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こうしてヒーローはメインヒロインと出会った

『お願いがあります』


 夏休み最終日、鳴ったスマホを確認するとプニキュアブラッドオレンジのお面を被った美蘭の自撮り姿。お祭りの時は変なテンションになって彼女にお面を着けさせたかったが、いざ実際に見てみると女子高生がプニキュアのお面を着けているのはなかなかきつい。勿論そんな事は言わずに、彼女の自撮りに感動した体でお願いとやらを聞く。


『明日家まで迎えに来て欲しいんです。一人じゃ家を出れそうにありません』

『別に構わないけど、マンションの前で待てばいいの? それとも家まで行った方がいい? 家族は俺の事知ってるの?』

『家族には友達が出来た、と言っているので……ヒーローさんみたいなのが家まで来たら両親心配しちゃうんで、頑張ってマンションの前まで出ます』

『両親が心配しないように俺の事をちゃんと説明して欲しいもんだけど……』


 学校に復帰したと思ったら夏休みにより強制的に1カ月半の休みを取ることになり、彼女の学校行きたくない病は再発してしまったらしい。それでも学校に行かなくちゃという想いはあるみたいだし、俺の通学コースから離れている訳でも無いので快く了承し、翌日少し早めに家を出て駅前にある彼女の住むマンションの前で待つ。しかし待てども待てども彼女はやって来ず、SNSで呼んでも既読がつかない。困った俺は他の住人がマンションの中に入っていく後をつけてオートロックを突破し、名字を頼りに彼女の家の前まで向かう。


「やだー! 学校行きたくない!」

「美蘭、友達も出来たんでしょう? また学校行かなくなったら進級出来ないわよ?」

「怖いなら父さんが車で送ってやるから」


 家の中からは登校拒否反応を示す美蘭と困惑する両親のやりとりが聞こえてくる。俺が停学になった時も荒れて両親を困らせていたなぁと昔を懐かしみつつ、状況を打破するためにインターホンを押す。


「ひぃっ……奴が、奴が来ます! 私を連れていく死神が! ドアを開けちゃダメです!」

「何を言っているの美蘭……はーい、今出ます」


 しばらくしてドアが開き、彼女の母親が姿を見せる。聞いていた『友達』がゴツイ男だとは思っていなかったようで驚く彼女の母親にペコリとお辞儀をして美蘭を迎えに来ましたと誠実さを見せ、部屋の中にあがって父親に宥められている美蘭と対峙する。


「お父さんお父さん、魔王が来ました」

「おはようお姫様。学校に行くぞ」


 こちらを見て怯え、自分の部屋に逃げようとする彼女の制服の首後ろを掴み、両親に失礼しましたと言いながら家の外まで引きずっていく。両親もこれ以上娘を甘やかさない方がいいと判断したのか、家の外に出たところでガチャリと鍵をかける音。『私は両親に見捨てられたんですね』と恨み言を呟く彼女を解放してやり、マンションの自販機でエナジードリンクを買って渡してやる。


「んぐ……んぐ……きえええええいっ! エナジーチャージ! プニキュアブラッドオレンジ覚醒!」

「あまり両親を困らせちゃ駄目だよ」

「はぁ……今度は家に帰りたくない……ヒーローさんを何て説明すれば……」

「見た目は怖いが正義の熱い心を持つナイスガイとでも紹介してくれ」


 アルギニンとカフェインでテンションが若干高くなった彼女と共に学校に向かう。日焼けをした人、恋人が出来た人、皆夏休みの間に色々あったようだが俺達は何も変わらない。教室に入り、クラスメイトが久しぶり、何かあった? 、なんて会話をしているのを聞きながら、隣で寝たフリモードに突入した美蘭と共に始業を待つ。始業式を終えて、席替えをして、平和的交渉ヒーローパワーで美蘭の隣の席になって、授業を聞いて、お昼になったら空き部室で彼女の母親の作ったお弁当を食べる。寂しい日常がまた戻って来たのだ。


