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どこまでも、鬱蒼(うっそう)とした森が広がっていました。私はルドガーさんに比べて背が低いので、あまり木の上の方からは景色が見えませんし。とりあえずどんどん進んでいくルドガーさんの服の裾を掴んでついて行っていますが、うっかり布を引きちぎらないように、と私は神経を研ぎ澄ませます。


「暗くてとにかく視界が悪いし、人が暮らしてるにしては地面も荒れてますね。うわっ虫!気持ち悪っ!!」


「毒はない虫ですので大丈夫ですよロイス様」


「そういう問題ですか?」


ボロい完全に木造の家に住んでいたので虫にはある程度慣れてますけど、見たことのないような、脚が多いキモい虫がいたのでビビってしまいました。まだ陽は沈んでいないのですぐ近くははっきり見えるんですよね。見えない状態でこんなキモい虫が近くにいたらそれはもう即発狂レベルのことなんですけど、ちょっとビビるくらいで済みました。


しかしルドガーさんは動じてませんね、キモくないんですかね?だって、こんなに足が生えてるんですよ。許容できる脚の本数は6本までですよ。多くても8本まででは?数え切れませんもん、脚の数が。


「しかし、結構な大人数がここに居るはずですから……もしかしたら女子供も住んでいるのかも。そうすると、私たちはそうした生活の集落からは離れた場所に連れてこられたのかもしれません」


「……そうですよね。生活に追われたのは男の人だけではないでしょうし……」


まあ、でもこんな野蛮なことして生活してるなら女性や子供が住むには危険な気もするんですけど。万一すべて盗んでからアートとかを投げ出したら、それこそ公爵様ですから、報復されたり全員極刑になってもおかしくありませんもん。まさかこんなところに大勢の部下も従えずに、馬車だけで公爵がやってくるとは思わないでしょうし。金持ちそうだということはバレてるようでしたが。


「ええ。とりあえずは、あそこに見える地面のひらけた丘を目印に進みましょう。なんだか酷く曇ってきましたから、急がなくては」


「はい!たしか丘から石が投げられたんですよね。」


正直私には丘なんて見えませんけど、とりあえずルドガーさんについていっとけば大丈夫ですよね。そう、この人生、基本的には他人に流されて生きていきましょう。なんとかなりますよね、なんとかならなければなんらかのアクションを起こさなければならないかもしれませんが、ルドガーさんがきっとうまくやってくれるでしょうとも。


「ルドガーさん、そういえば怪我は大丈夫ですか?血が出てますけど」


「戦争ならこんなもんじゃありませんから!全然、こたえてませんよ。」


「さすが!」


「ロイス様も牢に入れられるとき前のめりに倒れてましたが、怪我は?」


「ちょっと膝を擦りむいただけでした」


「そうですか。それならいいのですが……これが終わったらすぐに手当てしましょう」


「ルドガーさんもね」


「はは、どうも……」


私たちは会話しながらも早足で目的の場所まで歩きます。こんなスピードで移動してよく息切れしませんよね。軍人さんは訓練とかあるんでしょうし、さすがって感じです。私は元々あまり息切れとかはしない体質なんですけど。


「ロイス様、向こうから話し声が聞こえました。静かに進みましょう」


「はい。黙りますね」


そうしてルドガーさんについて、静かに静かに声の方に近づいて行ったのですが。声と一緒に悲鳴や怒号、笛の音まで聞こえてきたのです。悲鳴って、女性の悲鳴も男の人の悲鳴も聞こえてくるんです。逃げろーっ!とかって。もちろんアートやラーラの声でもセドリックさんの声でもありませんでした。


「……あれ?なんでしょうか、この状況は」


「人間がたくさん倒れてますね。何人か顔面から出血してます」


はい、そのままの光景でした。人の声のする方に進むとひらけた場所があって、いくつかテントのようなものまで建っていたのですが、そこには何人もの人間が倒れていました。剣でやられたというよりは顔面を殴られたっぽいやられ方で、仰向けで倒れています。男の人ばかりですが、よく見ればテントの奥で怯えている女性が居ました。嫌な予感がするので話しかけませんけど。


