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12.|星《うみ》の彼方へ

カメキングとダイオウ将軍の戦いが始まった時、

キキへ宝石の声が届いた。

『キキ、ここから離れて、あなただけで奥へ進みなさい』

キキはその声に従った。

キキの前には多くの敵も味方もいたが

なぜかキキには気付かないしその身体に触れる事も無かった。

キキはひとりだけで深い紫色の海の底へと進んでいく。

奥に突き当たると大きな岩があり、

そこから紫色の水が湧き出ている。

なおも奥へとキキは進んで行く。


奥には大きなクラゲのような生き物が水中に浮いている。

「誰だ」

「こんにちは、私はキキと言います」

「君は誰だ?

 ん?

 その胸元の宝石は『星の雫』じゃないか。

 君が持っていたのか・・・」

「はい、トキオのヒトがお空から落ちて来た時から持っていたみたいです。

 その優しいヒトが亡くなる前に貰ってから、

 この石の声に従ってここまで来ました」

「そうか、優しいヒトにな・・・、

 お前は、イルカなのにこの水が大丈夫なのか?」

「ええ、なぜかわかりませんが、

 この石が守ってくれてるみたいです」

「この宝石は、

 我が一族の秘宝で自ら意思を持つと言われているんだ」

「そうみたいです。時々、私に語りかけてくれています」

「きっとその石がお前を導いたのだな。

 君の心が『星の雫』の意思かもしれないなあ」

「君はどうしたいのだ?」

「あのー、あなたのこと、どう呼べばいいですか?」

「バルーでいいよ、

 君はその石に選ばれた存在だから認めるよ。

 今、外の戦いはどうなってる?」

「はい、多くのこの星の仲間がお互いを殺し合っています」

「君はそれをどう思う?

 憎い我々が死ねばお前は嬉しいか?」

「ううん?

 私は、とても悲しいです。

 この星の仲間同士なのに

 傷つけあって殺し合ってるのを見るのは嫌なんです」

「そうだろうな。

 僕も彼らには傷つけあってはいけないと言ってきた」

「えっ?そうなんですか・・・」

「最初からみんなには仲良くしなさいと言ってきているんだ」

「なら、どうしてあんなに狂暴になったのかしら」

「もしかしたら、この紫色の成分『パープニューム』が原因かもしれない。

 この成分は僕の身体には必要な物で無ければ死んでしまうんだ。

 でもこの星の生き物の一部には巨大にさせて狂暴にさせるらしい」

「今まで見て来た限りでは、そうみたいです。

 紫色の水が抜けたら小さくなって大人しくなっています」

「やはりそうなのか・・・

 僕はみんなと仲良くしたいのだが、無理なのかなあ・・・」

「バルーさん、どうしてこの星へ来たのですか?」

「眠っている間に気が付いたらこの場所へ来ていた。

 僕の居た星はここからは遠い星だ。

 その星はこの星の様に水に覆われた星だったけど、

 我々の太陽が古く大きくなってしまい、

 とうとう暑さで水が蒸発し始めたんだ。

 このままでは一族が死に絶えてしまうと言われ始めて、

 新しい星を見つけて、

 一日も早く一族みんなを移動させないといけないんだ。

 この星の太陽はまだ若いから、

 僕達の太陽と同じになるにはまだまだ時間がある。

 だからその石『星の雫』の導きでこの星に来たんだ。

 この前、やっとみんなと連絡が取れて、

 何とかみんな生きてるようで安心したけど

 もう水の量が半分になったと言ってきている。

 ここにみんなを呼びたいけれど呼べば争いになる。

 再びこの星を飛び立ってどこかに行くにも、

 今は外壁の修理中で飛び立つこともできない。

 それに『星の雫』が無いとどこに行っていいのかもわからないんだ」

「じゃあ、この石をお返しします」

「ありがたいと言いたいが、

 まだその石の意思で君の身体にいるようだ。

 もし必要ならばすぐに離れて僕のそばに来る筈なんだ」

「私もバルーさん一族と仲良くできたらいいなと思いますが、

 今までの争いであまりに多くの生き物が殺し合ってしまいました。

 そのためにみんな怒りの心を抑える事が出来なくなっています」

「もしかしたら、『パープニューム』の影響かもしれない。

 そうだとしたら早くこの星から離れないとお互いのためにならない。

 この宇宙船の外壁が修理できるのがもう少し時間がかかるんだ。

 その時間さえあれば・・・」

「わかったわ。

 バルーさん、何とかこの紫色の水の排出を止めて頂けませんか?

