013 ブサメンと希望の夜明け
その朝、俺は強烈な頭痛と猛烈な吐き気、激しい渇きに起こされた。
ベッドは吐瀉物まみれで、彼女も浅く速い呼吸を繰り返している、すかさず精神統一のルーティンを済ませ自身に解毒魔術を行使、無事正気を取り戻す。渇きは未だ晴れないが一命は取り留めた。
無理やり飲まされた訳でも無いのにこの惨状は何だよ。瓶とかボトルが狭い居室内に散乱している。
彼女に解毒魔術を掛けてベッドの汚れに対して消滅魔術を放つ、ベッドを構成するスプリングや布、人体などは対象に設定しない。
テーブルの上に置かれた財布を確認すると残りが三万を切っている、レシートを確認するとあの後三度も買い出しに出て現在の様な惨状になったらしい、冷蔵庫に残った冷えた炭酸水をグラスに目一杯入れてちゃぶ台の上に乗せ、彼女を起こす。
意識が戻ったのか辛そうに呻く。
「喉がとても乾いたな…水…水をくれないか?」
「どうぞ」
「…お代りだ」
彼女は俺の手からひったくるようにグラスを受け取ると一気に炭酸水を飲み干し、更にもう一杯飲んだ。
「…おはよう」
「はい、おはようございます」
「…準備を整えたら出るとするか」
「ええ、そうしましょう」
地味ながらチートだな魔術、ほとんどの事が出来る。空だって飛べる、昨日確認したけど飛べる魔術があったはずだ。
そんな魔術に頼ることにしよう、貰った金貨60枚をインゴットに錬成する。
金貨を魔術で浮かせてから熱を加え融解させ、インゴットの形にして熱を冷ます。刻印なんかは入れない、そうすると保証書が付いていない盗品だと勘ぐられるからだ。
俺とサリアはさっとシャワーを浴びて髪を乾かし出る、このインゴットの買取に期待したい所。
彼女と二ケツで三十分、やって来るは貴金属の買取を行う質屋さん。
そして衝撃の事実。
純度チェッカーという機械で金の含有量を測る事が出来るらしい、ノギスにモニターやら何やらをくっつけた様な珍妙な機械である。
「こちら、証明書の類が同封しておりませんので買い取りは12300000円になります、何分現金の備えがないため買い取りは後日、という形になりますがよろしいでしょうか?」
店員の声が頭の中を素通りする。40代役職付きエリートリーマンの年収にも等しいではないか。マジで純金だったんだな。
「ではいつなら買い取って頂けますか?」
「最短では明日でも可能です」
俺は震える喉から声を絞り出す。
「明日でお願いします。何時から空いてますか?」
「明日の十時から可能ですね」
「ではその頃に伺いますね」
俺たちは店を後にした。
「なあ、金貨は高値で売れたか?」
「あ、ああ」
高値なんてもんじゃない。これにて生活保護終了のお知らせ。
ケースワーカーは暗示の魔術で何とかしよう。荷物を整理中に金塊を見つけたとか何とか。
換金用の引換券を貰った俺たちは、その足でロイホへ、昨日来たばっかりだから貧乏性が疼いて仕方ない。
でも明日にはドカッと金が入るのだ、ちっとは使っても大局には何も問題ない。
朝食には遅く、昼飯には早い。そんな時間だが開いている。
どうやら回復魔術でも解毒魔術でも二日酔いの影響は完全には癒えない様だ、二人とも喉が渇いているのでドリンクバーは確定だ。
何を頼もうか、胃の中からは完全には不快感は癒え切っていない、先ずは軽い物を腹に落として胃腸の動きを探ることが最重要課題だ。
「先ずは」
「…スープとサラダ、だな」
「それとドリンクバーでしょうか?」
「…それから本格的に注文するとしよう」
卓上のボタンをポチっと押して店員を召喚。
サラダとスープとドリンクバーを注文。
「サリアさん、ドリンク、俺が取ってきましょうか?」
「いや、平気だ。自分で行ける」
二人揃って席を立ち、ドリンクバーコーナーへ。
炭酸は重いのでフルーツティーなる物を調達。氷を入れてストローを刺して席に戻る。
二人で席についてドリンクをチューチューする。
甘酸っぱくてフルーティー。これおいちい。
サラダがとスープが届いた。早速手を付ける事とする。
「では」
「…ああ」
「「頂きます!」」
先ずはサラダだ、スープはオーブンで熱されているのでとてもじゃないが先ず火傷するだろう。
アボカドとエビと葉野菜を頂く、クリーミーなソースがシンプルな具材を立派なサラダへと変貌させている。
