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「フーンフーンフンフ〜ン」


鼻歌を歌いながら、楽しそうにラーラが馬を操ります。なんだか心なしか、ルドガーさんの馬車より揺れが少ないような。快適というか、気のせいでしょうが馬も楽しそうに見えます。大自然を生きてそう。動物と話せてそう。


「ねえ、気になってたんだけどロイスちゃん」


「はい、なんでしょうセディさん?」


私は馬車の中でセディさんと向かい合って、やはり手持ち無沙汰ですし、揺れる馬車の上で絵を描くのも難しいので編み物をしていました。一応アートに編んでいるんですが、公爵様はセーターとか着るんでしょうか?いや、公爵様というだけで色眼鏡で見過ぎですかね?普段着は普通なのかも?


「アンタ、なにかアーチに隠してるでしょ。ううん、誰にも隠してることが何かあるはずよ」


なにを言い出すんでしょうこのオカマ。その〝アタシは察しが良いわよ〟感を出してくる感じ。ああ、私、実は穏やかで可愛らしいガールズトークを期待していたりしたんですが。


「うーん……人間誰しも人に言えないことの一つや二つ、あるんじゃないでしょうか?」


「ううん、普通の人にはないような秘密よ」


女だけになったし腹割って話しましょうよ、なんて腹積もりなのかもしれませんけど、急に?!と思ってしまいます。大体、私がそんな秘密を持ってたとして、出会って1日2日の人にアートにも言えないような秘密をペラペラ話すわけがないじゃないですか。もう、本当に変な人なんですね。


「せっかく会えたんだし、ロイスちゃんにはアーサーの話してあげるわね」


「アーサーさんって……アートのお母さまでしたよね」


「アーサーは昔ね、自分の記憶力が誰より良いことを、家族にも友達にも、全ての人に隠してたの。」


「記憶力がいい……覚えがいいってことですか?」


「そう。それも人よりちょっとすごい、なんてもんじゃない。会った人の顔と名前は絶対忘れないし、道端ですれ違った人間の性別や人数、持ち物や服装、全部記憶できた。


ある時、喫茶店で話してた時ね。ベルラにあるアタシの友達が経営する雑貨屋さんで、3年前からずっと保管してあった落し物の話をしたの。豪華な青い腕輪だったから、捨てるに捨てられなくて。でも落し物を売るのもなんだかって感じじゃない?


そしたら、見せてみろって言うからその雑貨屋にアーサーを連れてって腕輪を見せたのね。アーサーは〝3年と6日前の午後2時に雑貨屋の前ですれ違った女の人が、その青い腕輪をしていた。顔を覚えている〟なんて言い出して。しかも、ベルラの西の端の街でも見かけたって。腰にハサミとか紐の束が入ったベルトをしていたから花屋さんだろうとも言い出したわね。


まあとにかく、あっさり持ち主を特定しちゃったの。


視界に入るものは色だろうが顔だろうが数字だろうが、鮮明に記憶できちゃうんだって。それも何年も経っても全部覚えてる。一分、一秒単位でね。頭の中身の造りがきっと他の人間と違うのね。それがコンプレックスでずっと隠してたらしいの。はっきり言って普通じゃないわよ」


……なんとなく真面目に聞いてましたが、そんな、そんな馬鹿な。でも、アートのお母さんだと思うと微妙に信じてしまえそうなのも恐ろしいです。あの人、人の痛みを吸収できるとか、私の居場所が分かるみたいな特殊能力持ってましたし。……それは私がアートと手を繋いでリラックスしたから痛みが和らいで感じたというだけの気のせいで、居場所が分かるってのも、アート特有の口説き文句なのかもしれませんが。


「そ……それはすごいですが、両親にもバレなかったのはすごいですね。だって、そんな能力があったらどこかでボロが出そうなのに」


本当にそんな人間いるのお?とは思ってしまいますが、この際どんなびっくり人間が居ても信じましょう。セドリックさんがそんな嘘を私につく意味も分かりませんし。でも、そんなに色んなこと覚えてたら、新しい情報が頭に溜まりすぎてクラクラしちゃいそうです。


だって、ぼんやりご飯食べてる時だって頭の中には鮮明にあらゆる記憶が存在してるわけじゃないですか?アーサーさんにとっての頭の中の記憶の在り方がよく分かりませんけど……コンプレックスになってたなら、本人が望んだ能力でもないでしょうし。


「そう。アーサーは加えて、人並み外れて頭のいい子だったのよ。子どもの頃から全てを理解していた。自分の能力が知れたら大騒ぎになるし、悪人に利用されかねないってこともね」


「……それ、私みたいな馬の骨に平然とバラして大丈夫なんですか?」


「今は隠してないから平気よ。アーサーは今の旦那に出会ったからね。あ、アーチの父親ね。それに、なに言ってんのよ!馬の骨だなんて、将来のエインズワース家のお嫁さんじゃな~い!」


