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ずんずん、ずかずか。


先頭のアートが、殴りかかってくる山賊たちを殴り飛ばして私たちは進みます。一応安全のため最後尾にルドガーさんに居てもらってますけど、アートが全部倒してしまうので暇そうにしています。セドリックさんは暴れて余計なことをしそうなラーラをしっかり手で抑えていました。私はアートの真後ろで、広い背中に多少ときめきながらもレオンさんを探してキョロキョロしています。


「レオンさーん!返事してくださーい!」


何度も大声で呼んでも、一向に返事は返ってきません。レオンさん、あの時に殴られてからまだ気絶してたりするんでしょうか?本気で心配になってきました。どうせなら、3人と3人で分けて閉じ込めてくれれば良かったのに。


それにしても、テント、テント、またテント。見かけた人数だけでも軽く40人超え。ここ、一体何人の人たちが住んでるんでしょう?女性や子供もちらほらいますし、山賊というよりは普通の村みたいにすら見えます。盗みだけでこんな人数の人間が生活できるものなのでしょうか?


「おい!馬と馬だった人質とはどこだ。」


わざわざそんなややこしい言い方しなくても……


「わ、分かんねえよお!俺じゃねえ!俺じゃねえんだ!!」


「赤い髪の男だ!あんなに目立つんだから分かるだろう」


「お、俺は本当に知らねえんだよお!頼む!女や子どもは勘弁してくれ!!」


「人聞きの悪いことを言うな。お前たちが殴りかかってきたから殴り返してるだけで俺からは何もしてないだろうが」


まあアートの言う通りではあるんですけど、過剰防衛ってやつですよね。アートに一発殴られただけの人達、全員気絶しちゃってますし。後ろに倒れると頭とか打ち所が悪かったら死んじゃうかもなんですよ?人間相手なんだしもっと手加減しましょうよ、頼みますから。無駄な殺生は良くないって、たしか何かの本で読みましたし。


人々を退けてまたしばらく進むと、向こうに大きな建物が見えました。木造のようですがテントではなくて小屋なのです。きっとあそこには、この山賊たちのボスみたいな人でも住んでるはず。そういう人を捕まえればレオンさんたちも返してもらえますよね。と、そこで突然アートが歩みを止めました。


「どうしたんですか?」


「ロイス、私の服を掴め。離していいと言うまでは、何があっても離すな」


「え?は、はい」


振り返ってそう言ったアートの顔があまりに真剣で、冷たい印象まで受けるほどだったので私は大急ぎでアートの服の裾を掴みました。


そして、驚くことに。アートの服を掴んで再び前を向くと、今まで目の前に見えていた集落が突然見えなくなっていたのです。


そう、感覚で言うならば、(まばた)きしてたらその隙に自分の周囲が木々に覆われてしまったみたいな。ついさっきまで道が見えていたのに、突如として森の真ん中に置き去りにされたような。


「アート!ルドガーさん!これは……」


振り返った私は、全身が凍り付いたように固まってしまいました。


なんと“私の後ろには誰も居なかった”のです。


「アート!ルドガーさんたちが居ません!!」


「すまなかったな。ここに来る前から気付くべきだったんだ。だって、おかしいよな。前提が」


アートはちっとも驚いたり動揺しているそぶりがなく、ただこれからどうするかを思案しているようでした。私に謎の謝罪をしてきましたが、なんのことなのか私にはよくわかりません。


おかしい、と言われれば今までにおかしいことなんかいくらでも起こっていましたが……多分、この森にきてからのことなんでしょうね。思い当たるのはたった今姿を変えたばかりの、周りの景色くらいですけど。


「……前提、ですか?何を言っているのか分かりません」


「ここの山賊たちは、金持ちだろうが、一人で旅をしていたラーラ=マクファデンだろうが関係なしに襲い、盗みを働いていた。ここを通る者全てではないだろうが、明らかに軍に属する者の格好をしているルドガーが馬車に乗っているのを見ても襲ってきた。見境(みさかい)なしだ。」


