2896 会合
ナナシは今不思議な世界に来ていた。
言葉にするとアホみたく見えるがこの場所を説明するとアホとしか思えなくなるので仕方ない。
先ず説明するなら眼の前の巨大な屋敷だ。
その大きさは途轍もなく大きく、人が優に千人を収容できるほどだ。
だがこの屋敷は紙のようにペラペラで横から覗くと風に揺られて奥には何もないのだ。
「あ〜もう相変わらず目が痛くなる作りだよな此処」
頭を掻きながら門を開けるとそこに広がっていた景色もまた可笑しい。
木造アパートの一室で中央には片方にルーペを付けた歯抜けの老人が一人、ナイフをいじっていた。
それだけでもお腹いっぱいなのに更におかしいのは天地が逆になっている事だ。
「よぅ坊主ぅ〜」
「おう、鑑定頼むわ」
ナナシはナイフを投げ渡し、近くの棚に置いてあった本を手にした。
そして一頁捲ると本を閉じ棚へ戻し、また別の本を手にした。
「おいジジイ、何だよこれ」
「あぁ?ただのエロ本だろって童貞にゃキツイか」
「刺すぞ!」
「カッカッカッ、女は五十路になってから
それすら解らねえガキに刺されたって死にゃしねぇよ」
笑いながらルーペを弄る男を傍目に適当な雑誌を取り出した。
それは週刊少年ジャン○の創刊号で、彼等が歴史を常に行き来している事がよくわかる。
「今回は三体か、んじゃこんなもんだなぁ」
男は狐顔の人間が掘られたコインを三枚置くと忌々しげに睨み付けるナナシ。
「こんなんじゃ蕎麦一杯しか食えねえよ」
「なら蕎麦食って飛ばせ」
「クソ!こんなんだからババア共は嫌われるんだっての」
男からナイフを奪い返すとズカズカと歩きドアを蹴り開いた。
そしてその先には食堂らしき施設に繋がっている。
頭が痛くなってくる世界だ。
ナナシは適当な席に座るとテーブルを指で二回ノック。
それを聞きドラム缶に手足を付けた様なロボットが来た。
「ゴ注文ハオ決マリデスカ?」
「蕎麦」
「温デスカ冷デスカ?」
「ザル」
「カシコマリマシタ」
コインを三枚投げ付けため息を吐くナナシ。
全財産で食べられるのがざる蕎麦だけなのが悔しいのだろうか。
そしてロボットが厨房に入ると入れ替わる様に女性型のアンドロイドがざる蕎麦を持ってきた。
「お待たせしました貧乏人、こちらざる蕎麦になります
なけなしの財産で注文したそれを噛み締めながらごゆっくりどうぞ」
「そりゃどーもクソポンコツ、壊される前に失せろっての」
注文の品が届くなり謎の罵倒だが何時もの事なのか大して気にしていないナナシ。
彼はそばを啜りながら次の仕事へ思いを馳せるのだった。