4.ニューヨで初遭遇
キキ達は、緑色の大きなヒトの岩の場所へ着いた。
そのヒトの岩は、顔が海面から出ており一本の手を上にあげていた。
身体の表面には海藻や貝殻でいっぱいだった。
その時、
「君達、ここより東へは行ってはいけないよ。
ここから東側は毒の海の影響が出て来ている海だよ」
大きな身体に白と黒の模様を持ったシャチが声を掛けてきた。
「僕はシャチ族の王子、シャーです。皆さん大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。大丈夫です。毒の影響ってどんなの?」
「我々もその水を飲むと苦しんで死んでしまう。
そうじゃない生き物は身体が大きくなって紫色になって襲ってくるんだ」
「ここらはまだまだ毒が薄くてほとんど心配ないけど
海流の影響で毒がたくさん含んでる場所があるから注意してね」
「はい、気をつけます。このヒトの岩はいつからあるのですか?」
「僕達の長老に聞いても覚えていないくらい昔からあったらしい。
その時は、ヒトはたくさん居たらしいよ。
でもある時、すごい大きな波や揺れが続いてこの星を無茶苦茶にして、
ヒトとか海で暮らせない生き物は死んだらしい」
キキ達はその大きな岩の周りでご飯の小魚を食べてしばらくいた。
キキ達がお昼寝をしている時、リリがついつい楽しくなって遠出をした。
「キャー、助けて」
リリの悲鳴がキキ達に届いた。
キキ達は急いでリリの元へ泳いだ。
なんとリリはリリと同じ大きさのタコに尾を掴まれていた。
そのタコは普通のタコよりとても大きな身体で紫色だった。
タコの足の数本が海底の紫色の岩穴へ繋がっている。
このままだとリリはそのタコの巣に連れ込まれてしまうかもしれない。
いつもはユーモラスな表情のタコなのに、今はとても狂暴な目つきになっている。
「僕に任せろ」
カクがタコの方へ向かっていく。
「えい、これでもくらえ」
カクの長い角がタコの身体に浅くは刺さるが、
身体が柔らかいため深くは刺さらない。
リリも必死で泳いで逃げようとしているが徐々に引き寄せられていく。
キキはその時、カクの言葉を思い出した。
『確か、毒の無い所に放すと元に戻るって言ってた』
キキはシロへ
「シロ、私に考えがあるの。一緒にやってくれる?」
「いいよ。早くしないとリリが・・・」
「じゃあ、私とあの近くに行って、奇麗な海水をあのタコさんにぶつけて欲しいの」
「???わかった」
シロは大きくお腹いっぱいに海水を吸い込むと
頭の天辺をタコに向けて強く噴き出した。
タコの居た巣の辺りに淀んでいた紫色の海水が徐々に薄くなり、
それに伴ってタコの体色も徐々に紫色が抜け始め身体も小さくなってきた。
やがてタコはリリよりも小さくなってきて、
リリの尾を放して巣穴へ急いで戻って行った。
みんながホッとしたところ、しばらくすると紫色の水の奥より
シロよりも大きな全身紫色の斑紋の入ったウツボが鋭い牙を剥きだして顔を出した。
「おのれ、何者、バルー様に歯向かうのか」
「お前こそ何者だ。何のためにそんなことを」
「この星をバルー様へお渡しするためにしているのだ」
「みんなが毒で死んじゃうのよ。ひどいじゃない」
「そんなことは知らない。
我々は生きているしその毒のおかげで強くなっている。
ホオジロ将軍様の命令だ。敵対するものは全て殺せとな」
「キキ、リリ、僕達が戦うから君たちはこの海から逃げなさい」
「だってそれじゃあ、あなたたちが大変なのに」
「わかってる。悪いけど君達では戦力にならないから逃げてくれ」
「わかった。必ず私たちのところへ戻ってきてね。私たちは南へ行くわ」
「南だな。わかったよ。先に行っておいて」
キキとリリは、
後ろ髪を引かれる思いで振り返りながらその海から急いで逃げ出した。
シロとカクとシャーと巨大ウツボの戦いが始まった。
クジラ族、シャチ族の皮膚がいくら厚いと言っても
巨大化したウツボの鋭い牙を跳ね返すことは出来ない。
ましてやその牙に噛まれたら毒が身体に撃ち込まれてしまう。
いかに噛まれずに撃退しないといけなかった。
ただウツボ隊長の方も
毒の守りの無い海へ追いやられれば勝てない事はわかっている。
突然、なぜか周りの海域に紫色の水が集まり始めた。
その時、紫色の水の奥から声が響いてきた。
「ウツボ隊、何をしている?そんな子供に何を手間取っている」
ホオジロ将軍直属のサメ兵が大量の毒水を飲みこんで、
シロ達を囲むように毒水を吐きながら回り始め海流を作り始めたのだ。
「ホオジロ将軍様、有難き幸せ。早速全員殲滅いたします」
しかし、その紫色の海流が突然乱れ始めた。
「シロ、無事だったか?」
「父さん、来てくれたの?」
「ああ、仕事の交代時間で偶然ここを通ったところ、お前達の声が聞こえた」
「お前達は誰だ。我々に歯向かうのか」
「うるさい、ウツボやサメの分際で何を言ってる。
ほれ、いつもの様に小さくなって逃げてもいいぜ」
「なにー、くそー、多勢に無勢では。皆の者、引き上げるぞ」
「ずっと、あの海の底に居ればいいんだ。弱いくせに出てくるんじゃない」
「うるさい、今日はお前達に譲ろう。今度会ったら容赦はしない、覚えておれよ」
「お前達こそな。この綺麗な海に出てくるなよ」
戦いは突然に終わった。
「お父さん、ありがとう。じゃあ、また冒険を続けるね」
「今後、奴らと戦う時は、綺麗な水を掛ければ小さくなるからそのつもりでいなさい」
「はい、わかりました。では、イルカのお友達が待ってるから南の海へ行くね」
「おー。オースか?あそこにはサメがいるからな」
「サメね、わかった。気を付けるね。行ってきます」