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私たち四人は焚火(たきび)を囲って向かい合いました。結局、森の10メートル以上手前です。あまり森に近い場所で火を焚いてふとした不注意で山火事、というか森火事になったら危険ですからね。手を繋いで踊りでも踊りますか?アート。


……とまあ、そんな状況になりましたが私は馬の王子様(レオン)から意図的に遠ざけられたため、両隣にアートとルドガーさん、焚火を挟んで正面に王子様が座っています。私、レオンさんは危険な(ひと)ではないと思うんですけどね。


少しの沈黙の後、レオンさんは再び口を開きました。


「わたしは南の島、エリゾアの第二王子として生まれた。本来ならば国王になるのは第一王子だが、第一王子である私の兄アリアは生まれつき体が弱く、目が良くなかった。だから多くの権力から私が国王の後継者として持ち上げられていた」


「よくある話だな」


アートはなんだかむすっとしたような顔で言いました。


この国アズライト帝国には、今王子は1人しかいません。でも王子の人数が多いと、自分が王になろうと画策する王子や、王子が望んでいなくても王子の母親が自分の子を王にしたがることだってあります。そんなこと、どこの国にだってよくあることなのです。


ましてや自分の国ですから、ちゃんと治められそうな人に王座について欲しいと思うのは当たり前。体が弱くては王様という重労働には耐えられないかもしれません。でも第二王子を王にするために汚い手を使うのは、よくないことだと私は思うんですが。


「私は王になれようがなれまいがどちらでも良いと思っていたが、第一王子への反対勢力が国内の大半を占めるようになってしまった。アリアはとうとう命を狙われるようになり、毒を盛られ寝たきりになってしまったのだが……国王はどうしてもアリアを次期国王にしたがった。」


「どうしてですか?」


体が弱い上に寝たきりの息子を意地でも王様にしようだなんて、感覚が理解できません。陰謀に立ち向かう力も無い人間を無理に王様になんてして、本人が喜ぶわけもないのに。


いや、その寝たきりのアリアさんに聞いてみなきゃ、その人の気持ちなんて分からないですが。私は王様じゃないから王様の気持ちだって分かりませんしね。


「私の母が異国の人間だったためだ。自分で側室にしておきながら……まあ、私は髪が赤かったからな」


「栗色じゃないですか。というか茶色?」


「人間の時は赤毛だったんだ。今も戻れば赤毛だろうよ。エリゾアの直系の血縁者は必ず髪が白い。赤い髪は血の色だと国王は私を退(しりぞ)けた。髪色など気にしている余裕などわが国にはないと、国王以外の皆が理解していたのに」


慣例を気にする頭の固い王様だったんですね。でも、王様以外のほとんど全員がレオンが王様になればいいと思っていたなら、なってしまった方がアリアさんも命を狙われずに済むのに。親としてどうなの?いや、どちらにしても狙われるんでしょうか?うーん、王族のことはよくわかりません。


「あなたのお母さまは赤毛じゃなかったんですか?」


「灰色の髪だった。だが私の祖母が赤い髪だったそうだから、隔世遺伝というやつだろうな」


「へー」


「それで?なんで馬になったんだ。夜更かしはロイスの体に悪い、簡潔に話せ」


別に夜更かしは私じゃなくても体に悪いと思いますけど、まだ7時ですよ?確かにもう外は真っ暗ですけど……とか思っているうち、ルドガーさんはすでにあくびをし始めていました。あなた、火の番をするとか言ってませんでした?


「そんな状況下にあった一か月前、国王専属の呪術師に私は呼び出された。」


「ストップ!!呪術師ってなんですか?!現代にそんなの居るんですか?!」


「アズライトにもいるぞ」


「いるんですか?!」


神官とか、神様に仕える聖職者の方は今もたくさんいますけれど、呪術師だなんて聞いたこともありません。呪うんですか?そんなの大っぴらに職業として名乗っていいもんなんですか?


「というか、なんでそんな怪しい相手について行ったんですか?!」


「昼間だったし人通りもある街中の建物だったから警戒をしていなかったんだ。」


この王子ウマ迂闊うかつすぎませんか?でもまあ、油断してたなら仕方ないですよね。不運な人を責め立てるほど私は厳しい人間じゃありませんよ。ええ、そうですとも。


「そして俺は薬で眠らされ、目が覚めたら……」


「体が縮んでしまっていた?」


「アート何言ってるんですか、どちらかというと拡大してるでしょう」


私の言葉にアートは少しニコッと笑いました。何笑ってるんですか、別に面白いことなんてありませんよ。


「目が覚めたら馬になってたっていうんですか?で、なんでこの国のあんなところへ?」


「そのまま口輪をされて貨物船に乗せられ、この国に流された」


「酷いですねえ、本当の話だったら。」


いわゆる島流し?ちょっと違うかもしれませんが。でも、レオンがなぜこの国に居るのかという理由は分かりましたね。まあ、本当の話かどうかは分かりませんが。


「エリゾアに一番近いのはさっき言った通りガルドスだから、適当に近くの港に投げ出した結果、そこに近いこのアニスの端あたりまで売られてきたというわけか」


馬に変えたとはいえ喋れるなら、もっと遠方に移動させた方が良かったと思うのですが、小さい国のようですし、予算がなかったのかな?なんて。


「それで暴れ馬として厄介者扱いを?買われまいと?」


「当たり前だ。扱いの荒そうな人間などに引き取られてはろくな目に遭わんからな」


ああ、買われないようにわざと暴れていたわけですね。で、馬に話しかける私を協力者に選んだと。いやいや、私はよく気が強そうだと言われるのですが、よく私を選びましたよね。意地が悪そうな顔なのだろうと自分で思っていましたが、赤の他人が「協力してくれそう」と私を見たということなので、ちょっと自信がついてきちゃいます。


