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微忘碌  作者: 平田凡太
1/9

開幕

 とある村には年に一度、武闘の儀が開かれ、優勝者の願いを叶える習わしがあった。



 汗を垂らし木刀を構える少年と、対面し竹刀を構える大柄な男。

 そんな二人の間に言葉はなく、音もない。

 観客は固唾を飲み、道場は静寂の空間と成る。


 そんな静寂を破る様に突然、審判の旗が振り上げられる。──開始の合図だ。


 旗の音が鳴ると同時に少年は踏み込み、男の懐で木刀を振り上げる。だが、竹刀で防がれ、反撃の一撃が少年を襲う。

 少年は地を蹴り上げ、身を捻り反撃を躱し、顔を蹴り抜く。大柄な男は寸前で後ろに身を流し距離を置く。


 一進一退の攻防が続く。

 大柄な男は一貫した行動を取り、少年は無数の構えで大柄な男に立ち向かう。


 勝負の終わりは唐突に訪れた。

 大柄な男は仁王立ちし、少年は膝をつく。


「そこまで!」


 狭い道場に大きな声が鳴り響き、道場内に歓声の声で埋め尽くされる。


「……強くなったな」


 大柄な男が床に大の字で倒れる。

 少年は立ち上がり、大柄な男の元へとヨロヨロと歩く。


「ありがとうございました……師範」


 少年は師範に手を差し伸べる。


「ははっ……! まだ立ち上がれるのか! 俺も歳だな」


 師範は少年の手を取り立ち上がり、武闘の儀は終えた。


 武闘の儀の翌々日、少年の旅立ちの日。


「本当に帝都に行くのか?」


 少年の願いは帝都に行くこと。

 師範は少年に最後の確認を取る。


「ええ、それが僕の母の願いでしたから」


 少年は荷造りを終え、立ち上がり師範に顔を向ける。


「九年間お世話になりました」


 少年は深々と師範に頭を下げる。


「それと」


 少年は振り返り、師範の目前に木刀を突きつける。


「帰ってきた時には、本気でやり合ってもらいます」


 そう言い、少年は旅路についた。

 師範は不意を突かれたような表情をし、軽く微笑み呟く。


「……本当に強くなったな」




 無力だった少年が強くなるために見つけた一つの答え。


 それは『観察』すること。

 それは当たり前なことであり、誰もが通る道だ。


 相手の目、相手の手、相手の足、相手の視線、相手の呼吸、相手の全てを観察し、一つも見逃さない。

 一挙手一投足を観察し、自分のモノにする。


 一の(オリジナル)には百の(レプリカ)


 応用を捨て、基本を極めた少年の物語。

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