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014 ブサメンのマネーロンダリング

「退け」


 サリアが取り巻きの高齢の女性と中年の女性を突き飛ばす。

 それを見て強面のサングラスをかけた男たちがナイフ、警棒、鎖を構えサリアに詰め寄る。

 鎖を構えた男にサリアが飛び掛かる、袈裟懸けに放たれた男の鎖は空を切り、サリアが両足を使って首に巻付き鮮やかに放り投げる。まず一人目。

 近づき警棒を振り下ろそうとした男の得物を持った右手首を掴み右腕で鳩尾に良いの三発入れる。二人目。

 最後に残ったナイフを構えた男の突進を体を左に流し右手の甲を強くはたきナイフを落とさせ、背負い投げが強かに決まった。

 学生服を着ていた男児達はとっくに逃げ出している。

 学生を宙吊にしていた男のみが残った。

 

「死ねやぁ!」


 分が悪いと感じたのかトカレフのコピー品と思しき拳銃を取り出してサリアに照準を合わせようとする。

 裂帛の声と共に放たれた銃弾は明後日の方向へ飛び男もまた拳銃を取り落とし地面に叩き付けられた。

 サリアのキックが倒れた男の顔面に炸裂し鼻が折れる音がした。

 

「…まだ終わりじゃないぞ」


 そう言うが早いか、男を掴み起こして手を離す、重力に従い崩れ落ちる彼の顔に肘が突き刺さる、歯と鼻が折れる嫌な音がした。

 

「ストップです!もういいですから」


 どう贔屓目に見てもやりすぎだ。

 

「…サリアさん、やりすぎです」


「死なない程度だといったからこの程度で済ませたのだが…?私が悪いのか?」


 こちらも言葉が足りなかった、まあやってしまったことはしょうがない。ここは一つ誠意を見せて謝ろう、顔を潰したままってのも気分が悪いし。

 

「デメェラ…ダレニナンシャーッタカワカットルンカ?」


 歯が折れて喋りにくいのだろう、ここは一つ治癒魔術の出番だ。

 

「じっとしていてくださいね」


 男の体を淡い光が包む、男の唇から伺える口の中、折れた歯から血液がドクドクと流れ出している、とっても痛そう。治癒魔術に込める魔力をめいっぱいまで上げる。時間にして一分ほどだろうか、折れた歯が根元から排出されるとともに新しい歯が生えて来る。

 

「お前…一体何をしやがった?」


 男が口の中に溜まった血と一緒に歯のかけらを手に吐き出す。

 

「歯が…?こりゃあ一体………どうなってんだ?」


 信じられない物を見たとばかりに呆然とした表情でつぶやく。

 

「もう痛い所は有りませんか?連れが酷いことをしてしまってすみません」


 残りの三人にも治癒魔術を掛ける、骨が折れた者はいないので時間にして一分ほどで終了。

 

 男はギョッと身を竦ませた後に体を背け、ポケットから出したスマホで連絡をし始めた。そうだよ、出来る限り上に伝えるんだ。

 男の落としたタバコの箱から一本タバコを拝借してこれまた箱に入っていたライターで火をつける。時間にして三分半ってところか。電話が終わったと同時に声をかける。

 

「あのう…携帯灰皿持ってませんか?」


「ねぇよ!これだけの事をしてタダで済むと思ってんのか?上に連絡したからな、覚悟しておけよ!」


 セリフまで三下だ、せめて何か一つくらい取柄を持ってほしい物だ。


 電話が終わると同時にワラワラと『如何にも私はヤクザです』と言わんばかりの格好をした男たちが集まって来た。墨が顔や首筋、手首など体の見える範囲に入って居たり、モヒカンだったり、スキンヘッドだったり。

 無詠唱で俺とサリアに防御魔術を展開、男たちは拳銃を威嚇するように構えている。

 もし仮に彼らが発砲したとしても俺たちは服が破れて銃弾が当たった場所が痣になるのが精々ってところだ。

 

「引き上げだ!そのスゲェブ男と女も連れていけ!」


 煙を吐きつくし冷たくなった薬莢をスーツのポケットに突っ込みながら彼が号令を発する。

 こうして彼らに銃口を押し付けられ脅されながら外国産高級SUVに乗せられ、ドナドナされる。

 高速を飛ばして一時間半程来ただろうか、自動開閉する門とか初めて見たよ。

 なんだかすごい雰囲気、広大な敷地に和洋折衷と言うのだろうか、庭には石庭やテラス等設けられており、駐車場は余裕で二百台は止められそうだ。そろそろ尿意が限界に近い、それを伝えると隣に座っていた男に引っ張られて野外トイレへ、家の便器と違ってウォシュレットが付いているしペーパーも柔らかいダブルの物だ、せっかくなのでブリブリと実弾も発射しておく。

 

 俺とサリアは三下の男にエスコートされるままホイホイとついていく、何でもこの男、泥門組という組織の構成員らしい。

 さっきボコした平形というらしい三下に案内され銃眼が設けられた廊下に刀傷や弾痕等があるところを進んでいく、フロントラインかな?

