キジトラ白の子猫
少しだけ修正して、冒頭部分だけ公開します。
文章量が多いとご指摘をいただきました。
全体の改訂作業をしています。
自身がスマホで文章を読まないので、スマホ向けの長さに再構成すべきか迷っています。
何事であれ、ご指摘の連絡はありがたいものです。ありがとうございます。
小猫が、森から道にでてくる。
柔らかそうな毛並みのキジトラ白。細く長い尻尾をまっすぐに立てて、かろやかに歩いてくる。
道は青く澄んだ小川にそって作られ、轍がついている。小川は森をふたつにわけて、涼やかな音を立てて流れていく。子猫は、河原へと向かうわかれ道に腰をおろした。川原は馬を休ませるように広くなっている。
ちょこんと座った子猫の耳が忙しく動いて、まわりから聞こえる音に耳をすませていた。尻尾が、ゆるやかにふられた。
小川の土手に生えている背の高い草に、身を隠している者がいた。ヒゲ面でむさ苦しい男たちから声がもれた。
「ぐふふ。なぁなぁ、兄貴。その娘って、やっちまっていいんだよな？」
「俺も！ 俺も！」
「だめだ。俺もやりてぇが、ありぁ司教のだ。手ぇだしたら殺すぞ」
「兄貴」と呼ばれた男から、ひときわ大きな体に似つかわしい低く迫力のある声がでた。
「ちぇっ。黙ってりゃあ、わかんねえよ」
男たちから不満げな舌打ちが聞こえてくる。
「そんなわけがあるか。そろそろ来るぞ。静かにしろ。合図するまで絶対にでるなよ」
そう声がかかると、男たちは土手の道に向けて弓をかまえ、剣の柄に手をかけた。
子猫の耳は声のほうに向いたままで、尻尾が忙しく動かされる。
やがて、黒い箱馬車が道をやってきた。先頭は革鎧の護衛三騎、後方にも二騎がつづく。子猫に気づくことなく、わかれ道を川原へとおりていく。
後ろにいた一騎が、馬車にならんできて声をかけた。
「リリアーヌ様、マチアスです。ここで馬を休ませます」
「わかりました。あら、きれいな川ね」
車内からの返事をうけて、御者に馬車をとめさせた。
「馬を休ませるぞ。気をぬくなよ。あたりを見張れ」
マチアスはそう護衛に指示して、馬に水を飲ませる準備をはじめさせた。
御者にも声がかけられる。
「馬に水をやって休ませろ」
従者が、御者台から飛びおりて踏み台を用意した。馬車からおりる中年の侍女に手をかす。
年若い令嬢が、続いて降りてきた。彼女は、たおやかな両腕を頭の上に伸ばして背伸びをした。侍女が、その様子を見て令嬢をとがめる。
「リリアーヌ様、そのようにはしたない格好はお控えください」
「だって馬車は狭苦しいんですもの。さあ、おまえも少し体を楽にしましょう」
リリアーヌは侍女に咲きこぼれる笑顔で答えると、体のあちらこちらを折り曲げて伸ばす。侍女は「やれやれ」といいたげに頭をふったが、自分も腰に手をあてて背を伸ばした。
子猫が、テッテテテと、体を伸ばすリリアーヌのすぐそばまで近づいた。腰をおろしてリリアーヌを見上げ、小首をかしげる。
「ミー」
「まあ、かわいい！」
リリアーヌは、子猫に気づいて声をあげる。
子猫をおどろかさないよう、そーっと近づいていった。子猫はリリアーヌが差し出す指先の匂いを嗅ぎ、おとなしくなでられ、抱きあげられた。
「まあ！ 軽いのね！ あなた、とってもかわいいわ！ 目の色が左右で違うのね。きれいね。あら？ 首輪をしてる。飼い猫なのかしら？ こんな森の中で？」
子猫は、金の小さなメダルがついた首輪をしていた。抱かれても嫌がらずにいたが、急に森を振りかえり、鋭い鳴き声をあげる。
「シャー！ ニャ！ ニャニャ！ ニャン！」
「射かけろ！」
声とともに、矢が森から飛んできた。
カッカッ！ ビィーン！
矢は護衛のすぐ目の前で宙に浮いてとまる。矢羽がビリリッと震えている。馬車の一行は、突然のことに声もでなかった。
「なにっ！ とまった？ くっ、いけぇ！」
男たちが声をあげ、剣をかまえて草むらや木の間からあらわれた。馬車の前に六人、うしろに三人、男たちが走ってくる。
「盗賊だ！ リリアーヌ様をお守りしろ！」
