6.バルーの目覚め
ここで時間は過去に遡る。
ドリームアイランドの上空を横切った隕石は、
この星で1カ所だけある大陸の狭い海峡へ炎を上げて落下した。
その勢いは地表を大きく削り窪ませ丸く大きな窪地を作り、
その熱量はその場にあった海峡の海水を一瞬で蒸発させ、
核兵器何万発分の威力と考えられるその爆発力は
その大陸に住む細々と生きてきた陸上生物のほとんど全てを壊滅させた。
抉られた地面へ周りの海から水が流れ込み
自然と丸い岩に囲まれた地形ができた。
それは天然の要塞のようでもあった。
しばらく経つとその場所で異変が起こり始めた。
その湾の海水が紫色に変色し始めたのだ。
その海水に触れるとそこに棲む海の生き物たちが動けなくなりそして次々に死んでいく。
ただ不思議なことに一部の生き物は生き抜き、
なぜか狂暴化して身体が巨大化し、体色が紫色に変色し始めた。
紫色に染まった湾の底から声が微か漏れてくる。
「ああ、よく寝た。
お父さま、お母さま、おられますか?」
「・・・」
「あれっ?おられないのですか?」
「・・・」
「おかしいなあ、確か今まで一緒にいたはずなのに・・・
お出かけしてるのかな?
ここはどこなのかなあ?
それはそうと星の問題はどうなったのかなあ」
それに応えるかのように、近くにある水晶が輝き始めた。
輝く水晶から母親らしき姿が映し出された。
『私のバルーや、可愛いバルー王子や、
あなたがこの映像を見ているという事は、
私たちから遠く離れた星で目覚めたということですね。
どのような星ですか?
母は心配しています。
あなたが生きていける星をコンピューターに指示し
固い隕石の乗り物へあなたを眠らせて
あなたが生きていくことのできる装備を整えて送り出しました。
以前、あなたにはお話しましたが、
私たちが住んでいた星は太陽活動が激しくなりすぎて
星の温度が高くなり水分が無くなり始めたのです。
水棲生物である私たちは将来を危惧しました。
このままでは我々一族は絶滅すると考えて、
私たちの希望であるお前に
我々の棲むことのできる星を見つけて欲しいと思い送り出しました。
何とか私たちが絶滅する前にお前にその星を見つけて欲しい。
お前を乗せた乗り物には、私たちの星への地図が入っています。
お前に私たちの希望を託します」
「そうだったなあ。しかし、ここはどこなんだろう?」
コンピューターが光り始め
「この星は銀河星雲太陽系地球です。
星の構成成分は我々の星と同じもので重力も同様です。
この星の地表約95%が海であり、
我々の生態系としては最適ですが
我々の生存に必要な成分である『パープリューム』がありません。
現在この星の物質から『パープリューム』を合成し、海へ溶け込ませています。
しかし、『パープリューム』は、この星のほとんどの生体には毒として作用し、
一部の生物には細胞変異を促し、巨大化させ、精神を狂暴化させるようです」
「『パープリューム』の影響を無くしたり緩和することはできないのか?」
「生物種として遺伝子構造が異なるため不可能です。共存は不可能です」
「今は、出来ているじゃないか?」
「現在は、この湾状の海域でのみ何とか高濃度にしている状態で、
今後、バルー様の一族を呼び寄せるとなれば、
この星の海全てに『パープリューム』を溶け込ませる必要があります」
「そうなればこの星のほとんどの生き物は死に絶えるのか・・・」
「数種類の生き物は生き残ります」
「うーん、僕としてはそんな状況は好まないのだが・・・」
「では、この星を出て行き、
再度、新しい星を見つけるしかありません」
「そうできないか?」
「残念ながら、この星の巨大な引力と大気摩擦で
この宇宙船の外壁や危機は相当に傷んだため
修理するのに相当に時間かかりますし、
次の星へ行くために必要な『星の雫』を紛失しています」
「『星の涙』が?なぜ?」
「この星へ落ちた時、表面温度が想定より非常に高温となり、
外壁の一部が溶けてしまい、
『星の雫』を保管していた場所に穴が開いたようです。
『星の雫』は、この星のどこかにある筈なのですが」
「『星の雫』は、王家の秘宝だから絶対に見つけなければいけない。
何としても探し出しなさい。この星へもあの石の導きで来たのだから」
「はい、今、この星の我々の味方となる生物に探索を掛けさせていますが
広い星のため全く見つかっていません」
「あの秘宝は、自らの意思を持つ石だから必ず戻ってくるとは思うが・・・
もしかして自らの意思でこの船から出て行ったのだろうか・・・」
「それは私にはわかりません。現在、探索を掛けています」
「わかった。何とか見つけてくれ」
「わかりました」