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「ロイスちゃん、そういえば昨日は遅くまでアーチとどこ行ってたの~?」


朝、少ない荷物を簡単にまとめているとセドリックさんがからかうようにそう話しかけてきました。流石に旅を長くしてきただけあって、セドリックさんもラーラも「いつでも出発できるわよ」とおっしゃって、私のほうが慌てている状況です。別に急ぐ必要も無かったりするんですが。


「そういえば!昨日は眠くて早く寝ちゃったけど、何時に帰ってきたの?」


ラーラも思い出したように私の方に歩いてきて、ドサッとベッドに腰かけます。うーんこの空気、恋愛系の話題を期待しているようですが。これといって特別進展があったわけでもないですし、非常に言い出しにくい。でもこの場合、起こったことをそのまま伝えればそれでオーケーかもしれませんよね。そうしましょう。


「帰ってきたのは9時半くらいかな?通りがかりに農家の人が困ってるのを助けたりしてたら時間を食ってしまって、農家の人の所で昼食を食べたらお腹がいっぱいになってしまったので、夕食はいいかってことになってですね。そのまま帰ろうとしてたんだけど、帰りにアートがカフェでお茶しようと言い出したのでケーキを食べながら1時間ほどおしゃべりをし、店を出てからアートの提案で外を散歩することになって、星空を眺めながら夜中までデートする結果となったわけです」


そう、なんだかんだと理由をつけて結局アートは宿に戻りたがらず、デートを少し続行していたのでした。9時ごろになってから森の方に散歩しに行こうと言い出した時には流石に止めましたが。たわいもない会話ばかりしていましたが、なかなか楽しかったですよ。アートと居ると大体楽しいですからね。


「あの男、余程アンタと一緒にいたいのねえ。ロイスちゃん、風邪ひかなかった?寒かったでしょうに」


「平気です。私、体だけは丈夫なので」


「それならいいんだけど……でも、公爵夫人ってちゃんと働くとかなりの激務だから、体力があるのは大切な事なのよね。働かない人も多いけど。向いてるかもよ!」


つまり働いても働かなくても良いってことですよね?まあ、私に出来そうなことがあれば最大限体力を使って働こうと思いますが。アートは私に働けとか言わなそうだなあ。アートの寛容さに甘えた挙句に怠けてしまって迷惑かけないようにしないと。


「あたし昨日は8時に寝たからな~そりゃ会わないわ」


早寝早起きは良いことだと思うんですけど、さすがに8時は早すぎるんじゃないでしょうか。晩飯食って即就寝。牛になっちゃいますよ。


「ね、今日はロイスちゃん、向こうの馬車乗りなさいよ!レオンちゃんをこっちの馬車に乗せてさ。アタシ、結構レオンちゃんに興味あるのよね」


「それは……レオンさんも喜ぶと思います。あっ一応私もですけど!えへへ」


「な〜に喜んでんのよ!!カワイイわね!!!!」


「ひょっほ!はぉほひっはらないへくらはい!!」


「よく伸びるほっぺよね〜!意外に!」


そんなところに感心しなくていいので、からかうたびに顔の肉をむにむにといじくるのをやめてください。なんでそんなにテンション高くなってるんですかね、そりゃアートとまた同じ馬車なのはすごく嬉しいですけど!


「いーなぁ、あたしにも求婚してくる男いないかなあ」


「ラーラはもうちょっと大人しくならないとダメね。無鉄砲すぎるのよ」


「そういうのが好きな男だって探せばいるもん!多分!」


「はいはい」


はい、きっとラーラを好きな人がどこかに居ますよ。だって私もラーラのこと結構好きですから。はっきりしたタイプの人ってなんとなく興味を引かれるというか、憧れますし。私はアートがたまたま運命の人でラッキーでしたけど、ラーラにだってそのうち現れますとも。かわいいし。知らんけど。


かわいい男の子がタイプとか言ってましたよね、靴職人になれたらお弟子さんとかができるんじゃないですかね?うまくいけばそのお弟子さんと結婚とか、うーん、人の恋愛のことなんて微塵も分かりませんけど。


「晴れてよかったわねえ、昨日は曇りはじめてたから雨降るかもって心配してたのよ」


「でも、なんだか最近天気が不安定ですよね。ただでさえ寒いのに……また急に曇りだして雨やら雪に降られたら嫌だなあ」


「ポジティブに考えましょうよ!はい!これ珍しいビニール素材の馬車カバー!予備にもう一個あるからあげる!そっちの馬車にも積んどきなさい!」


「びにーる素材の馬車カバーですか?」


「水を弾いてくれるのよ。流石に雨が降れば運転席は濡れちゃうでしょうけど、馬車本体は濡れないわ。曇ってきてもこれでなんとかなるわよ。毛布もいっぱいあるしね」


「へ〜、なんか見たことない素材ですね。半透明だし、どんな素材なんでしょう」


「さあ?前にアーサーから買ったから分かんないわね。他でも見たことないし」


「そ、そうなんですか。珍しいものをありがとうございます」


まさかそれ、アートのお母さんがアシュレイ様から貰ったものじゃないでしょうね?奥さんの方には会いに行くとか言ってましたし、アーサーさんだってアシュレイ様には会ってるんでしょうし。……いや、あるいは謎に包まれたエインズワース家で生産されている秘密の商品なのかも?まあ、貰えるものは病気以外ならなんでも貰っておきますけど。


かくして出発した馬車。今回はルートくんとヒューイくんが引くルドガーさんの馬車に私とアート、ラーラの馬車にはレオンさんとセドリックさんが乗ることになりました。レオンさんは私と交代だと告げると嬉しそうなような困ったような、果ては絶望したような顔になっていました。その気持ちは分からんでもないですよ。嬉しいけど緊張する、みたいな。


