赤い花と死の蜜
赤い花は、すぐに見つかった。というか、森の奥は、水溜まりどころではなく、沼地が花に縁取られて、気持ちが悪くなりそうだった。
シロの、「大抵の場合、よく目につくようになったとき、人が見ない場所はもっとひどいことなってる」という言葉に、今まであまり見に行くことのなかった森の奥で、その光景を見つけのだ。
花に群がる虫は、いない。静まり返っている赤い景色。
「ひどい・・っ!」
原因はわからない。ただ、そばには必ず「水」がある。
「ねえ、これってさ・・。」
「シロ、ちょっと待て。サヤ、この花、人への影響は?」
顔色を変えた二人に見つめられ、紗椰は自分の記憶と、長老の語った話を整理しながら答える。
「花を見つけた人は、抜いて燃やしたはず。以前にその花が広がった時、蜜で命を失った人がいるから・・。」
「蜜で、命を??」
アオが復唱し、紗椰は急に違和感を覚えた。
(あれ?そういえば、なんで蜜が死につながるんだろう?)
花を食べる訳じゃない。蜜を吸うこともない。あれ?
「虫は?どうなったんだった?」
「蜜を吸った蝶が、回りに落ちていたの。それは実際に見てる。」
「それ以外は?」
「それ以外?」
花は、不吉。蜜は死をもたらす。そして、水がその花を生むから、花がある場所の水は危険・・。
「根拠は?」
アオがたたみかける。
「だって、みんな知ってるわ。これまでに何度かこの国を襲った悲劇。赤い花、毒の蜜、水不足、花嫁・・」
でも、と心のどこかで冷静な自分がつぶやく。なぜ、それが事実だと、みんな知っている?見た者は、誰もいないのに。
「あのさ、サヤちゃん。僕たち、この花の正体、知ってるかも。」
シロが、遠慮がちに切り出す。「あれだよね?アオ?」とアオの顔を伺うと、アオも苦い顔でうなずく。
「花は、いい。問題ない。だが、悪意が働いている。」
紗椰の頭のなかで、新しい疑問がいくつか浮かび上がった。だが、その答えを見つけようとするのを、心が拒否している。だって、なぜあの人がそんなことをするのか、理由がわからない。
「サヤちゃん?」
シロが、心配そうに、覗き込んでくる。
「大丈夫。聞かせて?」
紗椰は混乱する頭で、シロとアオの顔を順に見つめた。真相には、材料がまだ足らない。