047 ブサメン、順応す2
コンビニに付いた。早速コーヒー飲料とレギュラータバコのワルボロとメンソールタバコのスパークリングメンソールボックス8を購入。カードで決済してホテルへ。
エントランスを通ってホール内へ、エスプレッソは必要ないのでそのまま喫煙所へ、CRライターで火を付けてワルボロを一服、幸せな味が口と鼻に一杯に広がる。四分ほど時間を掛けて一本を吸う。
次はスパークリングメンソール、フィルター内のカプセルを潰して一服。メロンっぽいがメロンではない香りが満足感を、キツ目のメンソールが爽快感を与えてくれる、忘れていたコーヒーを開封して一口。ウメェ!
都合七分ほど不毛な時間を過ごしてロビーでカードキーを受け取る。もう今日で最後か、ちょっとしんみり。
まあ俺の人生はちょっと前に始まったみたいなもんやし、気にせんといて平気か。
ルサルカの部屋へまっすぐ向かいコンコンとノック、程なくしてアンジェリカが扉を開けてくれた。
「…来たか」
ほんのりと笑みが乗った顔でサリアが呟く。
「ええ、では向かうとしましょうか…お留守番はルカさんでお願いするとしましょう」
平素からの不細工フェイスで童貞野郎は言う。
はい、わかりましたと言ってルカは俺の部屋のカードキーを受け取った。
靴を履いたままゲートを開く、明日は引っ越し。否でも応にも気分が上がろうと言う物だ。
ゲートを潜って賃貸の二階へ、ちゃちゃっと仕事を終わらせて引っ越しタイムだな。
ランタンを付けて視界を確保しつつ一階へ、楽しい濡れ手で粟タイムの開始だ。
一階の照明を付けきって店舗入り口に謎文字が書かれた看板を出して午後の部開始。
スマホのタイマーを駆使しつつ客を捌く。じゃらじゃらと銀貨が俺の財布を膨らませる。
午後の部を開始してから一時間と少し経った時、奴は現れた。
フードを目深に被った身長の低いローブ姿の女性と思しき客、整理券を三枚出して一番高いコースを三巡するという、まあきっと整理券を買ったボンボンなのだろう、だが未成年と言うのは頂けない、否。別に未成年がダメだって言ってるんじゃないんだ。どう見ても小学校高学年位の背丈の子にはアルコールは飲んで欲しくないのだ。
ブサメンは推定彼女に近寄り年齢確認。
「未成年にはあまり酒精を提供したくないので…失礼ですが貴女の年齢を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ワタクシですか?今年で46ですけど…?」
そう言って彼女はフードを外す。
乳白色の肌、狭い額、ジトッとした眠そうな瞳、すこし扱けたバラ色の頬、ほんのりと彩付いた唇、全体はピンク色の髪で前髪に一房だけ入った黒髪のメッシュ。この子は俺のヒロインだな。中出し妊娠を前提にお付き合いを申し込みたい。
マジもんのロリババアだ、異世界ってなんて素敵なところなんだろう。
ロリババアな彼女に酒とツマミを提供して少し一服するために店から表に出る。
すると武装した兵士がズラリと店を囲って居るではないか、はて?何か有ったのだろうか?はて?何か起こるのだろうか?
全く気にせず店先でスパスパと煙をやる、美味しい。タバコは神からの贈り物なんだ。タバコは勇気と自由を与えてくれる。
椅子かなんか調達するかね、立ったまま吸うのも美味しいけど椅子に腰を据えてじっくりと一服、そういうのも憧れるな。
「オイ、お前。何してるんだ?」
気が付いたら紫肌金髪の推定モンスターの彼女が問いを投げる、モンスターって町に入れないんじゃないの?それとも奴隷かやんごとなきお方の従者なのだろうか?謎だ。
「これはタバコと言って…刻んだ毒草を紙で巻いて火を点けて吸うんです」
一応毒草とフォローを入れておく、実際毒草だし。
「ハァ?毒だぁ?それにしちゃ旨そうだが」
そう言って興味深々な顔の彼女。
「毒ですけど…一本如何ですか?」
毒ですけどは忘れちゃいけない、いきなり毒殺嫌疑をかけられても困るからな。
「オウ、強請ったみたいでわりぃな…毒って言ってたけど修行か何かか?」
そう言うと彼女はブサメンの直ぐ近くまで歩いて来てこちらを見上げる、ボロボロの布をボーダー柄になるように素人が必死こいて縫った感じ。顔面偏差値はブサメン基準で行くととんでもない、ロリロリだ。肌の色さえ人間仕様になったら即フ〇ック&孕ませ、年に一度の出産経験と三百六十五回の種付けプレスをプレゼントフォー・ユー。
ブサメンはタバコを箱から一箱取り出してカプセルを潰した、メンソールの方が吸いやすいかなって。
彼女はタバコを咥えると体ごと首をこっちに差し出す。
吸い込んでください、そう言ってブサメンはタバコの先端に火を点けた。
「スース―す…!?カフッ!ゲッホゲホ!」
相当に咽ていらっしゃる、まあ最初はそんなもん。ブサメンも初めては盛大に咽たわ。
「オイ!視界がグワングワンするぞ!本当に毒じゃねーか!」
そう言ってもう一吸いする彼女。君、ニコチン中毒者に成れる素質が有るよ。
だから言ったじゃん、毒だって。
まあ三十分くらいたてば毒も抜けるさ、ブサメンは悠々と吸い殻をブーツで揉み消して店へと戻った。
ポイ捨て駄目!絶対!
