11.ダイオウ将軍との戦い
サメ隊長を先頭にサメ兵やタコ兵やカニ兵がダイオウ将軍の下へ集まってくる。
「将軍、我々のホオジロ将軍様が殺されてしまいました。
これからどうしたらいいのでしょうか。
奴らはこの城まで攻めてくるつもりの様です」
「あれほど強いホオジロ将軍がやられたとは信じられないな。
それはそうとバルー様が捜している宝石は見つかったのか」
「は、実は白いイルカが持っているという情報をタコ兵から聞きました」
「そいつはどこにいるのだ」
「どうやらカメキングと一緒に居る様で我々は近寄れません」
「わかった。
今からバルー様にお伺いしてこようと思う。
それまでこの城の周りを守っておれ」
「はっ、わかりました」
ダイオウ将軍が奥へと泳いで行く。
「バルー様、あのホオジロ将軍さえも倒されたようです。
このままではこの城へ攻め込まれてしまいます。
何とか良い手は無いでしょうか?」
奥の間ではバルーがイライラしながら
「私はお前達に宝石を探せと言っただけなのに、
なぜお前達はこの星の生き物を殺すのだ?
元はと言えばこの星のお前達の同胞だろうに・・・」
「はっ、それは・・・敵が攻めてくるからであって・・・」
「この前、ヒトを滅ぼしたと言ってたがなぜだ?」
「あれも我々を攻撃してきたと聞いています」
「その割に、こちらは誰も怪我もしていないと聞いたぞ」
「そうです。わが軍は強いのです。ヒトなぞは弱くてですね・・・」
「弱いなら何も滅ぼす必要はないだろ?
我々の邪魔をしているわけではないのだから」
「ヒトは今まで自分達の先祖を殺して食べつくしてきたのです。
その報復もしています。いけませんでしたか?」
「うーん、それなら仕方ないが、それ以外の生き物は?」
「あいつらはこの水を薄めようとしているので排斥しています」
「確かお前たち以外は『パープリューム』は毒だったのだよな?」
「そうです。だから私は『パープリューム』を守りたいのです」
「お前達は『パープリューム』の無い世界でも生きていたではないか?」
「はい、魚同様に弱い存在として生きていました。
かくいう私の一族もマッコウクジラ族の餌でした」
「お前達で餌で無かった者は?」
「サメ、カニ、タコ、イカ、皆が餌でした」
「お前達は彼らを襲わなかったのか?」
「はい、サメはヒトを襲っていましたが、
私達は魚の死体や奴らの死体を食べて生きていました」
「サメは奴らを襲っていたのか?」
「すべてのサメ族がそうではありませんが、
ヒレだけを取られて殺されたりしてたようです。
今生き残っているサメ族はそうです」
「コンピューターが言っていた事だが、どうも
『パープリューム』はお前達を巨大化させ狂暴にするようだな」
「いえ、狂暴にはなりません。
あいつらが攻めてくるから攻撃するのです」
「それならいいが、なるべく彼らとは敵対したくない」
「わかりました。そのようにします」
ダイオウ将軍が奥から戻って来た。
「将軍、いかがでしたか?」
「『奴らと全面戦争をしろ』との命令だ。
どんなことがあっても奴らを殲滅する。
これは我々の復讐だ。奴らの餌だった我々の・・・」
「わかりました。これから作戦を立案します。
何としてもカメキングを倒さなければ我々は勝てません」
「わかった。いつかはやらなければと思っていた。
深い海の底にずっと潜って耐えてきたんだ。
私が全力でカメキングを倒す。
この大きさならカメキングを倒せると思う。
お前達は戦いの間、
ずっと私へ『パープリューム』を流し続けるんだ」
「わかりました。もうすぐ彼らが攻めて来ます」
「さあ、最終戦争だ」
カメキングを先頭にゆっくりと敵の本拠地へ近づいていく。
辺りは濃い紫色になり敵の姿も何も見えなかった。
ペンギン族はカメキングの上でいつものように待機している。
マッコウクジラ族、イッカク族がそれに続き、
シロナガスクジラ族、イルカ族は、綺麗な海水をその場所へ送るも
この星の多くの生き物にとっての毒『パープリューム』の噴き出ている場所の為、それは全く薄まることは無かった。
しかし、なぜかキキの周りの水は綺麗なままであった。
うっすらとキキの身体全体が紫色の光に包まれているのが見える。
キキの胸の宝石が守っているように思えた。
濃い紫色の海の底から
黒く大きな影がカメキングへ近づいているが誰も見えない。
近くにいるキキは宝石が強く光り始めたので目を閉じると
『気を付けなさい。危険が迫っています』
と心へ声が届く。
「カメキング、気を付けて、宝石が教えてくれたわ」
「そうか、わかった。みんな気を付けるんだぞ」
「はい、わかりました。みんな警戒しろ」