 せめて、バルーさんの周りだけにするようにしていただけませんか?

 そして修理を出来るだけ急いで下さい。

 修理に必要な物は私達もお手伝いします」

「ありがとう、でも外の君の仲間が納得するかなあ」

「私があなたのことを話し、

 何とかみんなを説得しますから待っていて下さい」


キキがみんなの元へ戻った時に、

あのカメキングでさえも全身から血を流し、島の上で(うずくま)っている。

多くの仲間達も傷つき、海上に浮かびそして海底へ沈んでいく。

戦いで無事だった者は、魚を捕まえては傷ついた仲間へ食べさせている。

この場に敵の姿は見えなかった。

もしかしてと潜ると海底には彼らの死体が敷きつめられている・・・

キキは『この争いに勝者は誰もいないこと』を痛切に感じた。


「みんな、聞いて、もうこれ以上、戦いは止めましょう。

 今、皆さんが敵と言う彼らのボスに会ってきました」

「なに、まだ生きていたのか?

 やるぞ、そいつを殺してこそこの戦いは終わるのだ」

「そうだ、そうだ。我々の仲間の仇をとるんだ」

「皆さん、どうも紫色の水の影響が出ているようです。

 私は昔から、皆さんは元々心穏やかな生き物だったと聞いています。

 紫色の水は、皆さんの狂暴な心を強くするそうです。

 もっと綺麗な水を吸い込んで冷静になってください。

 もう紫色の毒水は止められたはずです。そう聞いています」

「何を?イルカの娘が偉そうに」

と非難の声があがる中、

キキの父親アリと母親ルカが近づいてきた。

「キキ、無事だったのか?

 姿が見えなかったから心配してたんだ。

 無事で良かった。

 お前が敵のボスと会ったのか?

 怖い奴ではなかったのか?」

「お父さん、お母さん、心配かけてごめんなさい。

 大丈夫だったよ。

 皆さん、今から私の話を聞いてください。

 その内容に納得行かなければ私を好きにして下さい。

 ボス、いや、バルー王子と呼びますね・・・」


キキは、バルー王子から聞いた事をみんなに伝えた。

バルー王子が他の星から来た生き物であること。

彼らの一族は、遠くの星で滅びつつあること。

早く彼ら一族を新しい星へ移住させないといけないこと。

この紫色の水は彼らには必要な物であること。

この紫色の水で死なないこの星の生き物は巨大化して狂暴になること。

バルー王子は、この星の生き物との争いは望んでいないこと。

イカ、サメ、カニ、タコ、ウツボへは争わないように指示していたこと。

バルー王子はこの星から飛び立とうとしていること。

バルー王子の宇宙船は現在修理中であること。

その場にいるみんなは驚きながらもキキの声に聞き入った。

最後にキキから

「宇宙船の修理素材をみんなで集めてあげませんか?」

それを聞いていたカメキングが

「わかった。みんな、確かに奴らの気持ちもわかる。

 ダイオウが我々はお前達の餌になっていた恨みとも言っていたし・・・」

「カメキング、許せないけれど、奴らを許すしかないのかな。

 奴らも餌になってた恨みはあると言ってたし、

 そう言われれば、我々も奴らの恨みを認めるしかない。

 だが、この星の生き物はそういうものなのではないか・・・」

「みんな、バルー王子だったか?