これおいちい。シャクシャク、モグモグとやる。二人は無言だ。
段々食欲が戻って来るのを感じる、ビタミン補給終了。
サラダを食べ終えた俺たちはスープに取り掛かる。
コンソメベースのスープの上にバゲットと細く切った玉ねぎ、プツプツと泡立つチーズだ。美味そう。
匙を入れる、具材は丹念に熱されていたのかナイフですら無いスプーンで容易に千切れる。
フーフーしてから一口、二日酔いの体にスープが染み渡る。
ほう、と一息ついてまた匙を動かす。五分と経たずにスープは無くなった。
少し腹に物を入れたからだろうか、食欲が戻って来る。
二人はメニュー表を見ながら考える。
さあ、何にしましょうか。ふんふん、フェアメニューはハンバーグ中心か。
ミックスグリル、カキフライ、エビフライと紅ズワイガニのクリームコロッケ、すき焼き風。
すき焼き風で行くか。
「サリアさん、決まったら教えて下さいね」
「…もうちょっと待ってくれ、どれにしようか目移りしてしまってな」
彼女のこれはどういう何を使った料理なのか、と言う疑問に答えてゆく。結果エビフライとクリームコロッケを頼む事とした。
卓上のボタンをポチっと押して店員を召喚。二人とも付け合わせはパンだ。
二人とも無言で飲み物を飲む、フレーバーティーの香りと糖分に癒される。
さほど時間を掛けず注文が来た。
二人とも木製のトレーに鉄のプレートが乗ったメインが来る、早速食べ始める。
俺はプレートの上に乗った紙鍋に入ったすき焼きを分葱と一緒に摘まみ、温泉卵が入った銅製のカップの中身をかき混ぜて口に運ぶ、それ単体では甘辛いだけの肉に卵の黄身が絡まることにより一味違った美味しさとなる。
それを三回も繰り返すとすき焼きお肉終了のお知らせ、パンと一緒にハンバーグを食べ始める。こちらも同じ味付けがなされており、うまい。
彼女の方はタルタルソースを付けたエビフライを齧っては美味そうに身を捩らせている。
まあ金は有るのだ、食べたくなったらまた来ればいい。
ハンバーグをカップに残った黄身に絡ませて頂く。豚が入っているので先ほどとは少し味が違う。
これを早々に食べ終えてお茶をもう一杯頂く。
サリアが食べ終わるのをじっくりと待つ、彼女は食べるスピードが早くない。何故か?
それは俺と彼女の体の差だ。顔も体も大きい俺は口のデカさが常人の二倍くらい、彼女は背が低く、顔が小さく口も小さい。それを考慮すると俺のペースの1/4位だ。
いっぱい飲んだからトイレが近くなって来た、膀胱は嘘をつかない。おトイレにゴーでございます。
「サリアさん、俺は少し席を離れます」
そう告げて御手洗へ。
「ああ、行ってこい」
男性用便所に入り小便器へ、すかさず臭い腋臭ペニスを取り出して放尿。いっっぱい出たね。
手を洗ってアルコール消毒、席へと帰って行く。
彼女は食事を終えたのかドリンクをチューチューしている。
席に着き彼女に問う。
「食べ終わりましたか?」
「ああ、出ても構わない」
「では」
「「ご馳走様」」
二人揃って店を出る、財布に入っている現金は心許無いが換金すれば小金持ちにはなれる。早く明日にならないかな?
駐輪場は無いので駐車場に自転車を置いている、早い時間と言うのもあってか邪魔にはならないだろう。
自転車のロックを外して賃貸へと金塊を置きに帰る。インゴットの入ったバッグをちゃぶ台の上に置き賃貸を後にする。
そのあと異世界に行く予定を変更して人探しを行うことにする。これからも金を手に入れるならば日本で金を捌く為の伝手も必要だろう。今の俺にはそれが無い。
サリアを連れて繁華街に出かける、炭の入った人を探そう、路地裏でコソコソタバコを吸っているような奴も良いぞ。
「…いったい誰を探しているんだ?」
「そうですねぇ…ありていに言えば俺たちにお金を運んできてくれる人、でしょうか?」
首筋に刺青が入った五十代から六十代と思しき男性が取り巻を連れて囲み、学生服を着た二人の胸倉を掴んで吊し上げ恫喝している。ちょうど探してた所だよ。
「サリアさん、やっちゃって下さい」
「…あの頭の悪そうな奴だな」
「はい、殺してはダメですよ?」
「言われずとも分かっている」
そう言うとサリアは駆け足で男に近づいて行く。