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こうしてヒーローは祭りに行った

『暇です』

『おーい』

『無視するな』


 プールでヒーローショーを見た後はお互いに夏休みを満喫していたのだが、美蘭は未だに暇を持て余しているようでアルバイトをしている途中に何度もスマホを鳴らしてくる。きっと中学生時代も、高校生時代も、こんな感じで自然とハブられていったに違いない。


『どうせリバウンドしたんだろう? 外に出て身体を動かしなよ。ラジオ体操でもいいからさ』

『元々太ってないから問題ない、その時間は眠りにつく時間』

『さいですか。どこか行きたいところあるの? ああ、そういえば夏コミってのがあるんだっけか』

『私はそういうのはあまり……そもそもどこでやってるか知ってるんですか? 東京ですよ? 利害関係で付き合っている相手を東京旅行に誘うなんていい度胸してますね』

『俺はアルバイトで結構お金溜まったからなあ、一人旅もありかなぁ。ああ、バイクも欲しいな』


 バイトを終えて帰路につきながら、稼いだお金の使い道に悩む。捨ててしまったグッズを集めるのもいいが、免許を取ってバイクに乗ってヒーローになるのも悪くない。そんな中、帰り道にある家に紙垂が飾られていることに気づく。どうやらこの辺ではもうすぐ夏祭りがあるようだ。


『夏祭りがあるみたいだよ』

『言いたいことはわかりますよ。ヒーローのお面が欲しいけど恥ずかしくて一人じゃ買えないんですよね? しょうがないですね、特別に付き合ってあげますよ』

『流石にヒーローのお面はいらないよ……』


 気分転換にと彼女を夏祭りに誘い、数日後に待ち合わせ場所で待っていると、私服姿の彼女が俺を見つけて駆け寄って来る。プリクラを撮った日に買った服は無事に私服として定着したようだ。


「お待たせしました……どうして甚平を着ていないんですか?」

「それはこっちのセリフだよ。どうして浴衣を着ていないんだい?」


 漫画やアニメの世界ではお祭りには和服で来るのが常識だが、現実はレンタルでもそこそこ高いし着付けも難しいしで浴衣だのを着ている人は希少種だ。お互いに服装に不満を述べつつ祭りのコースをぶらついていく。


「あ、クジありますよ。ここはヒーローさんの財力で全部のクジを買って闇を暴きましょう」

「子供の夢を壊すのはヒーローの仕事じゃないんだよ」

「そもそもヒーローが祭りに来ていいんですか? だって的屋やってる人って大半が暴力だむーっ!」


 最新ゲーム機が当たるかもしれないくじを指さしながら夢の無いことを言いつつ、しまいには言ってはいけないことを言おうとしたので口を塞ぎ、大人しくこれでも食べてなさいと小さなりんご飴を買って口に捻じ込む。


「ほんはほほひふひはひほおひふてははいほほおはへはへふはんへ、はんはひへふほ(女の子に無理矢理大きくて固いものを食べさせるなんて、犯罪ですよ)」

「何を言っているのかわからないよ。……お、お面かぁ」


 りんご飴を頬張りながらもごもご言っている彼女とぶらつく俺の目の前には、男児向けヒーローも女子向けヒロインも取りそろえた、様々なアニメキャラのお面。この年になってヒーローのお面なんていらないとは言ったものの、いざ対面すると買って被りたくなるのが少年心を捨てきれぬ男の性。


「すいません、このヒーローコバルトブルーと、プニキュアブラッドオレンジを」

「こいつまじか……」


 気づけば戦隊ヒーローのお面のみならず、プニキュアのお面も買ってしまっていた俺の横では、りんご飴を食べ終えた彼女が愕然としている。確かにこれは引かれても仕方がない。口は悪いがほのかに甘い、プニキュアブラッドオレンジのお面を彼女の頭につけようとすると、何を考えているんですかと全力で拒絶されてしまった。