「あ……確か、アートの両親のときも求婚断られて何年もかかったとかって」


「そ。仕事人間のうえに、そんな誰にも知られたくない秘密があったアーサーは求婚なんて冗談じゃない。だからずーっと突っぱねてたらしいけど、んま〜〜しつっっこい男で!!」


しつこいというとなんだか語弊がありますが、根性強く執念深いという点ではアートはお父様似なのかもしれませんね。私にとってはありがたいことなのかもしれませんが。


「アーサーはあんまり教えてくれなかったけどね、要約するとその旦那はアーサーよりもずっと人間離れした力があったらしいのよ。そんなことできる化け物に比べれば自分の力くらいバレても大したことないわって思ったんだって。あと、あんまりしつこいんでそんなに私のこと好きなら結婚してやるわよって折れたらしいわ」


うーん、投げやりなような。でも結婚してるんですし照れ隠しで、きっと旦那さんのこと好きなんでしょうね。アートに似たお父様なら、きっと素敵な人なんでしょうし。


「全部を記憶できる力よりも人間離れした力ですか……想像もつきませんね」


「これは噂なんだけど、目から破壊光線も出せるらしいわよ」


「えー!?セディ、それホント?!カッコいい!!ていうか破壊光線ってなに?」


「破壊光線って言ったら破壊する光線よ。ビームみたいな?ってラーラ!!前見て馬車引きなさい!!」


今度は破壊光線と来ましたか。なんとまた馬鹿馬鹿しい。ていうか本当に破壊光線ってなに?でもアートの親ならそう言った謎超能力が使えてもおかしくないかも。うーん、恐ろしき一族。


「だから、もしロイスが隠してることあったら。多分、エインズワース家のお嫁さんだから何かあるんだろうけどね、呪い以外にも。気にせずアーチには言っちゃえば良いと思うのよ。噂によればアーチのひいお婆さんなんか、髪の毛が本物の純金で生えてくるらしいわよ。毎日髪を引っ張られ切り売りされて苦しんでたんだって。」


「純金……」


頭おかしい情報が多すぎて気が狂いそうなんですけど、そう、確かに。


私が両親にも、友達にも、アートにも話そうと思わなかった〝秘密〟なんて本当に大したことじゃないんです。ほんの少し人と違う点ですが、ミサカツキで先生から呪いにまつわる、あの昔話を聞いて合点がいったのも事実。


「そうですね、でも私の秘密というのは、女の子的に恥ずかしいところなんですよね」


今までの例に比べ大したことがないのですが、そんなわけで言いませんでした。女の子にはみんな、なにがしかの秘密があるものなのです。知りませんけど。


「恥ずかしいところかあ、スゲー毛深いとか?!」


発想が女の子と思えません。ラーラはさっき怒られたからか、進行方向を見たままでそう言いました。相変わらず馬車はガタガタとうるさいので割と大きめの声で会話していたのですが、前を向いていてもはっきり聞こえる音量でそんなこと叫ばないでいただきたい。


「ラーラ!失礼な事言うんじゃないの!しばき倒すわよ!!」


「えー?!ごめんなさーい!!」


「毛深くはないです!!」


ちゃんと否定しておきます。


「アンタも真面目に答えなくていいの!ま、言っときたかったのはそれだけだから。アタシとかに話さなくていいけど、アーチは多分よほどのことが無きゃ驚かないから。」


「……ありがとうございます」


うーん、なるほど、純粋なる好意からのお話でしたか。心の中で迷惑がってすみません、ほんといい人ですよセドリックさんは。


「でも……大したことじゃないからこそアートには話さないと思います。そういうたぐいの秘密があるのは正解です。聞かれて答えることになるとちょっと恥ずかしいので、私に秘密があるって、アートには秘密にしてくださいね」


「や〜んもう、カワイイ!絶対カワいくない秘密抱えてそうだけどカワイイ!ラーラもこういうおしとやかな子になりなさい!!」


「えー?!うるさくて明るい方が最高じゃん!!」


「うるさいのも最高要素なんですか?!」


女の子らしいガールズトークはまたの機会に。どんどん民家はなくなり、なんだか周りの風景が薄気味悪く、身を乗り出すとすごく遠くに、街境の例の、ラーラが襲われた森が見えてきました。空は雰囲気に飲まれていくように曇っていき、いかにもこれからヤバいことが起こりそうな嫌な感じです。


「そこの箱に剣が入ってるから取ってくれる?あと、ロイスちゃんは何か武器持ってる?」


「あ、えっと、アートに買ってもらった短剣がひとつ」


え、なにかと戦う感じなんですか?なんでこんな位置からすでに臨戦体制なんでしょう。怖いんですけども。


「ラーラさ……ラーラは?なにか持ってるんですか?」


「ノコギリ!!」


「怖っ!!」


急激に不穏になった雰囲気の中、私達の馬車はアートたちの馬車と横並びで、森に向かって進んでゆくのでした。





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