最終ステージだって余裕でクリア出来た。あの日を境に無気力になり、筋トレも自然としなくなり、結果としてヒーローを名乗る力は失われてしまったのだ。しかし美蘭のようにムキになるつもりはない、身体が鈍ってしまったことは受け入れ、明日からまた鍛え直しだ。その後はクレーンゲームで皆仲良くお金を溶かしたり、再びお姉さんぶった美蘭が自分の得意な格闘ゲームで天王寺さんにいいところを見せたりと、トラブルが起きること無く時間が過ぎていく。美蘭が天王寺さんに嫉妬の視線を送ることも無ければ、天王寺さんが名目上彼女である美蘭に嫉妬の視線を送ることも無い。このまま二人仲良くなってくれれば全てが上手くいくのだが、と淡い期待を持ちながらトイレに向かい、戻ってくると二人はベンチに座っているようだった。


「天王寺さん、ヒーローさんの事好きですよね?」


 どうやら美蘭が天王寺さんを誘ったのは、早めに決着をつけておきたかったかららしい。二人とも俺には気づいていないようなので、こっそりと陰から二人の会話を聞くことにした。


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