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翌朝の朝食後、私、レオンさん、アート、ルドガーさんの4人は一番大きいレオンさんの部屋に集まりました。元々馬用だから広いのです。


机を部屋の中央に置いてそれを囲むようにしてそれぞれが立つと、アートが大きな地図を机に広げました。その地図には現在地や目的地の場所などの場所に印がしてあり、行くべき経路なども描きこまれています。やっぱり几帳面と言うか、なんというか。


「目的地は国の中でもかなり東側のレイアスという町だ。貰った地図でいくとアニスに戻ってそのまま東に向かい、ロイスの故郷のタカムを避けていくとアドミレという街を通って、ハインという街を通って、その先だ。そう考えるとロイスの先祖たちは居住地を結構移動したんだな」


「うわ、かなり遠いですね」


地図を見ると、今いる場所が一番左側くらいにあって、レイアスは一番右にありました。タカムを避けずに行けばほんのちょっとだけ距離を短縮できますが、私の家族に見つかったらゲームオーバーですし。


はあ、馬がダメになったのに、更に今までとは比べ物にならないほどの規模の大移動をしなければならなくなってしまいました。本当にどうしたものやら。先生やらアシュレイ様やらが超能力とかで現地まで瞬間移動させてくれれば楽なんですけど、流石にそんな便利なことは無いでしょうね。


「なんだか今更ですけど、タカムもアニスも小さい街なんですね。アニスはタカムの倍くらいの領地ですけど、アドミレもハインもアニスの4倍くらいでかいですし」


「算数の問題みたいな言い方だな」


「どういう意味か分かりませんが、これってどのくらいかかるんでしょう?」


「……そうだな……いや、でも急げば2週間以内には行けるだろう。今までのように一カ所に3泊じっくり観光とかはできないが……。あと、ロイスはできればタカムに寄って家族やら街の知り合いや友人の顔を遠目にでも確認して記憶しなおしてから行った方が良いかもしれないな」


私の家族に見つかったらゲームオーバー、でも、アートの言うこともそれはそうなんですよね。知り合いの顔をもう一回おさらいというか、確認した方がいいのかも。それとも、呪いが解けたら過去に忘れた人の顔も思い出せるとしたら必要ないのかも?うーん、でも念には念を入れた方がいいですよね。


「……そうですね……確かに、呪い解くのに1か月猶予ができますもんね」


「セーブポイントというわけだな。くれぐれもお前の家族に見つからないように気を付けたほうがいいが」


「ええ。変装とかどうでしょう?」


そう言ったとき、横開きのドアが勝手に開いて先生が入ってきました。隠すこともないので別にいいんですけど、プライバシーとかゼロですよね、この街というか集落って。


「そんなリスク犯さなくても顔を覚える方法はあるだろう」


「あるんですか?」


望遠鏡オペラグラスだ。顔が割れてるロイスとお前……アシュレイの……その……なんか孫みたいなやつも。遠くからなら心配もいらないだろう」


「ア、アーチボルトです」


なんでかたくなにアートの名前を覚えられないのか分かりませんが、お年寄りですからね。仕方ないのかもしれません。


それに私も、結構会っているアイリの妹さんの名前とか忘れててアイリの妹としか記憶してませんし、そういう知り合いの関係者的な覚え方をしているのかも?


先生が私を名前で呼ぶのはまあ、流石に「アシュレイの子孫の嫁候補」とか言うと長ったらしすぎますもんね。そういう理由じゃないかと思います。


「今の世界にはあまりないものだから、くれぐれも関係ない者には見せびらかすなよ」


「はい!」


「おぺらぐらす?」


「でも、こんなものを頂いていいんですか?」


アートが驚いているのでスゴいものみたいです。


「すごい、こんなに小さくて携帯できる望遠鏡を実際に見たのははじめてです。王都の展望台に行ったことがあるんですが月しか見えなくて星はちっともで……」


「やめろ。オタクみたいな話をしはじめる気だろう、お前の一族はみんな無駄にオタクみたいで面倒なんだ。言っておくがショボい望遠鏡だから月くらいまでしか見えんぞ。興奮するほどのクオリティのものではない」


「こんな進んだテクノロジーを目の前にして興奮しない人間なんていませんよ!私だけじゃありません!オタクでもありませんし」


おたくってなんでしょう、二人だけの世界を繰り広げないでいただきたいのです。


「これは天体観測をする機械なんですか?」


空気を読まずに聞いてみました。すると、アートがニコーーーっと笑って私の両肩にそれぞれの手を置きました。私が驚いて固まっているとアートは次にこう続けます。


「望遠鏡というのはな、まず1608年にオランダのハンス・リッペルハイという人が発明したんだ。その一番はじめの望遠鏡は光を集める部分にレンズを使った屈折式の望遠鏡でな……」


1608年とはどういう意味でしょう?オランダとはなんでしょう?リッペルなんちゃらいうのも変わった名前ですし、知らない単語が多すぎて話が右の耳から左の耳に流れて消えていきます。


「やめろ!長い話は私が立ち去ってからしろ!」


嬉々として、これから2時間は望遠鏡について語りたそうだったアートは、先生に言われて残念そうに私の肩から手を離しました。ルドガーさんもレオンさんも、難しそうな話になると魂が抜けたように眠そうな顔になってぽけーっと黙っています。分かりますよ、私も当事者じゃなければ爆睡していたでしょうから。


「とにかくそれをやるのと、馬が減って不便だろうから荷馬車を用意してやった。荷物をそれに積んで、運転者以外は座っていれば楽だろう」


「えっ荷馬車を?!そんなことまでしていただいてすみません!」


いくら万能そうで金もってそうでなんでも作れちゃいそうな先生であるとはいえ、無償で衣食住の世話をしていただいた上に荷馬車や謎の望遠鏡とかいう珍しい機械まで提供していただくのは心苦しいというものです。


「お前たちのためじゃない。アシュレイには替わりに手編みの下手くそなマフラーを貰ったから、そのお返しに子孫への施しをしているというわけだ」


そう言って先生は謎の縮れた赤い毛糸の塊を指でつまんでどこからか取り出しました。まさかそれはマフラーなんでしょうか?アシュレイ様は一体なにを思ってそんなものを先生にプレゼントしたのでしょう?ものすごく手先が不器用なんですね、なんか笑ってしまいそうです。


でも、それをもらったお返しに荷馬車って。先生、アシュレイ様のこと好きなんでしょうか?うーん、分からない。


「ありがとうございます。私たちは明日の朝出発しようと思います」


「ああ。結婚式には呼ばなくても勝手に出るが、子どもが生まれたらここに連れてこい。ビーフシチュー作ってやるぞ」


「びーふしちゅーですか?」


いや、びーふしちゅーも謎でしたがそれ以前に、結婚して子どもを産む前提で話さないで欲しいんですが。アートが照れて黙っちゃったじゃないですか。


「私はまた出かけてしばらく帰らないが、今日はゆっくりしていけ。じゃあな」


「ありがとうございました!」


「ありがとうございました!」


私とアートはお礼を言って、ルドガーさんは静かに頭を下げて、レオンさんはなんだか深々と頭を下げて先生を見送りました。そうして、私たちはここで先生とお別れしたのです。


その後は無事、アートの望遠鏡の歴史と仕組みについての講義が2時間に渡って行われ、レオンさんとルドガーさんは爆睡、私は起きていましたが眠気で気絶しそうになったのでした。




次回、荷馬車で長旅に出発です。

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