 奴の宇宙船の修理に協力しよう。

 それで奴が一族を呼ぶ新しい星を探すのに協力しよう」

とカメキングがみんなへ話しかけた。

その日から、バルー王子とキキが相談しながら

元敵だったイカ、サメ、カニ、タコ、ウツボと共同で

色々な材料をこの星の海底にある物を探しては渡していった。


とうとうバルー王子の宇宙船の修理が完了した。

元の家来だったイカ、サメ、カニ、タコ、ウツボ達が泣いている。

「バルー様、我々も連れて行って下さい。

 今後も餌となって生きていくなんて嫌です」

「お前達の全てを連れていくことはできない。

 この宇宙船の大きさにも限りがあるから不可能だ。

 それに今度の星がどんな星なのかもわからないから連れて行けない。

 みんなわかってくれ」

「どんな星であっても、あなた様と一緒に生きていきたいです」

「ありがとう、その気持ちはわかるが・・・」


キキがバルーの元へ急いだ。

昨夜、『星の雫』の声が聞こえたからだった。

「キキ、おかげで無事修理も終わった。ありがとう」

「バルー王子、昨夜、『星の雫』が私に話しかけられました」

「なんだって?どういう話だったの?」

「『あなたの心のままにしなさい』とだけ言われました」

「君はどうしたいの?」

「私は、あなたと一緒に生きたいという彼らの気持ちを大切にしたい」

「だが、この宇宙船では狭くて彼らすべてを乗せることはできない」

「そうなのですが、彼らの悲しみをこのままにはできません。

 この『星の雫』は、それを可能だと私に語り掛けているのです」


キキの胸元にある『星の雫』が光り始めた。

やがてその光はキキの身体を包み大きくなり始めた。

それと共に光の中に居るキキの輪郭がぼやけてくる。

その光は瞬く間にどんどん大きくなって宇宙船を包み始めた。

まだまだその光は広がり続け、大きな光球となり始めた。

その光球は宇宙船とその場所一帯の陸地と海水と

バルー王子と一緒に生きたいと願った彼らを優しく包み始めた。

周りの海水から紫色の水が光球へ集まり始めた。

それに伴い、

キキの仲間達の表情から憎しみが消えていく。

みんなの心に『星の雫』の優しい声が響いた。

「この星の皆さんありがとう。

 もうあなた達を困らせる水は全て集めました。

 さあ、バルー王子そして一緒に生きたいと願う皆さん、

 一緒に飛び立ちましょう。 

 今度の星は、水の惑星ですから安心してください。

 今そこには全く生き物はいませんから、

 私達が最初の生き物になります」

「その星はどこにあるのですか?星の雫よ」

「はい、今度の星は、

 この太陽系にある木星の衛星の『エウロパ』です。

 この星は、今は太陽から遠いため、

 氷の水にメタンの大地があります。

 この宇宙船で凍ったメタンを燃やし

 星を温めて溶けた海を作ります。

 またメタンそのものも

 保温効果があるので徐々に温度は上がります。

 それまではみなさん、今のこの私の中で生きるのです。

 キキのこの身体は、みんなの海と船となります」

『星の雫』から声が

「キキの優しい心がこの光球に強さを与えています。

 キキの無限の優しさがこの光球に無限の強さを与えているのです。

 私がキキと出会えたのは、

 多くの偶然と多くの優しさが織りなした奇跡なのです」

バルー王子は驚いた様に

「キキは本当にそれでいいのか?」

「私は傷つけあう世界は嫌なんです。

 みんなが笑顔で生きていく世界が好き。

 私達はこの星だけでなく、

 この宇宙の一つの細胞なの。

 だから新しい星でも一つの細胞になって生きていくつもり」

「そうなのか・・・キキ・・・ありがとう。

 これで一族のみんなを呼べるし、

 この星の仲間とも一緒にいることができる。

 僕一人では何も出来なかった。

 キキ、そしてこの星のみんな、ありがとう」

カメキングが

「バルー王子、我々はお互い戦ったが、憎くて戦ったわけではない。

 あなたの事を知っていればこんなことにはならなかった。

 それを残念に思う。

 あなたと共に生きていくこの星の仲間達を何卒よろしくお願いしたい」

「はい、こちらこそ、この星の仲間達にはお礼を言いたい。

 新しい星へ行くけれど、

 これからずっとみんなで仲良く助けあって生きよう」

「はい、王子、キキさん、ありがとう」と多くの声が響き渡る。


やがて巨大な光球は、

水中から大きくジャンプするキキの姿と変わり、

この星の大地から(うみ)の彼方へ飛び立った。

子供用に作成した物語です。

軽く読める内容ですので斜め読みでお願いします。

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