初めてだった夜に
瞬くと、月光に照らされた艶やかな黒髪が寝息に合わせて微かに揺らめいていた。
肌を合わせた胸が熱を持ち、息苦しくて仕方ない。
耐えきれなくなり思わず体を引き離す。
あんなに抱きしめたかった体を自ら押しのけた。
何もかもが夢のようだった。
ただ、一つ一つがイメージとのギャップを孕んでいた。
抱きしめた体は、思っていたより大きかった。
あなたの体は子猫かなんかと同じで、大切にしないと壊れてしまうような気がしていた。
僕の腕にすっぽりと収まるくらいの。
でも、当たり前だけど、あなたは一人の人間の、大人の女性だった。
背中の代わりに膝を抱いた方が安心できる僕は、だからまだ子供なのだろう。
布団から体を出しても一向に火照りは冷めない。
現実離れした状況を外気の冷たさで取り戻そうとする。
目を開けると、暗順応した視界がドアの輪郭を朧気に浮かび上がらせている。
部屋の静けさが、定期的に繰り返される寝息で一層引き立たされていた。
目を瞑ると、あなたの唇が飛び込んでくる。
満を持して重ねられた手の感触。
鼓動で震える吐息。
一切が蘇る。
あなたの見たことのない微笑み。
あなたの見たことのない眼差し。
見たことのない、歪んだ表情。
苦しみに似た―――悦びを孕んだ―――。
夢に見ていたことが実際に起こって、怯えていたのは僕の方だった。
糸の切れたように脱力して眠るあなたの背中は、どこか別の生き物のように感じられる。
どうしてだろう。
僕は寝返りを打ち、背中の熱が届かないところで膝を抱え、静かに泣いた。