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009 ブサメンとゴブリン

 彼女は両腕が使えるようになったのでちょっと警戒する、次に争うとしたらこちらも魔術を惜しみなく使い殲滅するつもりではあるが、可愛いのでちょっと惜しい。


 彼女は従順にも右腕の傷を作るために使ったナイフをこちらに返してくる。俺は茂みの葉っぱで血糊を落とし鞘に納める。

 

「…右腕の治療の相場の五十分の一だ、これ以上はやれんが受けとってくれ」


 そこで異世界一年生は純粋な疑問。


「治療魔術ってそんなにお金取るんですか?」


「ああ、そうだ。四肢を再生させられる術者など生きている者は片手の指で事足りる。前に故有って流れの回復系魔術士にダメ元で頼んでみたが交金貨で5000枚…フェリス純金貨で2500枚と言われた」


 そう言うと彼女は夕飯代金貨10枚と腕の治療費50枚を袋の中から数えて渡してくる。ずっしりしてるぞ。一枚30グラムほどだろうか?俺の小銭入れには入り切りそうもないのでカーゴパンツの大腿ポケットに入れる。完全にボッタクリだ。


「さて、では俺は帰るとしましょう」


「おい、待て。帰るも何も私はいつも野宿だ、それよりも飲み物と食料を出せ、金は既に払ったぞ!」


「まあそう焦らないで、キチンとしたもの食べさせてあげるから。でも空腹や渇きで倒れられても困るからなぁ…」


 リュックから飲みかけの温い電解質飲料を取り出して渡し、万能栄養食を出す、カロリー、ミネラル、ビタミン、脂質、タンパク質の五大栄養素をバランスよく含んだクッキー状のショートフィンガーブレットだ。箱を開け包装を剥いでから渡そうとする。


「おい人間、この水、蓋が開かないぞ!」


 そうだった、この世界の文明がどれほどかは未だに不明だが未だにスクリューキャップは存在していないのだろう。

 

「悪い、開けるから渡して下さい」


 ボトルを受け取りスクリューキャップを捻り開け手渡す。ほんのり温くなったソレを彼女は片手で蓋を受け取り、もう片方の腕でボトルを持ち、一息に飲み干した。余程喉が渇いていたんだろう。

 クッキーを受け取ると一口で半分ほどを食み、何度か咀嚼すると飲み込む、それを八度繰り返した。

 そしてキャップを閉めると彼女持っていた袋にボトルを仕舞う。


「保存食にしては味が悪くないな…」

 

「まだ喉は乾いていますか?」


 俺は問う。


「…まだあるならもうちょっと飲みたい、勿論水場が遠いと言うなら追加で金を支払うが」


 情けは人の為ならず。自分の分の冷やした電解質飲料が入った水筒を蓋を開けて渡す。

 彼女はボトルを片手で握りもう片腕を腰に当ててゴッゴッと音を立てて半分ほど飲み干した。

 

「何だコレ!雪みたいに冷えている!ウマ過ぎる!」


 俺は子供のようにはしゃぐ彼女を見て微笑む。


 自分の賃貸に帰るために先ずやる事がある。造形魔術で魔力を帯びたペグを作り出しトンカチも創造する。

 近くの木にペグを突き立て、半分ほど埋まるまでトンカチで叩く。

 

「なぁ…なにしてるんだ」


 自称ゴブリンの彼女は問う。

 

「ああ、マーキングですよ。今度来るときは此処を目印にしたいので」


 今度転移した時に転移先が宇宙空間なんかになっていたら流石の俺でもフリーズドライみたいになって死ぬ。そのためにこれは必要な措置なのだ。

 

「そういえば帰るとか言ってたけど移動系の時空魔術でも使えるのか?」


「いいや魔法です。ここに来るときもそれを使ったんですよ」


「魔法だぁ?流石に冗談だろう?ところで私のことはどうするんだ、飯を食わせてくれるんだろう?魔法とやらを使えるとしても人間にこの肌か耳を見られたらリンチからの斬首は確定なわけだが」


「幻術魔術を使うか肌を別の色にするかどっちも魔術で出来きますがどうしましょうか?あと耳は人型に変えましょう」


「肌の色を変える魔術で頼む、それはどれくらい持つ?」


「解かない限りは永続しますよ」


「ホントか?流石に冗談だろう?」


「いえ、事実です」


「じゃあちゃっちゃと掛けてくれ。私は腹が減ってるんだ」


「はい、仰せのままに、お嬢様」


こうして彼女はゴブリン族の特徴を失い、外見は完全に美しい人間に変わった。


 彼女の姿を変えた後、翻訳の魔術と防疫の魔術を掛ける。

 

「これで準備は万端ですね」


 地球への門を開く。すべてを飲み込む漆黒の渦が目の前に顕現する。行先は賃貸だ。

 

「ほお、凄いな。本当に魔法が使えるのか」


 ふふん、どうだ。

 

「じゃあ行きましょうか」


 俺は先に門を潜る、続いて彼女が門を潜る。

 彼女が通ったのを確認し門を消す。


 一国一城、築三十七年のボロアパート。それが俺に許される唯一の聖域だ。

 湯を沸かしアーマッドのアールグレイを湯呑に入れて渡す。俺はティーカップだ。

 明日は金の換金をする事としよう。

 

「なんて言うか…この家は狭いな」


「狭くて悪かったな、貧乏なんですよ。俺は」


 その通り、しかし仕方がないものは仕方が無いのだ。

 なんせ生活保護受給者だからな。低所得者の単身向けアパート程度までしか住居の補助金は出ない。

 しかし金貨六十枚を換金したらちょっとした金額になるはずだ。家とは日本男児の心、いつか必ず持ち家を手に入れるのだ!