「じゃああれは?」


(おり)じゃないですか?獣とか罪人とか入れるための」


かなり大きい檻でした。それに、一本一本の鉄棒の直径が5センチくらいある頑丈な檻です。大きいけど、隙間から人間が出れるような隙間はなさそうに見えます。


「壊れてません?」


「壊れてますね。多分腕力でこじ開けたんでしょうね。アーチボルト様をあの檻に入れたんでしょうね」


「ちょっと私にもできるか試してきます」


「ロイス様なら出来ますよ」


「どういう意味ですか」


「ええ……そのままの意味ですけど……」


まあ、でも無駄話してる暇はありませんでしたね。私たちは、とりあえず人が倒れてる方向に進んでいきました。遠くからまだ悲鳴が聞こえますしね。道が平らになったので、ルドガーさんも私も、今度は走って向かいます。これ以上アートに人を(あや)めさせてはいけませんからね。あ、殴っただけで殺してはないのか。鼻の骨くらいは折れちゃってんじゃないのかな。貧乏だからこんなことやってるなら、病院にも行けないでしょうに。


進んでいくと、今度は聞き覚えのある声が。


「ロイスをどこにやった!!指先から皮膚をはがされたくなかったら今すぐ答えろ!」


……と、案外アート〝たち〟とは早く再会できました。開幕から物騒な発言してますね、綺麗な顔して怖いのが逆に好感持てますよ、アート。


「そうだそうだー!!殺されたくなかったら馬返せー!」


「落ち着きなさいってアーチ!ラーラも余計な事言わないの!!」


「ひい!!に、逃げちまったんだよ!!」


「嘘だったら殺すからな……」


「アート!私はここですよ!」


「ロイス!!」


アートは、急にものすごい嬉しそうな笑顔で私のほうに振り返りました。頭を掴んで持ち上げて脅迫していた山賊の一人をポイッと紙ごみ投げるみたいな感覚で投げ捨て、私の目の前まで走って来て立ち止まります。私が何か言おうとした直前に、また今度はセドリックさんたちのほうを振り返ります。


「おいっセドリック、私はロイスをどさくさに紛れて抱きしめてもいいだろうか?」


「なんでアタシに確認とんのよ!!」


「ロ、ロイス。感激のあまりつい抱きしめてもいいか?」


「もはやこの間を置いてからでは、衝動的な抱きしめには当たらないのでは?」


ヘンな所が真面目なんですよね。でもそんなところも好き。


「うーん……タイミングを逃してしまったな。そうだ、どうやって逃げてきたんだ?」


「ルドガーさんの手錠が元々壊れていて、ルドガーさんが見張りを倒して手錠の鍵を見つけてくれたんです。さすが元軍人さんですね!ねっルドガーさん。そうでしたよね」


「は、はい。その通りです。運が良かったと言いますか、ハハ……」


もっと自然な演技を期待してたんですが、まあうまく誤魔化せたことにしておきましょう。アートが控えめだったために感動して抱きしめていただくことはできませんでしたけど、長い人生いつかはそんな機会もまた訪れることでしょう。そのときは確認取らずに衝動的に抱きしめてよねっ!アート。


「アートはどうやって?」


聞かなくても大体わかるんですけどね。


「檻を手で掴んで無理矢理引っ張ったら、運よく脱出できたんだ。あと、手錠も手で握りつぶしたら運よくとれた」


「それは運が良いとかいう問題なんですか?」


「アタシたちをアーチと同じ檻に入れたのは失敗よね。アーチってば自分が出てから檻をもう一回閉じて、周りの山賊を全滅させてからまた檻を開けてアタシたちを出したのよ。檻の中にいれば敵も何もできないしね」


だから檻が何度もいじったみたいにぐにゃぐにゃだったんですね。針金か何かみたいな柔らかさなんじゃないかと錯覚してしまいます。ぜひ現場を見たかったですね。話を聞いていると、確かにアートに比べれば、全然自分は普通な感じしますもん。いや、ちょっと怪力なだけで私は普通なんですけど。


「あ、荷物。探しに行こうロイス。手を繋がないか?」


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう、アートは両手をフリーにしておいた方がいいです」


「そうか。あ、今度こそ守るから後ろに居てくれ」


「はい!」


では、守っていただきましょう。そして荷物を取り戻さないと。


レオンさんと馬も、あと買ったばかりの画材も無事だといいなあ。


私たちは、怯えてテントに隠れる〝住民たち〟を横目に、集落の更に奥の方へ、進んでいったのでした。



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