「喋って事情を説明すれば良かったのでは?」


「馬が喋るんだぞ。見世物小屋に売られるだけだ」


「それ自分で言うんですか?」


でもその通りかもしれません。人間は赤の他人、いえ、他馬たばの話をそう簡単に信じてくれる生き物ではないのです。あるいは信じてくれるかもしれませんが、そんな小さい国の王子だと面倒がって協力してくれないかもしれませんし。


「呪術師とやらも、本当に第一王子を王にしたいのなら馬になどせず普通にほうむれば良かったのに」


これっアート!王子様にそんなこと言うもんじゃありませんよ!でも確かに、馬にできるくらいなら殺害なんて簡単な気がしちゃいますよね。どうなんでしょうね、不思議ですね。


「それは出来なかった。私には、魔術師だった亡き母からの守りの加護がついているからな。直接命を絶つことが奴らにはできない」


「おとぎ話か!!」


というか守りの加護って、そんな頭痛が痛いみたいな!!


「落ち着けロイス、魔術師だってこの国にもいるぞ」


「そうなんですか?!」


この国、私が思うより何倍もファンタジーでメルヘンな世界なんですね。馬が喋るしアートの家は異常にご長寿だし、魔術師がいるし呪術師がいるし。アートはみーんな知っているみたいですがルドガーさんなんかは、そうなんですか?!って顔をしています。有名なわけではないんでしょうね。


「まあ、だがおおやけにするような職業じゃないし、何しろ呪うだの物を宙に浮かせるだの、眉唾な話ばかりだ。呪いに至っては相手が死んだとしても呪いのせいかどうかなんて分からないし……」


「あ、なんだ……新興宗教的な話ですか……」


呪いって私は信じてないんですよね。目の前に喋る馬がいるのに呪いを信じないのか?とも思うのですが、いえ、なんか馬にされるのにはきっとこう、科学的な……異国の伝説で言うところのキメラのような……


って、勉強もろくにしてない私が科学を語るのは馬鹿馬鹿しい話ですね。でもやっぱり目に見えない不思議現象ははっきりとは信じられないんです。エインズワース家の異常ご長寿伝説は気になりますけど。


「いや、それも違うな。呪いがない、というわけではない。呪術を使ってのしあがり、国でも上の権力を手にしている公爵家もある。」


「呪術でですか?」


「相手の家の者を呪ったり、王に近づき王の望む者を呪い殺したり……」


「うーん……でも実際にのし上がれてるなら、本当に呪えるんでしょうかね……」


「馬鹿馬鹿しい、暗殺ですよ暗殺。どうせ毒を盛って呪いに見せかけたんですよ」


ルドガーさんが言うと、アートは焚火にかけていたポットからコップになにかを注ぎ、私に渡してきました。中を見てみるとココアのようでした。温まりますよね、私も少ないお小遣いでたまーに飲んでいました。贅沢品です。


「あ、ありがとうございます」


「呪いがないとは言い切れない。誰かに恨まれたり嫌われることも呪いだ。誰かが〝あいつは馬車に轢かれて死ねばいい〟と言ったとする。その直後にそのあいつ、が轢かれて死んだらそれは偶然なのだろうか?」


「偶然じゃないんですか?」


だって、口にしただけじゃないですか。


「偶然かもしれないし偶然じゃないかもしれないが、それが何度も重なり人間が呪いは実在すると思い込めば、そこで呪いは現実のものとなる。神と一緒だな。」


「神さまですか?」


「そうとも。神なんて誰も見たことがないのに、必ず居ると信じる者が大勢いる。それはなぜか?信じていく上で、それが現実に現れたからだ。人間の信じる〝概念〟であった神が実物としてあらわれる。」


話が全然飲み込めません。神様だって実在はしてないじゃないですか。いえ、私が会ったことないだけで存在するのかもしれませんけど……


「私は神様ってあまり信じていないんですが、アートは信じてるんですか?」


「信じているさ。なぜなら……」


「おい、俺を無視するな。」


そこで口を挟んできたのはレオンさんでした。確かにアートの話を聞く感じになってましたけどレオンさんの話をしてたんでしたよね。


「レオンさんの話、続きがあるんですか?」


というかアート!なぜなら、なんですか?!私は聞きたくてたまりませんでしたが、空気的に聞けないままでした。いつも肝心なところで聞き逃します。


「これは、俺の母が殺された日の話だ。」


あらあら、なんだか重たい話になりそうです。


私はココアを一口飲んでから、正面のレオンさんの話に再び耳を傾けることにしました。



わ〜!ブクマがいっぱいで嬉しいです!ありがとうございます!ここまで登ったら後は落ちていくだけ、皆さんもうしばらくこの旅にお付き合いください。

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