「は、はい」


ルドガーさんは確かに、軍隊か警備兵の人みたいな勲章付きのゴテゴテの制服を着ていました。アートだって明らかに金持ちだなって分かるような、青く染めて作られた軍服みたいなのを着ていますし。青や紫の服は高いんですよね、染料が珍しいらしくって。


もしかして、アートとルドガーさんを馬車の運転手にしたのは〝高貴な人間の一団であることを示す警告〟でもあったのかもしれません。ここに貴族がいるぞ、手を出すな、という。結局は容赦なく襲われてしまいましたけどね。


「襲われた金持ちが生きて帰ったとして、今までに一度も報復を受けたことが無いということがありえるだろうか?ここは街境だぞ。用事があれば領主だろうが貴族だろうが聖職者だろうが通る道だ。そんな人間たちに危害を加えて、なんの(とが)めも受けないなどということはあり得ない。ごく少人数のろくでなしどもが隠れながら盗賊をやっているのならまだこの広い森を逃げ隠れしてなんとかなるかもしれないが、あんな人数が一度も見つからず平然と村のように暮らしているのは、どう考えてもおかしい」


まあ、確かに。あんな人数居て、いくらハインの領主がここを放置していたとしても国の中で問題になりますよね。私はこんな危険な場所があることすらもこの旅で知った世間知らずなので詳しいことは全く分かりませんが。まあ、この街は王都の比較的近くなわけですし、軍が押しかけてきて全員逮捕されてもおかしくありませんよね。ここに住む全員が入るほどの刑務所がないのかもしれないですが。


「そうですね……なぜあの山賊たちはここにずっとあんな大人数で、建物まで建てて住めているんでしょうか?国の軍とか、警察とか……」


あ、でも建物は見間違いだった可能性もゼロではないのかも?一瞬にして目の前から消えましたし。


「今見ただろう?この森はミサカツキと同じなんだ。〝生きている〟んだよ。山賊たちはこの森を動かす、人間でないなにかに守られている」


「そ……それは……神様、みたいなものですか?」


そういえば、ミサカツキも用事がない人や関係ない人は民家の中までたどり着けないと言ってましたもんね。あの時はザワザワと木々が動く様子も見ちゃいましたし。


「そうだ。現代には、たくさんの神や心霊のたぐいや、悪魔のようなものが存在している」


たしか前にもそんなこと言ってたような?この、星のことですよね。アースだっけ?ていうか急になんの話ですか?


「私も呪われてますし、レオンさんも馬でしたし、日常的におかしいことだらけですもんね。実感はないですけど、アートも普通じゃありませんし……」


まあ、アートに出会うまではなにもおかしいことなんて起きなかったんですけどね。アートの周りがヘンなだけなのでは?という疑惑もありますよ?私の呪いなんて気づいてなきゃ、あっても無くてもわかんないようなもんですし。


「そうだな。以前、重力の話をしただろう?物が下に落ちるのはアースに重力があり引っ張られているからだ、という説明だ」


「はい、覚えてます」


前に教えてくれた、この世の謎豆知識の一つですよね。覚えてますとも。大変興味深いお話です。


「全ての物事や現象は、本来ならそういった科学で説明のつくものばかりだ。だが君も含め、ほとんどの人々はそれらを知らない。知らないものを人は、神や悪魔のせいにする。識字率だって低い。印刷技術も発展してないから本だって大量には刷れない貴重品だし、勉学は限られた金持ちのためのものだし。」


「そうですね……裕福な家にも本は数冊あるか無いかですしね。本屋さんも基本は貸し出し式ですし、勉学に熱心な国ではないように思えます」


アートが言うならきっと本当にそうなんでしょうけど。貴重品だから、本屋さんで色々立ち読みしたなあ。頑張って本なんか買っても、部屋に置いてたらシャーロットに捨てられちゃいますからね。


「人間という弱い生物には、神という〝不都合な事実を誤魔化すための道具〟が必要だからだ。人の心の弱さが神を生み出す。」


「この変な現象は、つまりそういった人間が想像で生み出した神様みたいなものが起こしていると?」


目の前で色々な非現実的なおかしい現象が散々起こっても、やっぱり神様とか言われると途端に現実味がなくなるというか。前にアシュレイ様が教えてくれた話だって嘘だと思ってはいないんですけど、そんなこと言ってたら、思いこむ内容次第では大変危険なものを生み出しそうで怖いような。


「ああ。信じられないかもしれないが、大体そういうことだ。ぼんやりと(たた)りとかだと認識しておいてくれればいい」


タタリ?分からないものの説明に分からない単語を使わないでください!そういうところですよ!アート!


