繰返魔女
「ここは……」
私は気がつくと高台の上で一人、立ち尽くしていた。
高台から私の瞳に映る景色は、美しい夜空と煌めく星々。そして一面に広がる煌びやかな炎の海だった。
「……夢?」
信じられない光景に私は小言を漏らす。
しかし、夢の中にしてはハッキリと意識がある。
私の数少ない知識の中の明晰夢という単語に思い至った。
でもどうしてこんな景色なんだろう。私の心の闇が実際に現れているのかな?
なんて思っていると、私の耳に音が入ってくる。音は、炎の音に叫び声、怒声に罵声、いろんな雑音が入り混じっている。そんな音を私の耳が捉えた。
その音……一つの怒声に魔女という単語が入っているのがわかった。
その言葉は高台の上にいる人に向けられた言葉だと一瞬で理解できた。
──私が魔女なんだ。
一歩前に出ると、魔女を捕らえようと躍起になる民衆が見えた。
民衆は私の姿を見るなり、罵声の勢いを強くした。
二歩目を踏み出すと、下に屈強な男達が手に斧を持ち、高台の入り口を壊している姿が見えた。
三歩目を踏み出す頃には、扉が壊された。
四歩目には、階段を駆け上がる足音が聞こえてきた。
私は五歩目を踏み出す。
そして高台から飛び降りた。
なぜこんなことになっているのだろう。確か私は地上四階から低空飛行を試みたはず。
ここは本当に夢の世界? それとも実は現実? なんでもいいけど夢なら早く覚めてほしい。
この浮遊感は、夢でも現でも体験したことがある。
そろそろ地面に衝突する。
諦めたように、認めたように目を瞑ると、私は火の海を見下ろし、夜空を駆けていた。
フードで顔は見えない。けど顔から男の人だってわかった。
「ありがとう、ございます」
「……」
男は無言でこちらを睨み、軽く舌打ちをし街の夜空を駆けていく。
実は悪い人なんだろうか。でも助けてくれたしいい人だろう。それにここで暴れたら確実に落ちてしまう。
私は男に火の手が届かない裏路地まで連れて来られた。
男は私を置かれていた木箱の上に座らせ、ここで待っていろというようなジェスチャーをし大通りと去っていった。
けれど私は少し気になってしまい、裸足で音を立てずについて行ってしまった。
男は再び裏路地に入り、裏路地をそっと覗くと誰かとフードを被り、マフラーを巻いて顔を隠している人がいた。
何を話しているか気になり聞き耳をたてる。
「──の商品はどうだ? 言うことを聞きそうか?」
「ダメだ。魔女の──で呪詛を──られた。──を斬り落として──に献上すべきだ」
商品、魔女、斬り落とす……そんな単語が聞こえ脳内を駆け巡る。
このままあの男の元に居てはいけない。
そう思ってその場から静かに立ち去った。この時、逃げた事に気付かれたのかも知れないし、気付かれていないのかも知れないが私には関係ないことだった。
その後のひたすらに私は裸足で逃げた。行き先などないのに、私は当てもなく逃れ、果てもなく逃げ続けた。
着いた先に見えたのは炎の海、さっきの街だ。
後ろからは馬が地を駆け、私を追う音が聞こえる。
止まっている暇はない。止まったら捕まってしまう。
炎の海と化した街へと入っていく。
逃げる為に私は走った。足がどんなに重くても、足の裏に石が刺さっていても、肌が炎に触れようとも、私は走った。
気が付いたら私は炎に囲まれ倒れ伏せていた。
帰りたい……でもどこへ? どこに帰るの?
このまま逃げ続けて何があるの?
目の前の景色が遠く見える。
ああ……でもこれで夢が覚めるなら、いいの、かな。
本当に魔女みたいな終わり方だったなぁ……
瞼が焼け焦げたように、視界は黒一色になった。
気がつくと私は、満天の星の下に立っていた。
私の耳に入り込んでくる音は、轟々と燃え盛る炎の海の音と、私を糾弾する民衆の声だった。
書いてる時は楽しかったけど先が思い浮かばないのです