「ロイス、今日の俺の髪型は大丈夫だろうか?」


「大丈夫ですよ。いつも通り綺麗な赤い髪でばっちりキマってます」


「そ、そうか。彼女(セディ)から見てもそうだと思うか?」


「それはセドリックさんの認識次第なんじゃないでしょうか。あなたらしくないですよ、威張って自信があり堂々としているのがあなたの人間的魅力なのでは?」


「そ……そうかもな!よしっ!行ってくる!」


が、最終的にはそう言って嬉しそうにセドリックさんと馬車に乗り込んでいたので良かったのでしょう。張り切り屋さんですね、セドリックさんも同じ気持ちだったらなお、いいですね。でもレオンさんに比べるとセドリックさんは大人っぽいし、どうかな。子どもっぽく見えちゃうかも?


「ロイス。どうしたんだ?」


「レオンさんと交代です。私、こっちの馬車に乗りますね。初期三人構成メンバーですね」


「それは嬉しいな……嬉しい。本当に。超嬉しい。君が同じ馬車になってすごく嬉しい。好きなんだが」


「そ、そうですか。私も嬉しいです」


最近のアートは思ったことをそのまま真摯に伝えようとするあまり、同じような言葉を繰り返す傾向があります。色々なことを知っていて教養の深い賢い人のはずなのに、かわいいですね。なんなんでしょうね?私も言葉が浮かんでこなくても思ったことをとりあえず言った方が良いんでしょうか?


「私もあなたのことが好きですよ」


「あっありが……ちょっと待て!!なんで頭をそんな力で掴んでくるんだ?!」


「あなたのことが好きなのでキスしようと思って……」


「今?!ひゃおっ!!待て!!」


行動で好意を表現しようと思ったのですが。アートは顔を真っ赤にし、慌てて私の手を自分の両頬から取っておろすようにしてきました。変な悲鳴まであげて、ルドガーさんが呆れたような顔でこっちを見ていますよ。ルドガーさんも早く帰って奥さんといちゃつきたいですよね、すみません。でもこれもあなたの仕事です。


「別に嫌ならいいんですが」


「嫌とかじゃない!!ひ、人の居ないロマンチックなところでしたいだけだ」


「そういえば昨日言ってた腕ズモウってなんなんですか?」


「話をすぐに変えたな!!え?ああ、忘れてた!後で!広くて地面が固そうなところでやらないとだから」


「よくわかりませんがわかりました。さっさと出発しましょう」


「わからないのにわかったというのはどういうことなんだ?」


そうして私とアートがごちゃごちゃ言いながら馬車に乗り込むと、ルドガーさんも特にメンバー替えに口出しもしてこず、無言で運転席に座りました。私はルドガーさんに何か言おうかなあと思いながらも無言で座席に座って、先ほどセドリックさんに貰ったびにーる素材の馬車カバーを奥の方に積み込み、アートと向かいあいます。


「では、馬車を動かしますね」


幕で背中の上半身しか見えないけれど、ルドガーさんの声です。


「ああ」


「お願いします。あと、怪力の件はアートにバレたのでもう気にしなくていいですよ」


そう、これですよ。忘れてましたけどルドガーさんには口止めをしてたんですよね。アートにはもうバレたのにずっと自分の主人相手に秘密を抱えさせるのも馬鹿馬鹿しいですから、ここはもう言っておくべきのように思えました。いや、単に私がすっきりしたかっただけかもしれません。今言うの?という感もありますが。


「あっ……ホァ、はぃ……」


ルドガーさん、なんですかその情けない声は。


「なに?ルドガー、お前はロイスの力について知っていたのか?」


あ、こういうややこしい事態になることを見越して動揺してたんですね。すみません、そこは私の配慮が足りませんでした。アートに隠し事してたのは良くないことですもんね。多分。


「ルドガーさんを脅して黙らせていたんです。私が悪いんですよ」


「そうなのか。まあ……ルドガーは妻子持ちだしな」


そんな理由で納得しないでください。別に妻子を殺すとかで脅したわけじゃないですから。殺すとも言ってないですし、ちょっと脅かしただけでバレても危害を加える気はありませんでしたよ!勘違いしないでよねっ!


「ロイス様は、アーチボルト様に怪力であることがバレると女の子らしくない、と思われると思って恥ずかしくて隠してらっしゃったんですよ。」


「あっ余計なことを言うんじゃないですよルドガーさん」


「そうなのかロイス?」


「そ、そうですけど……」


サラッと即座に報復してきましたね、ルドガーさん。覚えてらっしゃい!まあ、なぜかアートが嬉しそうな顔になったので良しとしますが。


「ほんとかわいい。この旅が永遠に続いてほしい」


「永遠に続いたらルドガーさんがストレスで死んじゃいますよ、アハハ」


「笑い事じゃないですよまったく……」


「ルドガー。春のボーナスは倍額にしよう」


「一生お仕えします」


なんて現金な人なんでしょう。でも、公爵家に勤めてることを考えるとルドガーさんも金持ちなんだろうなあ。はあ、なんという世界。いや、ボーナスが元々いくらなのか知りませんけど。


とまあ、こうして私たちは朝9時にはこの場所を出発したのでした。次の街まではまだまだ距離があるようですから、急ぐに越したことはありませんしね。


「暇つぶしにあやとりを教えよう。ここに端がつながった紐があるだろう?これをこうして……」


アートもなんだか楽しそうですし、お天気ですし、幸先は良さそう。


それにしても腕ズモウってなんなんだろうか?と、私は思いを巡らせるのでした。




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