ペン隊長からその声が響いた瞬間、
カメキングの近くに大きな水柱が立った。
海底から大きな角の様な形の生き物が海面へ浮き上がったのだ。
その大きさはカメキングと変わらないくらい大きかった。
一瞬でその長い触手をカメキングの身体へ巻き付ける。
カメキングの背中に乗っていたペンギン族は驚いて海へ飛び込んだが、多くのペンギン族兵士はその太く強大な触手に潰された。
なんとダイオウ将軍が深い海の底から濃い紫色の海水に紛れて
静かにカメキングへ近づいていたのだった。
カメキングは何とかその触手から逃れようとするが
甲羅にピタリと吸い付く吸盤があるため無理だった。
ダイオウ将軍がカメキングの背中に乗り上げると
カメキングの周りに居たマッコウクジラ族、イッカク族やイルカ族兵士を
残りの8本の触手で捕まえては、
強く締め付けて潰しその身体を投げつけて行く。
瞬く間に多くの仲間が血を流して横たわり海底へ沈んでいく。
カメキングの大きな身体の上に乗っているため味方は攻撃できない。
カメキングが泳いで別の場所へ移動するにも今度は重くてなかなか進まない。
「お前達の来るのを待っていた。
我々をずっと餌としていたお前達に復讐したかった。
今日でようやくお前達を全て一掃できる。
皆の者、全員でこいつらを殺せ。復讐をするのだ」
海底から毒で巨大化した無数のイカ兵、タコ兵、ウツボ兵、サメ兵が浮き上がってくる。
敵はマッコウクジラ族、シロナガスクジラ族、イッカク族、イルカ族を攻撃していった。
シロナガスクジラ族がいくら大きな身体だとしても、イッカク族の様に角は無い。
シロナガスクジラ族とイルカ族は一旦後方へ綺麗な海水を流し続けることとした。
マッコウクジラ族が敵を噛み破り、イッカク族が敵を突き刺して戦った。
しかし、無数の敵が周りから身体を攻撃してくるため徐々に劣勢となっていった。
カメキングから指令が出た。
「わしだけでダイオウ将軍と戦い、
奴を倒すのでわしをあの近くの島まで押してくれ。
こやつの重さがあってそこに行くことができない。
水中はこやつの領域だからわしの領域である陸地で片をつける」
「お前が陸地に行く前に倒す。おりゃあ」
『バキッ』
と大きな音が響き渡った。
カメキングの硬い甲羅に齧りついていたダイオウ将軍の硬く鋭い嘴が、
甲羅の表面の硬い層の一部を噛み破った。
「カメキング、大丈夫ですか?」
みんなが心配そうに見つめるとカメキングが
「大丈夫じゃ、この硬く厚い甲羅を噛み破る生き物はこの星にはいない」
「わしがお前を噛み破る最初になってやる」
「みんなにお願いがあるのだが、
わしにぶつかってこの身体を陸地へ追いやってくれないか」
「わかりました」
とみんなが力を合わせて、カメキングの身体へぶつかって行く。
無数のイカ兵、タコ兵、ウツボ兵、サメ兵も綺麗な海水が流れこんで来るため
徐々に敵兵の身体が徐々に小さくなって来ている。
カメキングの身体が少しずつ島へ近づいて行っている。
ダイオウ将軍が離れようとした。
「このままでは陸地に上がってしまう。やばいな」
「甘いな、わしの甲羅を傷付けた代償にお前を殺す」
とカメキングは、巻き付いていたダイオウ将軍の長い手に嚙みついた。
「うぬ、その頭を嚙み砕いてやるわ」
「お前がわしから離れたから動きやすくなった、ありがとうよ」
と『ドシドシ』と足音を響かせて陸地へと上がっていく。
ダイオウ将軍が浜辺のある岩場にもう一つの長い手を巻き付けて抵抗している。
カメキングは、しっかりともう一つの手を咥えて引っ張っている。
そこにシロナガスクジラ族とイルカ族が綺麗な海水を
ダイオウ将軍の身体へ噴き上げていく。
徐々に紫色の毒素が抜けてゆき、少しずつ小さく細くなっていく。
やがてダイオウ将軍は陸地へ引っ張り上げられて戦いになった。
ダイオウ将軍を助けようと無数のカニ兵が上陸していく。
ただ動きはそれほど早くなく身体も徐々に小さくなっていく。
それを阻止するため、
カニ兵へシロナガスクジラ族とイルカ族が綺麗な海水を吹きかけていく。
どちらも総力戦だが、数ではカメキング軍団に勝つことはできない。
倒れても倒れてもこの星の海の生き物が集まってくる。
ダイオウ将軍が完全に陸地へ引っ張り上げられた時、
その身体から大量の紫色の水が滴り落ちている。
カメキングは全身から血を流しながらも少しずつ煙を上げる火口へと進む。
それに気がついたダイオウ将軍は逃げようとしたがもう遅かった。
カメキングは咥えたダイオウ将軍の手を振り回すと火口へ投げ捨てた。
「グワー」
とダイオウ将軍の断末魔の声が聞こえ、そして静かになった。