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午後はちょっぴり苦めのコーヒーで  作者: 藤山紗綾
第1章 底辺生活
3/3

2話 アムスベルクの天使

 790年2月14日。

 いつもと変わらない今日この日、彼女は突然現れた。



 わたしはお昼を食べ終え、積み上がった本の方へ向かう。

 本の中からまだ読んでいない本を一冊適当に選び、本を開く。

 文字を追って、ページを進めていく。

「……ん?」

 不意に、わたしはページをめくる手を止めた。

 それは、本の後ろに見えた模様に見覚えがなかったからだ。


(なんだろう、これ……)


 わたしはだらしなく寝転んでいた状態から起き上がる。

 部屋を見渡すと、絨毯一杯に大きな陣が描かれていたことに気がついた。


「落書き……?」

 だが、いつの間に?

 それに、さっきまではなかったはず。

 これは……いや。それより、どうして突然?


 陣はわたしから数歩先を中心にしてできている。陣は白く輝いていたが、眩しいと目を細めるほどではなかった。

 微かな光。

 陣から垂直に光が伸びているように見える。


 陣の中には複雑な模様が書かれていて、二重になった円の間には文字が書かれている。

(なになに……ん? これ、古代文字?)

 貰った本の中に一度だけ出てきたことがある。だから、間違いではないだろう。

(でも、古代文字はその名の通り『古代』、昔の文字。今はもう使われないはず……)

(それどころか、読める人すら希少なはず……)

 自分でも知らず知らずの内に円の中心へと身体が傾いていた。


 気づいた時にはもう文字を遠目に見るような距離にはいなくて、だから興味本位で文字を指で撫でながら、声に出して読んでみる。

(まさか、こんなところで『異能』が役に立つとは……) 

 やっぱり、この地味な能力は、地味に役に立つ。


 この時、わたしは好奇心だけで行動していた。 

「『無の神 リーエファメリュエ』……?」

 わたしがそれを読み終えると、魔法陣が「眩しい」と思うくらいに光を増す。

 反射的に身体が身を守る体勢になる。瞼も細められ、光る陣を見詰めていた。

(……心なしか、『光の棒』も伸びてるような……?)


 光が限界まで輝きを放ったのは刹那とも思えるほど一瞬のことで、次にわたしが瞼を開いてみたときには、まるで何事もなかったかのように絨毯の陣は消えていた。

(あれは……夢……?)

 状況についていけず、わたしは呆然と部屋を見渡す。


 陣が描かれる前と部屋の様子は変わってない……。

「……調べてみよう」

 わたしは元いた場所に戻ろうと、後ろを振り向く。


 すると、そこには天使かと見紛えるような可愛らしい幼女がいた――――。


「わぁ……可愛い……」

 思わず声が漏れる。

 

 銀色の髪はまだ肩にかかるくらいしかなくて、髪は少し崩れている。

 わたしは彼女を見詰めていたが、同様に彼女もわたしのことを見詰めていた。

 どこまでも澄んだ赤い瞳がわたしの桃色の瞳を捉える。


(……ん? 赤い瞳……?)


 文献によると、この国で赤系統の瞳の色を持つのは今のところベルク一族からしか確認されていない。

 ……なら。この子が敵対派閥から来たと考えるより、この子が『ベルク一族(しんせき)』だと考える方が普通だろう――――。


 年齢は、わたしより少し下くらいかな……?

 わたしは平均身長より少し高いって言ってたから参考にはならないかもだけど、それでもわたしより歳下であることには変わりないだろう。


「っ……」

 「どこから来たのか」と訊ねようとして、わたしは言葉に詰まった。

 幼女がわたしを見て、ニコリと笑ったのだ。


(か、可愛いっ……!)


 あまりの可愛さに、内心悶絶してしまう。

(えっ。ヤバ。何この可愛さ。天使? 天使だよねこれ?)

(……むしろ天使と言ってくれた方が納得できる!)


「て……天使と……?」

(……!?)

 何聞いてんだ、わたし!

 ほら! この子も意味わからなそうに首傾げてんじゃん!

(……あれっ?)

 てか今わたし……あー……やべぇ。冷や汗出てきた。

(……今、日本語で喋っちゃったかもっ?)


 わたしはチラリと天使を見下ろす。

 天使はわたしと目が合うと、ニコリと笑った。

「天使……天使では、ないです」

(可愛い――――っ! ……て……)

「――――えっ……?」

「『日本語』、お上手ですね」

 天使は、わたしが日本語で(、、、、)笑顔を浮かべてわたしを褒めた。



 ……10分経過しました。

 あれからこの子、一言も話しません。

 何か、天使ちゃんの隣に置いてある、天才ちゃんからの本を読み込んでます。


 そして、わたしは10分間逡巡を巡らせていた。


 な、何でこの子『日本語』話せるのっ?

……この子も『転生者』……?

(……普通に考えて、その可能性が一番高い……か)

……どちらにしろ、この子には話した方が良いかもしれない。

『日本語』のことも知ってたみたいだし、この子自身が転生者でなくても、どこかで必ず関わってるはずだから――――……。


「……なるほど」

「へっ?」

「あぁ、いえ。なんでもありません」

「そ、そう……?」

「はい。それより、いつまで立っている気ですか?」

「あっ……うん。前、座るね……」

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