「学校って退屈ですね」

「そりゃ友達がいないからだ」


 お弁当を食べながら、これから続く退屈な日常を想像したのか溜め息をつく美蘭。教室にテロリストはやって来ないし、クラス丸ごと異世界転移はしないし、デスゲームにも招待されない。そんな退屈な日常を彩るのが友達という存在だ。友達が多ければ多いほど、喋るネタには困らない。友達のいない俺達は、喋るネタもすぐに無くなり無言でお弁当をむしゃむしゃと食べるのみだ。


「俺は怖がられてるけど、美蘭は嫌われてるだけなんだから頑張って友達作りなよ」

「確かにヒーローさんに比べたら友達作れそう……って何をさらっと酷い事を言うんですか」

「ごめんごめん、つい自然体になって本音が出ちゃった」


 新学期になったことだし心機一転、お互い友達作りも頑張ろうなんて作戦会議をし、そろそろ昼休憩も終わるので空き部室を出て教室に戻る。その途中、1年生の廊下を歩いていると前からやってきた少女が不意に立ち止まり、


「……アニキ?」


 そんなことを言いながら俺を見つめてくる。美蘭より少し身長が低い、髪を少し茶色に染めており所々メッシュで金色にしているショートカットの、ヤンキーっぽい目の前の少女に一切見覚えは無い。なのに向こうは俺を知っていてしかもアニキなんて呼んでくる。つまり答えは1つ。


「もしかして生き別れの妹か?」

「……?」

「ヒーローさん、漫画の読み過ぎでは……?」


 幼い頃に悪の組織に誘拐されてしまい怪人となってしまったが俺を見て人の心を取り戻した生き別れの妹なのだろうと目の前の少女に問いかけるが、完全にぽかーんとした表情をされてしまい、隣にいる美蘭にも引かれてしまう。軽い冗談なのに。


「ごめん、君に見覚えが無いんだけど。どちら様?」

「あ……そうっすよね。アタシの事何て覚えてないっすよね。多分アニキにとっては日常の中の1ページでしか無かったんす。それでもアタシにとっては衝撃的で人生を変えるきっかけだったんす」

「人違いでは……?」


 こちらを慕っている様子の少女だが、慕われるようなことをした覚えもない。俺の最近の日常はヒーローアニメを見ることと、美蘭の世話を焼くことくらいなものだ。状況を理解できず困惑していると、


「あの時は本当にありがとうございました! ナンパされて、困ってて、でも断れなくて……そんな時に颯爽と駆けつけてくれたアニキ! そのまま3人をボコボコに打ちのめすアニキ! 何も言わずに去って行くアニキ! アタシにとってのヒーローっす!」


 目の前の少女はこちらに深々とお辞儀をしながら俺の黒歴史を語り出す。ここでようやく目の前の彼女があの日ナンパされていた少女だと理解する。ただ、あの時の俺は女の子を助けるというシチュエーションにばかり注目していたのでナンパされていた子の顔なんてまともに見ていなかったが、それでもこんな感じの活発そうな、ヤンキーっぽい子では無く、大人しそうな、清楚という印象のある子だったはずだ。


「ああ、あの時の……あの時から随分変わった?」

「はい! 今までのアタシは地味で大人しい女の子だったっす。ナンパされて絡まれた時も、何で自分がこんな目に、って社会を呪ってたっす。でもアニキを見て、変わらなきゃって思って、不良漫画とか読んだり筋トレしたりして、今では運動能力ならクラスの女子の中でも5本の指に入るっす!」

「1クラスの女子が15人として、中の上か……」


 あの事件をきっかけに変わってしまったのは俺だけでは無く、スマホを取り出してあの日見た昔の彼女の姿を見せてくる目の前の彼女もそうらしい。大人しい清楚な子が活発なヤンキーになるのが果たして良い変化なのか悪い変化なのかはともかく、助けた相手が俺に感謝をしているという事実に心が救われる。


「……っと、もう授業が始まるんでこれで。同じ学校だったなんて感激っす、また話しましょう、それじゃ!」


 昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴り、自分の教室に戻っていく少女を見送りながら、俺達も教室に戻らないとなと歩を進める。美蘭はまだ久々の学校が怖いのか、何やら焦りや怯えが見て取れたので途中でコーヒーを買って渡してやるが、結局その日は午後の授業中ずっと彼女は落ち着かない様子だった。

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