9.いよいよ毒の海へ
カメキングさんと一緒に泳ぐ旅は楽しかった。
世界中のことを面白可笑しく話してくれた。
カメキングさんくらい大きくなるとヒトは攻撃をしてこないらしい。
『マーヤ』のヒトの話をするとカメキングは笑いながら
「あいつらの武器ではこの甲羅へほんの少しも傷付けられないさ。
少し前にそこを通った時は、もうすごく少なくなっていたよ。
確かもう3人くらいになっていたなあ。
もしかしたらカニ兵にやられてしまったのかもしれない。
この星でヒトはもう生き残れないかもしれない。
昔はものすごくたくさんいて、
我々海の生き物はよく殺され食べられたらしい」
「そんなに強かったのになぜこんなことになったのかしら」
「よくわからないけど、この星から嫌われたのかもしれない。
それとヒト同士がお互いを殺し合ったらしい。
でもこの星に愛されていれば我々のように生き残ったかもと感じたよ」
「嫌われた・・・そんなかわいそうに・・・」
「私のおじいさんから聞いた話だけど、たくさんいたヒトが
この星の空気や水や陸を汚して最後は自分たちが困ったらしいよ。
もちろん我々海の生き物だけでなく
陸の生き物や植物もみんなほとんど居なくなったからね。
その時は、この星はもっと海が狭くて陸が多かったそうだ。
そのうち、大きな星、
この前の空を駆け抜けた星よりもっと大きな星がこの星に近寄って来た。
そのためこの星がひっくり返って
そのおかげでこの山よりも高い波がこの星の上を何回も回ったらしい」
「かわいそう、そんなことになったらリクの生き物は死んじゃうね」
「いや、陸だけでなく海の生き物もたくさん死んでしまった。
その結果、この星のほとんどが海になったのじゃ」
「その星に最近になって毒の星が降って来たじゃ」
「毒の星?」
「そう、その小さな星が作る毒はこの星の海に住む生き物を殺し始めた」
「それでお父さんやお母さんや他の生き物たちが
必死で海の水を回してこれ以上海へ毒が広がらないようにしてるのね」
「そうじゃ、みんなもう疲れ切って来ている。
このままではこの星の海の生き物も死に絶えてしまう」
「何とかならないのかしら。
毒さえなければみんなで仲良くできるのに」
「その毒が敵には必要らしいから難しいのだ」
「このお空に彼らが棲める星はもっと他にはないのかしら」
「さあ、わしにはわからない。
あれほどたくさんあるのだからそんな星があってもいいな」
「でしょ?そうなれば小さな星をその星へ飛び立たせるのに」
「そうじゃな、でもその方法は誰にもわからないのではないかな?
もしわかっていたらあいつらもそうしてるだろうからなあ」
「そうなのね・・・
何とかみんなが傷つかないで生きていければいいな」
「そうだな」
ペン隊長から
「キキ、いよいよ毒の海が近づいてきたよ。カメキングも気を付けて」
「おお、わかった。
ダイオウイカ将軍も前より大きくなってるかもしれんな」
「サメ将軍は、我々にまかせてください。
あいつらは馬鹿だから血の匂いを嗅ぐと敵も味方も無くなるから」
「そうそうカメキング、
シロナガスクジラ族、イッカク族、イルカ族より
一緒に戦いたいとの声が届いています。
我々ペンギン族の王より
援軍をこちらへ送るとの連絡が来ています」
「それは心強い。
みんなで力を合わせて奴らをやっつけよう.
キキ、危ないからお前は私に口の中にいなさい」
「カメキング、ありがとう、でも私は大丈夫」
「ここから先は毒水が濃くなるのだぞ」
「はい、わかっています。
でもこのペンダントがそう言ってるのです」
「確かにお前の周りには毒水が近寄っていないようだ」
「このペンダントから何かが放射されているのかもしれません。
この宝石が必要な場所まで私を導いてくれるはず」
「そうかもしれない、だが心配だからワシの近くから離れるなよ。
これからの海域はサメ将軍の縄張りだから気をつけなさい」
「はい、わかりました」
しばらく泳いで行くとキキのお父さん達と合流した。
「キキ、なぜここに?
フジにいたのではないのか?」
「ううん、私だけこの宝石に導かれてここにきたの」
「ほう、奇麗な宝石だな。優しそうな光だ」
「この宝石はトキオの優しいヒトから貰ったの。
それから夢にこの宝石からお母さんが出てくるの。
クラゲみたいだけど、とても優しい笑顔のお母さんなの」
「ふーん、不思議な宝石だな。
もしかしたらその宝石が敵の探してる宝石かもな・・・」
「そうかもしれないわ。
でもいくらこの鎖を引っ張っても外れないのよ。
もし敵に渡したらどうなるのかな・・・」
「その結果は誰もわからない」
「でもねお父さん、
この宝石が私に呼び掛ける声でわかるの。
優しいお母さんの心が・・・」
「お前の感じるままに、お前の思いのままに行きなさい。
お前が生まれた時、
白い身体のお前を見た長老が言ってた事を思い出した。
我々のイルカ族の伝説に出てくる『救世主』になる可能性があると、
お前はとても賢く優しいイルカだ。
お前のことをお父さんもお母さんも誇りに思ってる」
「私はこの宝石の声に従って行きます。
もし私に何かあっても悲しまないで下さい。
私はこの星の細胞の一つになるだけだから・・・
お父さんも皆さんも気を付けて」