3.海の生き物たちの戦い
キキ達はさらに北へ向かい泳ぎ続けた。
少しずつ海水が冷たくなってきているのがわかる。
シロが
「このまままっすぐに北へ向かうと僕や君達の御両親のいる海に出るよ」
「そうなの?じゃあ、応援に行ってみたい」
「わかった。じゃあ、僕が案内するよ。
途中ですごく厚い氷の海を通るから驚かないでね。
とても危ないからそのつもりでね」
「氷って何かしら?
よくわからないけどそのつもりで行くわ。
シロ、よろしくね」
「それと、もしかしたら新しいお友達にも会えるかもね」
「だったらいいな。楽しみ。ねっ、キキ」
「そうね、リリ」
海の表面が冷たくなり、
木の葉みたいな形の氷という固く冷たい水が増え始めた。
こんな小さな氷が集まってシロの身体よりも大きくなると聞いて驚いた。
少しずつ黒や色々な模様のアザラシ達がその大きな氷の上で寝そべっている。
ジジから彼らは海底の石をお腹の上に置き、それで貝を割って食べると聞いていたが
本当にその通りだったのでキキ達は驚いた。
ヒトのように石を使って食べるなんてすごいと思った。
海から出ている岩が白くなってきて厚い氷が浮き始めた。
小魚の餌のプランクトンも多いため、目の前を小魚が群れなしている。
キキ達は食事を始めた。
お腹一杯になってゆっくりとしていると
突然、近くの海面に鋭く長い角が突き出た。
それを見て、キキとリリはすごく驚いた。
シロが笑いながら
「やはり来てくれたね。僕のお友達のイッカクのカクだよ」
「イッカク?」
「こんにちわ、シロのお友達のカクだよ。よろしく」
「こんにちわ、私はキキ、この子がリリよ」
カクの大きな黒い精悍な身体に真っ白の長く鋭い角が特徴的だった。
「ここを越えて行くと、君達や僕達のお父さんやお母さんが必死で働いているよ」
「そんなにたくさんの大人が?」
「そう、その水の中に我々の毒となる成分が含まれているから、
僕達子供にその毒を触れささないため、
みんなで海水を掻いて渦を作り、毒を閉じ込めているのさ」
「そんなに酷い毒なのね」
「そう、みんな仲間が死んじゃった。でも生き残ってる生き物もいるよ」
「じゃあ、その生き物に協力して貰ったら?」
「いや、その毒に侵されたら身体が紫色になって、
すごく大きくなって、とても狂暴になって仲間を襲うんだ」
「どんな生き物が生き残ってるの?」
「ウツボやカニやタコやイカが生き残ってる」
「その生き物が大きく紫色になってるの?」
「そう、襲ってくるから僕達一族が守っているのさ」
「その鋭い角なら大丈夫ね」
「うん、だけど彼らも毒の無い海に戻すと元の優しい彼らに戻るんだ。
彼らも毒におかしくなってるだけだから、本当は傷つけたくないんだ。
だから僕達としてはこちらに寄せないように脅すだけなんだ」
「その毒さえ無くなれば、この海が元の優しい海に戻るのね」
「そう、だけど誰もこの海の中心部まで行った事はないから
なぜそうなったのか、誰もわからないんだ。
ただ、この前、大きな星が海に落ちてからこの毒が広がったから
その空から落ちてきた星が原因だとしか考えられないって大人達は言ってる」
「ああ、あの大きな星ね。今も覚えてる。怖かった」
「そうそう、僕も眠ってて、驚いて、跳び起きてしまったよ」
とシロが思い出すようにつぶやいた。
そこからもっと遠くにみんなで進んでいくと、
「みんな、がんばれー、もう少ししたら交代してご飯の時間だよ」
と、キキのお父さんの声が聞こえてくる。
「おう、あと少しで交代か、がんばるぞー」
とリリのお父さんの声が聞こえてくる。
「お父さん、お母さん、がんばって」
「お父さん、お母さん、ありがとう」
「おう、お前達、来たのか?
お前達は子供だからこっちへは近づくなよ」
「わかったわ」
「おーし、じゃあ今から交代するから、みんなお疲れ様。
しばらく、ご飯を食べてゆっくりとしてくれ」
今までのイルカ達の群れが、異なるイルカ達の群れと交代した。
キキとリリはお父さんとお母さんのそばに行って身体を摺り寄せた。
「お前達、よくここまで来たね。もう少しで大人かな?」
「ねえ、ジジが言ってたトキオに行ったよ。
赤と白の大きな岩が、角みたいに海から出てた。
海の中には四角の穴の開いた四角の大きな岩が一杯だった」
「そう、あそこは良い目印になるから覚えておきなさい。
あの赤と白の岩から南に行くと私たちの島があるのよ」
「わかった。途中ね。ヒトと会ったよ。
溺れていて困っていたから助けてあげたんだ。笑って喜んでいたよ」
「えっ?そんな優しいヒトばかりでないから気を付けるんだよ。
特に長い尖った角には気を付けて。
投げてくるからね。それが刺さったら死んじゃうのよ」
「わかったわ。そんなに怖いの?今後は気を付けるね。
私たちはこれからジジの言ってたニューヨとか色々な場所に行ってみようと思うの」
「それは良いことね。色々と経験した方がいいわね」
キキ達は冷たい海から東へ泳いで行った。
途中、海底に多くの長い牙が横たわる場所『シーベ』を横切った。
子供クジラのシロくらいの大きさの骨がたくさん海底に眠っている。
それはキキの身体くらいの長さの牙でイッカク族のカクの角と同じくらいの長さだった。
こんなに大きな生き物が昔リクには生きていて死んだのだと思うと悲しくなった。
キキ達は昔この星にどんな異変があったのかを考えたが想像もつかなかった。
あんなに大きな身体の生き物さえ生き残れない異変って・・・
しかし、今、自分たちの住む世界にも
もしかしたら同じ異変が迫ってきているのかもと思うと怖くなった。
そこからはちょうど東へ向かう海流があったので夜はそれに乗って眠りながら移動した。
私達イルカやクジラ族は片目ずつ交代で眠ることができるのでずっと泳いだままだった。
もちろん、外敵が入ってこないシマの安心な入り江が見つかれば
そこで両目を瞑って熟睡したけど、別に片目ずつでも良かった。