幕間 記念日
本編とは繋がらないが、今日書かずにはいられなかった!
「はっぴばーすでい とぅーゆー はっぴばーすでい とぅーゆー」
軽やかなメロディの乗せたトワの声とともに、フルーツで綺麗に飾られたケーキが運ばれてくる。
テーブルに置かれたケーキには、細いキャンドルが一本立てられており、小さな光がゆらゆらと揺れている。
「なんだ、これは?」
尋ねるケイに、トワは答える。
「誕生日ケーキや」
「誕生日にはロウソク付きのケーキを食べる習慣でもあるのか?」
「遠い国のしきたりやね」
この国にはそのような習慣はないし、トウ国にもないから、そう答える。
「おまえは、本当にそういうのに詳しいな」
トワの言うことを疑わずに感心するケイが面白い。
「さ、姫おいで。このキャンドルの火を吹き消すんよ」
ケーキの前に抱っこされた姫は、トワに言われたとおりに息をキャンドルに吹きかける。姫は火を噴いたりはしないタイプのドラゴンなので、キャンドルにかける息も体に合わせた小さなものだ。なかなか消えない火に、トワもケイも、思わず「がんばれ」と声を掛ける。
姫がもう少し強く息を吹きかけて、やっとキャンドルの火が消えた。トワが拍手するのに合わせてケイも拍手をしている。意味はわかっていない顔をしているが。
「誕生日の人がケーキのキャンドルを消して、その煙が昇って、天にいる神様に願いを届けてくれるっていう話や」
「へえ。それで、なんで姫の誕生日なんだ?」
「一年前の今日、姫を拾ったって言ってたでしょ。実際の姫の誕生日はわからへんし、いっそ今日が誕生日ってことでええやんと思って。ケイのうちの子になった記念日やね」
「なるほど」
否定をしないのがケイらしい。
ひょいと手が伸びて、ケイがケーキの上のイチゴをかっさらっていく。
「あっ!」
「え?」
もうイチゴを口に入れてしまったケイが首を傾げる。
「姫の誕生日ケーキなんやから、姫より先に食べたらあかん」
「ああ。姫、ごめん」
姫を撫でて、主役よりも先に食べてしまったことを素直に謝るケイ。姫はきゅるるとした目でケイを見つめ、今度はトワのほうを向いて、「ピ!」と鳴く。
「許してくれるみたいや」
トワはケーキを姫が食べやすいように皿に盛る。テーブルに置かれた皿の前に移動した姫は、嬉しそうにケーキを食べた。
「ピピ!」
「美味しい? よかったなぁ」
んふふと笑ってトワはさらにケーキを切り分ける。
「はい」
カットされたケーキが乗った皿を渡されたケイは驚いたように受け取って
「俺も食べていいのか?」
と聞く。
「誕生日ケーキはみんなで食べるものやから」
そう言って、トワは自分の分も切り分ける。
「姫も僕らも食べられるように、厨房に頼んでフルーツでケーキを作ってもらったん。ケイ、イチゴ好きやから、たくさん乗せてもらったんやで。この時期貴重なのに」
この時期にイチゴが手に入るのは、まあ、ケイの身分だからと言えなくもない。
目をキラキラとさせて美味しそうにケーキを頬張るケイに、思わずトワは笑顔がこぼれる。ケイは甘いものには興味がないが、フルーツは好きみたいなので、このケーキは正解だったなと満足する。
「まるで小動物みたいやな」
そう感想を漏らすトワに、ケイは「ん?」と首を傾げて目を向ける。なんか、ちょいちょい言動が可愛らしいんよね。
「そういえば、ケイの誕生日はいつなの?」
「1月1日だ。この国では、新年にみんな一つ歳を取るからな」
「あ、そうなん」
かつてはトウ国でもそうだったと聞いている。
「おまえはいつなんだ?」
「僕? 僕は…、春生まれよ。桜のころ生まれたの」
正直に日にちを答えることをためらって、ぼやかした答え方をした。
「おまえの誕生日には、このケーキよりもずっと大きいものを用意してやろう」
「ええよ、そんなん、せんでも」
トワは笑顔で手を振って辞退する。
じっとトワの顔を見つめて何かを考えていたらしいケイが、次に口を開いた時、トワは王子様の威力を思い知る。
「そうか。おまえがいれば、毎日が特別だから、殊更に記念日を祝う必要はないかもしれないな。でも、おまえが生まれてきたことは祝わせろ」
「……もう、ほんといやや、この王子…」
顔を両手で覆って、トワは撃沈した。
記念日祝いのはずが、誕生日祝いみたいになってしまった。