「ヒーローさん、夏祭りではしゃぐのはいいですけど、流石に横暴が過ぎますよ。何が悲しくて高校生になってお面を被らなきゃいけないんですか」

「似合うと思って……ほら、お面を被っておけば、仮に学校の人に見られても問題無いでしょ?」

「そもそもこの手のお面って真正面から被るもんじゃなくて、斜めに被るもんでしょう……」


 一種のコスプレ趣味と言うべきか、お面をつけた彼女を見たかったのだがこんな往来で着けたくありませんとマジなトーンで言われてしまったのでじゃあ帰ったら着けてねと彼女のカバンにプニキュアブラッドオレンジを捻じ込み、自分はヒーローコバルトブルーを斜めに被ってヒーローパワーを充電する。気のせいか横を歩く彼女と少し距離が出来ている気がする。その後も射的で彼女に銃口を向けられたり、型抜きをして俺が失敗した残骸を彼女が案外美味しいんですよこれとパクパク食べたりと祭りを満喫して行き、気づけばもうすぐ花火大会が開催されるようで通行人の流れが変わる。


「花火大会だってさ」

「何が悲しくて人込みに紛れて花火を見ないといけないんですか。しかも隣にはヒーローのお面を被ったやばいやつ。こういう時は、穴場を探すんですよ穴場を。多分森の中を突っ切れば見晴らしのいい丘とかに出ます」


 ゾロゾロと花火が見やすい場所へと移動していく人達を後目に、彼女は漫画やアニメの常識に支配されてしまったらしく、祭り会場の近くにある森の中へと進んでいく。20分後、存在するかも不明な見晴らしのいい丘とやらに辿り着くことなんて勿論出来ず、整備もされていない森の中を歩いた結果、蚊に嚙まれまくって発狂する彼女の姿。


「うがー! それもこれも全ては花火を見ようなんて言ったヒーローさんが悪い!」

「よーく思い出してみようか、俺は花火を見ようなんて一言も言っていないよ。花火大会だってさ、とは言ったけど」

「こんな人気の無い場所に私を連れ出して……はっ、つまりそういうことですか?」

「連れ出されたのは俺の方なんだけど……大人しく来た道? を戻ろうか」


 腕をポリポリ掻きながら、勝手に貞操の危機を感じて顔を赤らめる彼女。無情にも花火大会は始まってしまったようで、どこからかヒュー、ドンと花火の音が聞こえてくる。森の中で木々が邪魔をしていることもあり、肝心の花火を見ることは叶わない。


「うっ……今から戻ったら間に合いません。どうにかしてここから花火を見る方法……そうだ、そこの木に登ったら花火見えないですか?」

「木登りは別に得意じゃないんだがなぁ……」


 花火を諦めたくは無いらしく、近くにあるそこそこ大きな木を指差す彼女。頑張ってよじ登り、太い枝に立って空を見上げると、絶景とは言えないがどうにか花火を見ることは出来た。


「後は私を引き上げるだけです」

「簡単に言ってくれるね……」


 下から手を伸ばす彼女だが、いくら枝ががっしりしているとは言えど、落ちないように彼女を引き上げるのは至難の技だ。数分かけてどうにか彼女が枝にしがみ付くところまでは進み、そろそろ暗くなってきたので細心の注意を払いながら彼女を枝の上に立たせる。


「つ、疲れた……」

「俺は3倍くらい疲れてるよ」

「さぁ花火です。ここは間違いなく穴場です。絶景なんです」

「自己暗示してやがる……」


 ようやく二人で見ることになった花火大会。色んな花火を無言で眺める俺達。ドキドキするのは夏のアバンチュールか、枝の上に立っているからか。彼女は足場の不安定さから気づけば俺の身体にしがみついており、流れに任せるべきかと気にしないように努めて花火を見続けることにした。


『以上をもちまして、花火大会は終了となります』

「最後の連発凄かったですね……ひ、ひゃあっ」


 花火大会の終了を告げるアナウンスが流れ、我に返った彼女が状況を理解し、顔を赤くしながら俺から離れ、枝から飛び降りようとする。危ないと俺は彼女の手を掴んだが、彼女の勢いにつられて一緒に飛び降りてしまい、地面で仲良く悶絶する夏の思い出を作るのだった。

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