臭い匂いを漂わせながら店内へ戻るブサメン、タバコは美味しいから体に良いんだ等と馬鹿な事を考えながら接客に戻る、飲み放題コースを楽しんでいる彼女はグラスを三つ出してブランデー、テキーラ、ウィスキーを楽しんでいる。
時折グラスを撫でながら少しは注いで飲む、の繰り返し。
幼女の飲酒風景実に良き。
「そこの大柄な美丈夫のお方…少しよろしくて?」
美丈夫…ああ、不細工がイケメンでイケメンが不細工だから俺か。
「どうかなさいましたか?追加でグラスとボトルを出しましょうか?」
見た目に似つかわしくないハスキーなダウナーボイスがオチ〇チンにダイレクトアタック。
「いえ、それは結構。どうして魔物や亜人を働かせているのかと思って気になりましてね」
バレてる、不味いな。でも外見を見ただけで分かるモノなのか?
「と言ってもワタクシの方も似たようなものですが…」
ああ、表に居た種族不明の人がこのお嬢ちゃんの護衛なのか。
「貴方、始祖の血を継いでいるのではなくって?その激しくうねった漆黒の髪にそのかんばせ…間違いなく直系でしょう?」
ああ、そう言えば爺さんが始祖なんだっけ、そういう意味ではかなり濃く血を継いでいるとも言える。
「ニシムラヤマトは俺の祖父に当たります」
事実を述べる、端的に。
不細工の孫は不細工よ。
「それはおかしいですね…始祖がこの世界を去ってから久しいです。まあ、あながち嘘では無いのでしょうが…私の知っている限りでは貴方ほど濃い血の人は居なかったと思うのですけど…?」
こういう時は嘘と本当を交えると良いとか何とか。
「流浪の旅商人の身でして、ようやっと開業資金が溜まったので、こうして今までの伝手で商品を買い集めて店を出しております」
どうだこの言い訳、俺は何度でも嘘をつくぜ。
「…だとするとおかしいですね?割れやすいガラスのまま輸送するでしょうか?それにこのラベル、完全に透明なガラスが使われているだけでなく失われたヒエログリフが完全に使われています…コレ、異世界産でしょう?」
不味いぞ、バレてる。
なんとか誤魔化せ!考えろ俺!
