忍べど
音を姫の背後へ置き去りにし、正面へと回り込む。
姫は音に気を取られ、振り向いている。
──確実に首をとった。
そう感じ取った。
私はそう思ってしまった。
私はそのまま横に振り払った筈だった。
……ありえない。そう私の脳がその光景の理解を拒む。
一瞬にして私の渾身の一撃は軽くいなされ、刀は塵と化していた。
死角からの一太刀を完全に読み切り、目にも留まらぬ速さで刀を粉砕したというのだ。
「良い一太刀ですね。意識を逸らして私を討とうというのは良いことです」
姫は顔に微笑みを浮かべ振り向く。
姫の微笑みには殺気が含まれていない。
「妖刀、名刀、聖刀、神刀……強者たちはありとあらゆる刀剣で私を討とうとしました」
……ああ、ダメだ。
身体中が震え上がって、言うことを聞かない。
手に持つ刀身のない刀は床へ落ち。
足がすくんで動かず、腰が抜け落ちる。
この姫に勝てる未来が見えない。
「けれど所詮、ただのモノに頼る者。私には遠く及びません」
姫が一歩、また一歩と近づいてくる。
田舎に置いてきて祖母の顔が浮かぶ。
私の人生はここで終わりなのだと──
「ああ、可哀想にこんなに怯えて……そうですね……一日に一度、私を殺そうとしていいという条件で私の元で働きませんか?」
「──ふぇ?」
──そう思っていた。
突拍子も無い言葉に変な声が出てしまった。
「先程砕いた刀。無名の刀でしょう。私、技量だけで戦う人は好きですよ」
私には姫の言っていることが理解できない。
理解はできない……けど、助かったの……?
「同年代の子も丁度欲しかったですし、給金は弾みますよ……多分」
強張った身体から力が抜け、自然と涙が溢れてくる。
「あっ! 泣かないでください! 私が直接お金の交渉はしますから……ね?」
一話と時代設定は同じ