「アズライト帝国は基本的には一神教だが、神はたくさんいる。例えばの話をしようか。変な形の大きい岩があるとするだろ。その岩を、大勢の人間が神の宿る岩として本気で崇拝すれば、その岩には本当に神が宿るんだ。そのくらいひょいひょい存在する。」


あ、それ、そんなようなことをアシュレイ様も言ってましたね。この国は一神教だけどって。アシュレイ様のことはアートに話せないので黙ってるしかないんですけど。八百万の神かあ。この国の人口より全然多いのでは?


神様ってこの国の考え方では“世界の創造主”としての神様が一人いるだけなんです。本で多神教について読んだことがあったので私はすんなり理解できましたが。というか、私は元々神様とかそんなに信じてる方じゃなかったんですが。


「なんだかお気軽なんですね、神様って。」


でも、じゃあ、私もそこら辺の岩を崇拝してみようかなあ。味方になってくれるかも。ご加護あるかも。


アート、なんでこんなことを説明してくれたんでしょう?以前は正式に結婚しないと詳しい話は出来ない、みたいに言っていたのに。それはまた別件なのかな?まあ、前に似たような話をアシュレイ様に教えられちゃってますけど。私、アートの言うことは全部そのまま信じちゃいますからね。迂闊なことは言わないでくださいよ、ほんと。


「私や君には直接手出しできないだろうが、残りの四人は助けに行かなければならない。私のせいだと思う」


え、じゃあ私たちは何もされてないんですか?ルドガーさんたちだけどこかに連れていかれたってことですか?せっかく合流できたのに、結果的に人数は二人のままじゃないですか。私的にはアートと一緒なのでラッキーですが、そんなこと言ってる場合でもありませんね。


「あ、もしかして山賊相手に暴れたからですか?」


だとしたら私も多少は山賊に危害加えてるんですけど、同罪ですかね?一人だけですからノーカウントですよね?バレてないですよね?


「多分な。ロイス、今お守りを持っているだろう?以前渡したものだ。」


「はい、持ってます。なんとなく持っておこう思って、ここに来る前にポケットに結び直して……」


「それがあるから君も無事なんだ。直接触れないんだと思う。お守りでなんとかなるって、なんだか怨霊みたいだが。とにかく神は人間の想い次第で邪悪なものにも神聖なものにもなる。ここの神は盗みを良しとするから、邪悪な神だろうな」


邪悪な神ですか。なんか急に痛い感じになってきましたけど、大丈夫ですか?オカルト臭が強いですよ、アート?神がいるなら、こんなに暴れたせいで呪いが追加されたりとかしませんか?ただでさえ不便な呪いにかけられてるのに、ほんと勘弁してほしいんですけど。


「これからどうするんですか?」


「本殿を探す。何か信仰対象となる物があるはずだ。岩や樹木にしろ……元となる物が必ずあるから、その何かを見つけて壊す。服を掴んで、はぐれないようについてきてくれ。何が待っているか分からない。どんな化け物が出てきても、驚いて手を離さないように。先に状況を理解してもらおうと思って」


「ああ、だから説明を……アート、大丈夫ですよ。私はあなたと一緒なら、なにも分からなくても怖くないですから。話だって正直、半分も理解できてないと思いますが……謝らないでください」


「ありがとう、ロイス。好きだ。この森を無事に脱出出来たら結婚しような」


「しませんけど……」


そうして今度はアートと一緒に、この生きた森に飲み込まれた残りのメンバーを救出しに行くことになったのでした。







今回も読んでくださってありがとうございます!

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