ゴミ同然の僕は魔法を行使する
「この世界には、魔法陣や魔法が有るんだよ。
だから、ノキ君が頑張れば何にだってなれると思う。
まだ、どうなりたいとかは直ぐにはわからないだろうから、
とりあえず私が教えられる限りの魔法陣についての知識を君にあげよう」
「ペンシル先生は、……どうしてそんなによくしてくれるんですか?」
「うーん、何も事前事業でやってるわけじゃないから、そんなにおびえなくて大丈夫だよ。私が魔法陣の使い方を教える代わり、近い将来に一緒にモンスターを討伐してもらいたいんだ。私の自動筆記のLVが上がって、図形を書けるようになるのが望みといったらいいかな。魔法陣以外にもこの世界で生き残るのに役立つ知識は全て教えるつもりだよ」
「僕にとってはすごくいい条件だと思います、ただ一つだけ教えて下さい。ペンシル先生は、どうして力を持ちたいんですか?」
「……ノキ君は本当にいい子だね。慎重で用心深く、きっと長生き出来るタイプだ。このことは追い追い話そうと思っていたんだけど、私はね元いた世界に帰りたいんだ、そしてその方法を探したいんだ。これじゃダメかな?」
「もし復讐とかだったら、協力できないって正直に言おうと思ってました。僕はペンシル先生をいい人だと思っているし、信じています。そして今はこれが精一杯の答えです、それで許してください。虫がいい話ですが、これからどうかよろしくお願いします」
「ノキ君にはかなわないな、臆病かと思ったら胆力と大胆さを持ち合わせているんだね。……君の信頼を確実にすることを、私は私の世界の神に誓おう。そうだ、詳しい話はまたいつかするけど、異世界に帰るには送り付けのレガロか、世界を渡る大魔法という選択肢があるんだ。じゃあ、偉大な魔法使いになるためにも、まずは小さな一歩を踏み出そうか」
そういってペンシル先生は、ボロボロのスクラップブックを懐から取り出して、あるページを開いて僕に渡してきた。スクラップブックには、まっすぐな直線と歪みない曲線が複雑に入り混じり、美麗な文字がちりばめられた不思議な魔法陣が描かれていた。確かに、これを手書きしようとしたら何時間あっても書ききらないだろうと思う。
左手にお手本にする魔法陣を持って、右手で鉛筆を握った。
直線を追い、曲線を辿り、文字を拾って、頭の中に魔法陣を描いていく。
頭の中にはだんだんと魔法陣のイメージ形作られ、ぼやっとする線が名用になっていく。気がつくと右腕が勝手に動き出していた。ゆっくりと、そしてだんだんと早くなる僕の右腕は、スクラップブックの魔法陣とうり二つの魔法陣を描きだし、最後の線を描き終えると電源が切れたように静止した。
………
するとふっと辺りの蝶爆の火が着え、目の前の魔法陣の線が淡く輝きだした。その光は次第に強まってていき、それと同時に魔法陣の上の空気が励振しだした、と思った次の瞬間。
一ボボボオおおおおおおおおお
魔法陣の直径位の炎の柱がものすごい勢いで立ち昇った。そんなことになるとは知らずに、僕の指の先はちよっと炎の柱に巻き込まれる。
「あ、あちいいいいいいいいい、手、手がああああああああ」
「の、ノキ君、水、水ここにあるからっ!」
ペンシル先生が用意していた水桶へ慌てて手を突っ込む、指の先はちょっとやけどした位で済んだようだったが、それにしても危なかった。手を置いたままだったら確実に右手が黒焦げなってたんじゃないかな、これ。
「ちょ、ちょっとペンシル先生、危ないじゃないですか? これは一体どういうことですか?!」
「ご、ごめんノキ君。今の魔法陣は1分くらいしてから発動するはずの魔術なんだけど、お手本がまずかったかな。ごめんよ、本当は十分に離れて見る予定だったんだ」
そういうペンシル先生は本当に申し訳なさそうな顔をして、ひたすら謝っていた。だが何はなくとも、自動筆記で魔法陣を作成できることが明らかになったわけだ。このひりひりとする指先の痛みが、この世界での僕の可能性を無限大にも感じさせたし、胸の内に灯した情熱の炎をふつふつと燃え上がらせてくれた。
「ペンシル先生っ! 僕はどうしても魔法陣を使えるようになりたいです、だから改めて、これからよろしくお願いします」
「それはこっちが言いたいことだ、これからビシビシいくから覚悟してくれよ。あと、 最初は水とかにすればよかったね、もしかしたら魔法陣の筆記が少し歪んだのかもしれない。当面は注意してイメージ通りに自動筆記する練習と、魔法陣の文法“陣法”を基礎から学んでいくとしようか」
「はいっ、よろしくお願いします」
「それとノキ君、今日のことと特訓のことは当面秘密だ。王族だって知らない秘密だからね、もし知られたら、何されるか分かったもんじゃない。あと、生活するためには仕事をしないといけないんだけど、私の仕事を手伝ってみないかい?」
「仕事ですか? それは願ってもないお誘いですけど、何の仕事ですか?」
「それはこれから直接行って説明しようか、そっちの方が色々わかるし。じゃあ、魔法道具店“魔女のスパナ"へ向けて出かけよう、私はそこの店員でもあるんだ」