 

 組長直々にお相手してくれるようだ、願ったりかなったり。

 若作りした金髪の爺様が原木削りだしの一枚幾らするか考えるだけで怖い値段がしそうな和風ローテーブルの対面のロングソファーに腰かけている、平形はこの部屋に案内してから下がってしまった。

 

「よくぞ参ってくれた、うちの若衆が失礼な事をしでかさんでしたかな?」


「いやあ、ちょっとした勉強と言う奴ですよ、ハハッツ」


「何でも珍しい手品が使えるとか?この爺に見せては貰えんでしょうか?」


「若返るか、壊れた灰皿を治すか、折れた歯を生やすか、どれが良いですか?」


 シンと押し黙ってから答えが返って来る

 

「ワシに若返りでお願いしたい」


「じゃあそちらに行きますね、距離が離れているとうまくいかないかもしれないので」


 テーブルを迂回して爺さんの隣に行く。


「うむ、分かった、ぜひお頼み申す」


「目は開けてちゃ駄目ですよ~、うまく行かないと大変なので」


 もちろん嘘だ、目を開けてようがいまいが、距離が開いてようがいまいか関係などない、しかしイニシエーションとはそうして享受されるものである、どうだ!俺を敬え!

 

「はい、始めますね~すこし違和感があるかもしれませんが我慢してくださいね~」


 爺さんの顔をじっと見る趣味などない、瞬で終わらせる。

 

「これは…うおおおお」


 魔術をかけた途端爺さんの背丈が拳一つ大きくなった、皴があった肌は若者独特の潤いを湛えている。

 

「はい、御終いです」


 いい年こいて金髪に染めていたのか、黒髪の方が似合っていると思うよ。

 


 施術を終えて刹那、俺も爺さんも同じ答えに辿り着いた。

 

「「これって銭になるんじゃないか?」」


 サリアは何を今更、と言った風に茶など啜っている、そうか。異世界では茶は啜る物なんだね!

 

 若くなった爺さんが口を開く。

 

「もうちょっと、もうちょっとだけ若返らせてくれんかの?金なら幾らでも払う、殺したい奴など居ないか?直ぐに息の根を止めてやれるぞ?」


 殺すのなら自分でできる、金か。まあ貰えるというのだから貰っておこう、広い家も欲しいし、高級車に乗りたい。

 

「そうですねぇ…纏まったお金を下さって、尚且つ俺の仕事に人を貸して下さるのなら吝かでは有りませんが」


「血を吐く思いで生きてきた…金にも部下にも嫁にも恵まれた…ワシは、ワシャ死にとうない!せっかくここまで築き上げたんじゃ!何卒この老体にお慈悲を下され!」


 仕方のない爺さんだな、毒を食らわば皿までと言うではないか、どうせ秘密を知られた以上活用するには下ごしらえが必須、治験を積むのと同じ要領だ、もう十歳位なら良いだろう。

 

「まっすぐに立って目を瞑って下さいね~」


 先ほどの行使から幾分か込める魔力を減らして行う。

 すると変化が、更に肌にハリが出て、これ以上は体が縮みそうなのでこれでおしまい。

 爺さん…いや、青年が大はしゃぎしている、さっきは俺と親子ほどの年が開いていたがいまじゃあ俺より十歳は若い、早速ネットに上げるのだと息巻いている、それをなんとか抑えて貰って仕事の話に移る。

 

「ほうほう、会社を起ち上げて金の換金や今やったみたいに文字通りのアンチエイジングでぼろ儲けするという寸法か?ではウチの従業員にならないか?新部署を起ち上げればゼロからやるより楽じゃと思うんじゃが?」


「概ねそうですね、後は仕入れの際に他人の名前を使わせて貰ったり出来れば良いんですが」


「おうとも!この利茶度、受けた恩は忘れん、連絡先など交換しないか?」


 リチャード?聞き間違えか?…まあともかく連絡先を交換する。ITに強いお年寄り、良いよ。いつだって最新機器を使いこなせる奴が強いのさ、ビジネスと戦争では少なくともこの法則に乗っ取り世界は動いている。

モシンナガンより56式歩槍のコピー品、56歩槍より西側ライセンスの拡張性の高いAK、それより良いのは、マガジンと使う弾薬と動作機構システム以外は全部新規のカスタムパーツで組んだカスタムライフル。


「有難うございます、では子細は後程、ちょっと予定が立て込んでいるので今日の所は帰らせて下さい。落ち着いたらまた連絡します、それと足が無いので帰りの車の手配をお願いします。」


 組長が手を叩くと平形が部屋に入って来る、少なからずサリアに思うところが有る様だ、仕方ない。スレンダー美少女に暴力で飯を食っている奴がボコボコにされたのだ、恨み言の一つ位あっても良いと思う。しかし三下なりに人間が出来ているのだろう、文句をいうでもなく玄関までエスコートなどしてくれる、少し待つと外車の高級セダンが建物の入口に停められる。

 二人で後部座席に乗り込む。

 

「あれって…魔法ですかい?」


 平形が問う、馬鹿正直に答えるつもりなどない。

 

「やだなぁ~ただの手品ですって」


 種も仕掛けもない魔術だ、決して魔法などではない。

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