第四話 スクリーンを眺めて <幕切>
二.五 幕切
虚勢を張った私の姿が浅はかに見えるのならば、せめてこの無意味なまでに肥大した偽りの威勢を纏ったまま終わりたいと思った。
しかし、映画館のホールで見た小さな姿とは違い、異常なまでに膨れ上がっていたあのモヤモヤは、天井の吹き抜けから降りてきて、私の鬼火を丸ごと包み込み、そのまま消火してしまった。
あっけない幕切れだったと思う。私らしいといえば私らしかったが。
「けむおが、で、でかい!」と、長浜さんの隣で旦那さんが驚いている。
「実は私、近所の火事の時に青葉と鬼火を見かけてて、もしそれが悪い妖怪に操られてる青葉の犯行だったなら私が止めないと、って焦っちゃって、毎回近くの火災現場に行ってたの。その時にちょっと、けむおが勝手にね……」と、長浜さんが旦那さんに向けて照れ笑いをしている。
いや、そうか。涼介君と言っていたが、二人の子供だと思っていた女の子が座敷童子という妖怪だった以上、彼は旦那さんじゃないのか。
「今日は、その……。ごめんなさい。ご迷惑をお掛け致しました」
私は、一同に向けて頭を下げた。
「いいのいいの! 私と青葉の仲じゃない!」
「そうですよ! 凛さんと貴方の仲じゃないですか!」
長浜さんと座敷童子さんの寛容の後、「キミは同調しちゃだめ!」と、涼介さんが座敷童子さんを小さな声で諫めている。
「ねー!」という、長浜さんと座敷童子さんのユニゾンの直ぐ後に、「けむおは、暫くダイエットだからね」と、長浜さんがきつく言うと、そのモヤモヤが、無表情のような、しかしとても悲しそうな表情になった。
その隣では、涼介さんが、「いや、しかし、立派になったねぇ」と、モヤモヤに触れながら感心している。
何だか、どちらがどちらの宿主なのか分からない状態で、私が誤解してしまっていたのも仕方が無い気もして、私は少し可笑しくなった。
それと同時に、彼女の天真爛漫な振舞いが私には眩しく映った。
学生の頃、長浜さんは他人からの評価や風説をどこ吹く風といった様子で去なし、悠々と乗りこなしていた。その風の中を自由に進む彼女の無邪気さは、他人から与えられる評価や物の価値を正確に判断できない私の目には、とても輝いて見えたのだ。
先程までの曇天――それは長浜さんの妖怪だったんだけど、とは打って変わって、眩しい太陽の光が差し込んでいる。
この間観た映画の悲劇的な幕切れを思い出し、「私には、雨は降ってくれないのね」と、私が落胆すると、映画の内容を知っていたのか、それとも単に聞き間違えをしたのか、「やっぱり青葉には、悲しい顔は似合わないわ」と、長浜さんが優しく答えた。
私は、この身を焦がす何かに突き動かされていたのかもしれない。それが、嫉妬の炎だったのか、鬼火の炎だったのかは、今となっては分からないが。
これは倨傲かもしれないけれど、私が彼女に対して嫉妬していた物は、今思えば、私の意識次第で直ぐにでも手に入れられるような類の物だったのかもしれない。
私はそう信じたい。
私の懊悩は、悲劇ではなく、どちらかと言えば、喜劇に近いものだったのだけど、その完結に立ち会って見えたものは、火に炙られたようにくすんだ、美とは言い難い、しかし確かに享受された、また違った種類の真理だった。