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恋愛観についてのお話が聞きたい、という事で公爵様に話をしはじめた私でしたが、一体何やってんだかってかんじですよね。結構はっきりと家に帰るのも結婚もお断りしたと思うのですが、こうグイグイ来られると感じ悪い態度を取るのも忍びないですし。


「5歳の頃、誕生日に小さいお祝いの会が開かれたんです。双子の姉には大きな箱に入った色々なプレゼント、私には何もなし。でも私にとってはそれが昔から普通だったので、特に何も言いませんでした」


「……」


この時点で既に公爵様が、悲しそうな顔で私の顔を凝視しているのが視界に入っているだけで分かってしまいます。涙もろいのでしょうか?それとも感情移入しやすい?もしくは同情してます感を出しているのでしょうか?そうそう、恋愛観の話でしたね。


「でもその日、一人で部屋で本を読んでたら、窓に小石がぶつけられたんですよね。外を見ると、男の子が立ってて」


「知っている男の子だったのか?」


「はい。街に来ていた行商人の息子さんで、街に買い出しに行った時に何度か会って話していたんです。私は急いで親の目を盗み、外に出ました。男の子は私に紙の包みを渡してきて、何かって聞くと誕生日のプレゼントだって言うんですよ」


「いいやつだな」


そうなんです。とってもいい子でした。公爵様はえらく感心した様子で、うんうんと満足そうに頷きながら聞いています。こういう行動をされるとつい、少し可愛いな、なんて思ってしまうのでやめてもらいたいんですが。


「はい。中を開けると、可愛い凝った細工のくしが入っていて。働いて貯めたお金で買ってくれたそうで、すごく嬉しかったんです。行商人の子だったのでそれからすぐに他の街へ行ってしまったんですが、別れ際にまた会おうって言ってくれて。初恋はその男の子だったと思います」


「その櫛は今も持ってきたのか?」


その質問に私は少しばつが悪くなりましたが、もう家出しちゃったし好き勝手暴露してしまえ!となかばヤケになって笑いながら答えてしまいました。


「姉に、ゴミと一緒に燃やされちゃいました。木の櫛だったので炭になっちゃって、ハハ」


「なに?!お前の姉はとんでもない女だな!怒らなかったのか?!」


「まあ、怒ったところで私の味方なんていませんからね……」


家族の悪評を公爵様に言いふらすのは家のために良くないですが、もう戻る気はないし、必要なものは全部持ってきたのでどうでもいいですよね。トカゲの尻尾切りってやつです。元々、私は買ってもらったものも少なかったですし。


「あ、でも燃え残ってた櫛についていた綺麗な石はほら、この小さい袋に入れていつも鞄につけているんですよ。私の宝物(たからもの)です」


私は鞄につけていた小さい袋から石を3つ取り出して、公爵様に見せました。水色、緑、紺色。透き通っていて宝石みたいに綺麗ですが、少年は「がらす」というものなのだと言っていました。


「綺麗だな、君によく似合う色だ」


「あ、ありがとうございます」


直球でそんなことを言われると照れてしまいますが、言いなれているんでしょうね。でも、誰かをごく自然に褒められるということは素敵な事です。こんな人には、私なんかではない素敵な人が他にいくらでも居るはずなんですが、なんで私なんでしょう。


それにしても、こんな話を誰かにしたのははじめてです。そもそも聞かれなければこんな話しませんし、私に好意を示してくれる人があまりいなかったのですからそれも仕方ないでしょう。アイリとも恋愛系の話はしたことがありませんでしたし。


「今もその男の子が好きなのか?」


「え?あはは、さすがに今は思い出としか思っていませんよ。でもそういう、素朴で地味だけど優しいって人と私は一緒になりたいんです。あなたと話していて、とてもいい人なんだとは思います。あなたと結婚する人はきっと幸せになれるでしょうね。でも公爵家だなんて、私には荷が重すぎますから……」


「そんなこと……」


「それに、タイミングさえあっていれば、あなたと結婚して幸せだと思う人生を送っていたのかもしれません」


「タイミング?」


公爵様が不思議そうな顔をします。ここまでの話では、私が単純に家族を嫌いだから家出してると解釈されてもおかしくないでしょうから。まあ、それが全く関係ないとは言いませんが。


「私が家を出ようとぼんやり思い始めたのは結婚が決まってから、両親が急に私を気にしはじめたからでした。食事が姉や両親と同じくらいのものになったり、家事をやらされなくなったり」


「嫌だったのか?」


「いいえ?逆ですよ。公爵家から宝石が送られてきたとかで機嫌も良くなって、私の生活の待遇も前よりかなり良くなって。いままで一人だけちやほやされてきた姉はそれに対して不機嫌になりましたが、でも、それをどこかでざまあみろって思って喜んでる自分が情けなくて。いままで両親はちっとも私に興味がなかったですから……自分は、ここにいるだけでどんどん醜い心の持ち主になってしまうと思ったんです」


それは、どうしようもなく私の本心でした。自分が姉や両親のような人間になるのが嫌だった、と言ってもいいかもしれません。私は私の家族の、誰かを見下しゴミのように扱うその心の在り方を醜いと思っていましたし、だからこそこうはなるまいと勤めていたのです。都合のいい相手だけにうわべだけの親切をするところも嫌いだったのに、自分に両親が親切になってどこか嬉しいと思ってしまったのです。


だからこそ、、公爵家に嫁ぐことで私が「自分が偉くなった」なんて勘違いして、同じようにほかの誰かを見下すようになってしまうかもしれないと思うとそれがおぞましく思えたのでした。


「私が宝石を贈らなければ君の生活も変化しなくて、家出をしようと思うこともなかったのか?そうしたら私と何も言わずに結婚したのか?」


「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれません」


どっちつかずの回答で申し訳ないとは思うのですが、自分でもはっきりとは言えないのです。今日、公爵様が訪ねてこなければ咄嗟に家出しなかった可能性も高いわけですし。


「……そうか。でも私は、ロイス。自分の心の変化を感じて踏みとどまることのできる人間こそ上に立つべきだと思う。人の上に立つ人間には、強い理性というものが必要だ。私は誰かを見下している気は無いが、公爵だ。気づかないうちに誰かを下に見て、嫌な目にあわせているのかもしれない。君が傍にいてくれれば、自分のおかしい部分に気が付ける気がするんだ」


「私には、そんな……」


大した関わりもないのに、私を買いかぶりすぎなのではないでしょうか。一目ぼれというのが仮に本心だとしても、私の方に彼と会った記憶が無いのでなんとも言えないのですが。知らないうちに何か彼に対しすごく得になるようなことをしたことがあるとか、私に恩義を感じているとか、そういうことをされるような覚えもありません。私はそんなに善人ではありませんからね。


「あなたはどうして、私に求婚をしたのですか?」


今度は私が公爵様に質問します。公爵様が私の方を向いたのが分かりました。この会話の最中、私はずっと、流れていく地面ばかりを見つめていたのです。公爵様の目を見ると、自分の浅ましさとかふがいなさとかがバレてしまうみたいで、なんとなく、もっと情けなくなってしまいそうで。ようするに、こんないい人が私なんかのためにこんな田舎に尋ねてきてくれたことが、とても後ろめたかったのです。


そんな時、ガタンと荷馬車が一度大きく揺れて止まりました。おじさんがすぐに私たちのほうにやってきます。


「二人とも、隣町についたよ。ロイスはここまで来るのはじめてだろう?ここがメイスフィールド公爵領、花の街アニスだ」


そう、いつの間にやら私たちは、隣の町まで到着してしまっていたのでした。


3話目です。読んでくださってありがとうございます!

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