マチアスたちはあわてて、水を飲ませていた馬の鞍からさげていた剣をぬく。弓矢を警戒して、リリアーヌをかこむ円形をつくった。
子猫がリリアーヌの腕の中で、ふたたび声をあげた。
「ニャ！ ニャンニャ！ ニャン！」
いく匹もの猫が、盗賊たちの足もとをならんで走りだした。白猫、黒猫、灰色、茶トラ、キジトラ、サバトラ。さまざまな毛色をした猫たちが、走りながら声をあげた。
「ニャー！」
「ミャオーンー！」
「アーオン！」
「ミギャー！」
「ナァーウ！」
「アゥー、アアゥー！」
盗賊たちが、猫たちの声にあわせてなにかにつまずく。走っている勢いのままに、派手にころぶ。
「ニャン！ テオ！ いま！」
「えっ？」
リリアーヌが子猫の声に、ポカンと口をあけた。
「いくよ！ モルン！」
声をかけた子猫、モルン。返事をした少年、テオが、マントをはためかせて森から飛びだしてきた。
「盗賊は僕らが始末する！ 女性たちを守れ！」
テオはマチアスたちに声をかけ、はしりながら左手で短杖をぬいた。オレンジ色の光が、短杖から美しい曲線を描いて打ち出される。テオにもっとも近い盗賊の、剣をつかんでいる手に当たり炎をあげた。
「ぐわっー！」
盗賊は剣をおとし、炎の手をつかんだ。
テオは右手で抜剣して盗賊の燃えあがる手首を、斬りおとした。
盗賊たちは猫にかこまれ起きあがろうともがいた。
「ニャン！」
猫たちが前足をあげて声をだすと、起きあがれずに尻もちをついてころがる。
テオは、自分の方にころがってきた盗賊の、剣をもつ手を燃やして、手首を斬りとばした。
「ヒィー！」
叫び声をあげ、しゃがみ込んだ盗賊をけりたおす。
次の盗賊も短杖からの光で手が炎をあげたが、痛みに耐えて剣をつきだしてきた。
キンッ！
テオは剣で相手の剣をはねあげ、短杖で相手の顔を焼く。
「ぎゃっ！」
これには耐えきれず、思わす顔をおさえた。その手が鼻ごとテオに断ち斬られる。
ひとりの盗賊が、なんとか体をおこし、猫にむけて剣を振りまわした。猫たちはヒョイヒョイと身をかわすが、盗賊からは目をはなさない。
そこへテオが踏みこんで、上から剣を叩きおとした。そのまま裏刃で腕を長く斬りさき、剣を返して、肘から先を斬りはなした。
盗賊のまわりにいる猫たちに、テオが声をかけた。
「そいつらも、やっつける！」
そう叫ぶと、地を這うように低く身をかがめて、軽やかなステップをふむ。
盗賊たちの真っただ中を、くるくると踊るようにかけぬけた。盗賊たちは顔を斬りさかれ、手首を斬りとばされていた。
テオは動きを止めて、最後のひとり、一番体の大きな盗賊をにらんだ。盗賊たちから「兄貴」と呼ばれていた男は、手下たちがやられていくのをみて、顔じゅうに汗をかいていた。
「みんな、さがって！」
猫たちが、テオの声を聞いて、男から距離をとった。男は肩で息をして、剣をかまえている。テオが、ゆったりとした足取りで近づいていく。
モルンは、リリアーヌの腕から飛びおり、テオに向かって駆けだした。
「あっ！ だめ！ あぶない！」
叫び声にも振り向かず、モルンはテオの背中にとびついて、左肩にかけあがった。
「く、くそっ！」
「兄貴」がテオに向かって剣をふりあげる。同時に、モルンが肩の上で立ちあがる。
「ニャ！」
声とともに、前足から緑色の光が放たれる。光は強い風を生み、「兄貴」は手足を広げて、うしろに吹きとんだ。
「グワッー！」
テオが短杖をつきつけて、一直線に向かっていく。飛ばされた「兄貴」の手を焼く。さらに、ふところに入りこみ、体をくるりとまわして剣を一閃する。
「ぎゃあー！」
大きな悲鳴とともに、剣をにぎったままの「兄貴」の手首がころがった。
お読みいただき、ありがとうございます。
うちの茶トラの子、岩合カメラマンの大ファン。
番組が始まるとTVの前から動きません。
客観的に見れていない部分もあり、ご感想、ご意見などお送りいただけると感謝感激です。
誤字脱字もお知らせいただければ、さらに感謝です。
ブックマーク、よろしくお願いいたします。