 

「…しかし解せんな、部屋はこんなに狭いのに風呂が有るのか?」


「ええ、はい。狭いですがどうぞご堪能下さい」

 

 彼女に風呂に入ってもらう、ドライヤーとシャワーの使い方、体を洗う洗剤の種類を教える。なんでも水浴びくらいしかしたことが無い上に水場を離れて放浪していたためここ数日は水浴びすら行えて無いものだという話。正直臭うが匂いに関しては彼女を責めることも出来ない。

 俺は重度のワキガに加えて最近は加齢臭も漂わせ始めている。彼女が入ったら俺もシャワーを浴びよう、彼女との戦闘でだいぶ汗を掻いたからな。

 

「コレ一体…どれだけの薪を使っているんだ?こんなに湯を使えるならもっと大きい家を構えていても良さそうなものだが」

 

「薪は使いませんよ、薪は煤が出ますし値段もお高い、現代社会では電気かガスで水を温めています」


「本当に入って良いんだな?今から駄目とか言わないよな?」


「一番風呂どうぞ、髪は泡立つまでしっかりとシャンプーを使って洗って下さい」


 それを聞いた彼女は、満面の笑みを浮かべて居室から廊下を通り脱衣所兼洗面所の方へ向かって行った。

 女性と部屋で二人きり、その上お風呂。二日前の俺ならこの妄想だけで十八発は行けたね、いやね、俺の股間には18連マグが装填されているもんで。

 彼女が戻って来た。ドライヤーの音がする。

 

「フウ~!最高だ!」

 

 彼女がシャワーをから上がり髪を乾かしている。いったん髪を乾かすのを止めて貰ってブサメンは脱衣所でフル・フロンタルに。彼女に合図を行いまた脱衣所兼洗面台に戻ってもらいドライヤーでのドライを再開。

 俺は髪留めのゴムを外しシャワーを浴びる。脇の下と性器と肛門付近にもこもこの泡を纏わり付かせ優しく、だが念入りに洗う。性器はチンカスが出なくなるまでしっかりと扱く。これをしなかったせいで高校時代は宗一ンカスとか臭一とか呼ばれてたっけなぁ、教員にも生徒にも目の敵にされフルボッコに虐められ、教室でスピリタスを一気飲みさせられて救急搬送の上に停学処分、デスソースをパンに一瓶かけたものを食わされ胃洗浄の後入院、挙句の果てには悪戯され下着泥棒の冤罪で少年院行。罪を認めなかったと非難され、庇ってくれるはずの国選弁護士にも見放され殺人でもないのに一年も臭い飯を食う事になった。虐めに耐えに耐えてもうちょっとで卒業できたのにな。おかげで最終学歴は中卒だよ。

 これでイケメンならまだ救いがあったのだろう、金持ちのヒモになったりホストクラブで稼いだりできたのだろう。しかし現実は残酷だった。ご尊顔はアルティメイトなブサメン仕様、ブ力は53万でございます。

 魅力はゼロどころか針が計測器の最低値を振り切ってマイナス。

 クソブラックの地雷企業のソルジャーとしてしか雇ってもらえなかった。詐欺紛いのパーティー商法や年寄りを騙す押しかけ販売員に法的にグレーな会社の派遣、タコ部屋暮らしの現場仕事。

 暗い気持ちで風呂場を後にする。髪を乾かしている間、気分は最悪だった。

 

 お互いに身を清め準備を終えて飯を食いに行こうとすると、彼女は袋とナイフと刀を持って行こうとする。

 

「袋と刀とナイフは持って行かないで下さいね。警官に捕まると厄介だし」


「ケイカン…?この世界の衛兵か何かか?刀もナイフも身を守るのに必要だろうし金貨は持っていないと盗まれるかもしれないだろ?」


「この国はこの世界でも片手の指で数えられるくらいに治安が良いんです。どうしてもって言うなら財布だけ持って行って下さい」


「…分かった、金貨だけ持ち歩くことにしよう」


 なんやかんやで話はまとまりドアを開け玄関を施錠する。エレベーターなんて素晴らしいものは無いので徒歩で階段を下って行く

 

「ほう。高い建物ばかりだ、なるほど。本当に異世界なんだな」

 

 最寄りのATMで現金を降ろす。今夜は換金の前祝だ。となれば安いばかりが売りの食べ放題の店は止めてロイホに行こう。

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