「異世界と言うと鏡の中とか絵本の世界とかでしょうか?」
アホを演じる…!しまった!年齢が合わないという言動から適当な事を言ったけど自分で孫とか言っちゃてるやんけ、バーカw悔しいのう、低能w悔しいのう。
「貴方の居た世界…と言えば理解できますか?」
あーあもういーや、バレたなら堂々と。
「解りました…如何にも俺は異世界人です、ですが今此処に立ってる俺は物珍しいモノを扱っている酒も出す雑貨屋の主人に過ぎません」
彼女はにっこりと微笑んだ。いい笑顔、二日酔いの匂いのキツイ小便で全身マーキングしてあげたい欲がムラムラと湧き上がる。
「正直にお話が出来て嬉しいです…と言うのも此処には魔法の行使を感知して来ましてね、どの種類の魔法か区別は付きませんでしたが時機的にはココが一番怪しいなと思っていたのです。貴方の固有魔法は…時空魔法で合っていますか?」
魔法と魔術…なるほど納得、魔法はきっと使える人が少ないんだろう。
「固有かどうかは知らないですけど、使える魔法の種類は多分話に上がった時空系だと思います」
バレてるならいーや、これ以上嘘ついて心証を下げるのもアレだし。
「なるほど、それは素晴らしい!」
何が素晴らしいのか、嫌な予感がビンビンと。
「何か嬉しい事でもありましたか?」
目も訝し気に問いを投げる。
「折角ですからこちらの世界で貴族になるつもりはありませんか?」
ホラ来た、碌でもねー香りがプンプンと。
「前向きに検討させてください」
NOと言えない日本人の精一杯の足掻き、そうすると彼女はスゥ…と目を細めて言葉を呟く。
「そうですか、暫くはこの都市に逗留させて頂くのでまた足を運ぼうと思います…ご馳走様でした。お酒は…買えるだけ売ってもらうとしましょうか」
なんやかんや有りつつも営業は続く…貴族かぁ、興味が無いと言えば嘘になるけど、さして必要とも思わないなあ。
一本九千円の酒が六十三万に九本も化けた。なんだろう、この気持ち。
スマートフォン黎明期に株投資で儲けた人もこんな気分だったんだろうか?身を粉にした金しか手元に残らない、という人もいるけどそれは違うと思う。
泡銭だろうが金は金、使い方を誤らなければ更なる金を生み出すだろう。
第一、手元に有る銭をやりくりするだけで生涯無労働で過ごせるような人以外子供を産むべきでないのだ、育児も免許制にして該当資格を持たずに妊娠した場合その子供は国有化されるべき、これは俺の人生経験と歴史が証明している。
石器時代から富める物は居たし、虐げられる人もいた。
風の噂で聞いた同級生の田中君を例に考えてみよう。彼の職業は公僕で彼の実家の資産はほぼゼロ、妊娠させた相手もほぼ資産を持たずに出産、その結果、余程優れた運と能力をもって子供が生まれてきた場合で無いと子供はほぼ確実に末端労働者、要は実質的な奴隷階級に生まれたに等しい。
日本の産業もそうだ、労働実習生問題もそうで、自国に帰っても碌な農業機械が無いような国から日本に来て農業をしたとて何を学べるのだろうか?季節ごとの苗の植え替えに除草作業、隙間時間にグループ会社の温室で機械操作、繁盛期に作物の箱詰めとフォークリフトでパレット詰めに当たるような場合は日本語での日常生活会話以外に何のノウハウも学べていないに等しい。
人間は堕落している、惰性で人を陥れ惰性で搾取する。人間は管理されるべきだ。絶対的な目標の為に自己を犠牲にして時代を切り拓くべきだ、世界は一つにならなければいけない。統一された教え、統一された意志、統一された犠牲。
それこそが人類を次のステージに向かわせるたった一つの冴えた方法である。
などと中卒がおバカな頭の中で言っているうちに似非ロリは退店した、彼女の穿いてるパンツ金貨一枚で売ってくれないかな、一分で破廉恥ドレッシングで和えてから返却するからザー〇ンが着いた分実質お得である。返品にはクーリングオフ制度を利用するし。
問題はドレッシングの出所がブサメンだと言う事で、イケメンなら「英雄色を好む!性欲強くて男らしくて素敵!」となる場合も、ブサメンがやった場合「変態!性欲異常者!性犯罪者!GPSチップ埋め込み!」となる事である。
金貨を二階に大事に仕舞う間に客がまた入れ替わる、おや、また貴族か?仕立ての良い服を来た二十代中盤から終盤と思しきセンター分けの長髪男性のお客様、彼は飲み放題をオーダー。早速アプリを起ち上げて時間計測開始。
ジャンジャン酒が出る、それを見て舐めるようにストレートを楽しんでいた客が呷るように飲みだした。実際慣れていれば美味しい飲み方かもしれないが慣れない内にそうやって飲んでも口の中が痺れるだけでありお勧めは出来ない。
よくウィスキーって言っても度数は40%!水で割らんくても美味しいんや!って方も見かけるけどそれはやりたければどうぞという話、でも蒸留酒をストレートで飲むのは別にスマートでも何でもないし、それで吐いたりするならそれは酒に対する驕りに等しい、吐くくらいなら一滴も飲むなって話。
酒を飲めるようななったばかりの若者こそ酒との距離感を良く学ぶべきである、飲みに出る時は代行を、自分の酒量と相談を。
リチャードさんに買い付けてもらう物資のリストをこのスキマ時間に作ろう、減っているおつまみ、減っている酒、やる事は尽きない。なんやかんやで手を動かしつつ有意義な時間を過ごした。
ああ、明日でホテルを出るのか、そんな感慨と共に異世界での生活は一旦幕を降ろす。