7.再びトキオへ
キキ達は、南の海での戦いを見て暗い気持ちになって北上した。
キキには、角に串刺しにされ小さく真っ白になったカニ将軍の姿は悲しかった。
いくら敵とは言え、仲間を切り刻んで殺したとは言え、酷く悲しかった。
同じ星の仲間達なのに、お互いが憎み合って、殺し合って、傷つけあっている。
やがて、キキ達の故郷の高い崖に囲まれた『フジ』が見えてきた。
近くには、友達だったイルカ達も集まっている。
彼らはこの海の西側の奥へ行っていたらしい。
奥の海では「サメ隊長」が毒海の守りに入っており、
こちらの姿を見掛けた途端、巨大サメ兵が襲ってくるらしい。
その海域にある島にもうヒトはいない。
ある日、無数の巨大カニ兵が上陸し、全てのヒトは襲われ殺され食べられた。
武器が尖った角しかないヒトは硬い甲羅のカニ兵の敵ではなかったのだ。
ただその海域に行く前にペンギン島があるらしい。
その島は煙の出している山の島で、
イルカ達の島『フジ』のように周りが
サンゴ礁で囲まれており多くの小魚が棲んでいる。
ペンギン達は各々の習性に従って
島中に営巣地を作り、子供達も多く生まれており、大きな国になっている。
彼らは陸上でもカニ兵よりも素早く動くことが出来るし、
海中でも鳥のようにすばやく動き鋭い嘴でサメ兵を攻撃するため、
そこにはカニ兵も上陸できず、サメ兵も攻撃されて逃げ帰るらしい。
生まれ故郷『フジ』の中には、
まだ満月じゃないから入れないが、
中に居るみんなに声をかけることはできた。
「お姉ちゃん、大丈夫だった?」
「私も早く外に出て冒険したいなあ」
キキとリリの妹や弟たちの声が返ってくる。
みんな元気そうでキキは安心した。
しばらくそこにいると、
大気を震わせる音が聞こえ、空と海が揺れた。
長老のジジが
「北のトキオ方向からじゃ。何があったのじゃ。みんな注意しなさい」
との声が聞こえてきた。
「北のトキオで何が・・・」
キキはトキオの優しい目をしたヒトの事が気になった。
なぜか胸に不安が渦巻いている。
もしかして残忍なカニ兵に殺されたのではないか?と怯えた。
トキオの目印の海面から突き立った赤い岩と白い岩が見えてきた。
ヒトが居た島の中央にある山から真っ黒の煙が上がり、
山から砂浜まで真っ赤なモノが流れてきている。
その真っ赤なドロドロのモノが海水へ触れると
『ジュッ』と音を立てて真っ黒に変わっていく。
それに伴い海水がとても熱くなってきて火傷しそうだった。
ヒトの住んでた家は燃えて真っ黒の炭になっている。
そんな時、島の周りを見ていたシロが
「あの沖のフネにヒトは居ないかな?」
「どこ?どこ?」
キキが急いでその方向に急いで泳いだ。
あの優しそうな白い髭のヒトがフネに横たわっている。
キキは
『キュキュー(こんにちわ)』と叫んで大きくジャンプした。
ヒトは、頭から血を流しており、全身の皮膚もどす黒くなっている。
もう起き上がれないみたいでゆっくりと手を振っている。
キキは以前のヒトの村の景色を思い出した。
家から小さなヒトがたくさん砂浜に集まってきた。
みんな笑顔でキキ達へ手を振っている。
やがて奥から助けたヒトが歩いてきた。
片足が不自由なのか歩きづらそうだったが、元気そうに手を振っている。
「マーヤ」のヒトと違って、ここのヒトに危険な感じはしなかった。
ヒトはキキ達のご飯でもあるお魚を、『アミ』と呼ばれる物で取っている。
キキ達へも取れ立ての美味しいお魚を投げてくれた。
小さいヒトは砂浜から海に入ってきて、
キキ達の身体を優しく触ったり一緒に泳いだりして遊んだ。
私達と違って早く泳ぐことは出来ないが、物を掴める便利な手があった。
あの優しい笑顔の小さいヒト達はどうしたのかしら・・・
シロとシャーは、
ヒトのシマの周りを回ってヒトの姿を確認したが見つからなかったらしい。
キキは、一人だけになった白い髭のヒトの近くで寄り添った。
お魚を捕まえてはヒトに渡すが、もう動かず目も閉じてしまっている。
キキはとっても心配だったからフネに寄り添ってずっと声を掛けた。
やがてヒトが
「最後までありがとう。
君のおかげで幸せな最後を迎えられた。
これは空から降って来た宝石だけど、
昨夜、この石の精が夢に出てきたんだ。
これを君に渡しなさいと言っていた。
この宝石には意思があるようだ」
ヒトは、首に架けている銀色の鎖に付いた宝石を手に持った。
とたんに石が淡い紫色に光り始めて、
キキの目の前に浮いて停止した。
その光は、優しそうな輝きで持っていたヒトを守ってる様に感じた。
鎖も白い燐光を発するように光りはじめ長く伸びて行く。
そして、その光る鎖はキキの首筋に掛かると身体にピッタリと巻き付いた。
キキの胸にそのペンダントが掛けられると淡い紫色の光がふっと消えた。
それを見届けた様にヒトの目は静かに閉じられ、
その口から最後の細い息が吐き出された。
フネは少しずつ水が入ってきて徐々に沈んでいく。
キキは、優しかったヒトを送るように大きくジャンプした。
『たとえ死んでも、このヒトも私達もこの星の生き物の一部になる』と叫んだ。
キキは疲れるまで何度も何度もジャンプしてヒトを見送った。
その後、どんなに引っぱってもこのペンダントが外れる事はなかった。