魔女≒少女
前の少女と入れ替わった魔女の話
目の前には白い壁がある。
身体中には何かを細い棒が刺さっている。
口の周りを何かが覆っている。
私は今、何か柔らかいモノの上で横渡っている。
状況確認終わり。
身体中に刺さっている棒を抜き、立ち上がり布を動かす。
すると透明な板を挟み、奥に色が見える。私が初めて見たこの世界の景色は、青く染まる空と平和な城下町だった。
どうやら私は城の者に憑依したようだ……しかし視界が悪い。前髪が邪魔だ。
近くの台に置いてあった髪を切れそうなモノを手に取ると、城の従者と思わしき白い着物を着た女に見つかってしまった。
「あ! 有栖さん! まだ起きちゃダメですよ! 危ないからナイフも置いて!」
ふむ……どうやらこの者の名前は『ありす』と言うらしく、手に持っている物は『ないふ』というのか。
「ああ、ここの城主は誰だ? 一度話がしたい」
別世界から私がこの者の体に憑依したのだ。当然城主に話すの筋だろう。
「城主? 何わからない事を言ってるの。ほらベッドで横になって」
城主を知らないとは……この者は末端の末端ということか。欲を言うなればもう少し地位の高い者の身体に憑依したかったが、まあ生きているだけ良いだろう。
あとこの柔らかい物は『べっど』と言うものらしい。末端の末端でもこの扱いとは、よほど治安の良い国であるのだろうな。
透明の板の先の景色を見ていると、木々の先に時々何やら色のついた塊が動いているのに気づく。
塊は不規則的に動いたり止まったりしている。
私が物体の観察をしていると、白い着物を着た初老の男が私の元へ訪ねに来た。この男の後ろに先ほどの女もいる。
おそらくこの男がこの場の指揮を務めるものだろう。
「有栖さん。体調は大丈夫?」
「ええ、この身体なら宙返りも出来るわよ」
「そうですか」
初老の男は私の言葉を軽く返し、板に何かを書き込み始める。どうやら私の言葉を信じていないようだ。
「あら? 信じてないようね。今からご覧になるかしら?」
「元気でもまだ安静にしてください。宙返りなら退院してから思う存分楽しんでください」
「むぅ……」
『たいいん』というのはよくわからないが、まぁ止めろと言われているのだろう。
ここで忠告を無視したところで、良い方向に転がるとは思えない。
つまらない質問が繰り返される。私はその質問に適当に答えてみせる。
質問が終わり、男は動きを止める。
「少し記憶の混乱が見られますが、まぁ時間が経てば徐々に戻っていくでしょう」
そう言い男は去っていった。
「ふぅ……尋問も終わりか」
長時間喋ったからか、少し喉が渇いた。水の魔法で水を──
「えっ……魔法が使えない……?」
本当なら国の一つや二つくらい巻き込める魔法が使えるはずなのに……!
ハッと思い立ち上がり、脚に力を込め宙に舞い、背中からベットに着地する。
「宙返りも出来ないじゃない!」
幸い体術は感覚として覚えているが、身体が追いつかない。
『たいいん』する前に、この世界の常識と身体の調整をしていかなければ……!
お盆の時期になったら投稿作品全部更新出来たらいいな。