窓際部署の僕は異世界生活を開始する
異世界召喚されてから、
僕のレガロが自動筆記だと分かるまで、
が僕の異世界人生のピークだったなんて、ちょっと早熟も過ぎないだろうか。そんなつまらないことを考えながら、来たときと同じようにチンクさんの後をついてさびれた城内を歩いている。前を歩くチンクさんは心なしかしょんぼりと肩を落としているが、どうかしたのだろうか。
「チンクさん、わざわざ僕なんかのために案内してくれでありがとうございます」
「…っく、ノキ様、我々の非道をお許し下さい。カテドラル様は変わられてしまったのです、転移者の方を便利な兵隊としか見ていませんし、レグロの優劣だけしか見えておりません。戦争やモンスター討伐に不利なレグロだと解るや、興味のなくなったおもちゃのような扱いは、我が主君ながら悪魔にさえ見えてしまいます」
チンクさんの顔からは血の気が引き、脂汗が玉のように噴き出していた。きっと優しいし人なんだろうけど、そういう思想してると危ないじゃないかな、暗殺されないといいな。
「あの、ち、チンクさん、そんなこと言って大丈夫なんですか?
僕はそんなに気にしてませんよ。別にこんな展開どうということないじゃないですか」
「なんと寛大なお方なんでしょうか、何かありましたら必ずやお力になりますゆえ、気軽にお呼びつけくださいね。そして今向かっておりますのは、ノキ様の様に戦闘に全く関わらないレガロ持ちの転移者が所属することになっている資料管理室です。今回のような引き寄せの儀は、2か月に1回のペースで執り行われておりまして、これまでに実に30名以上の方が資料管理室行きとなっている次第です」
チンクさんの背中に仁義という文字がうっすら浮かんで見え始めたころ、僕たちはぼろぼろで一部コケさえ生えてる木の扉の前へとたどり着いた。
「ここが資料管理部です、城の西の端にある今は誰も使わなくなった塔になります。現状、元の世界へお返しできない以上、ここ以外に行き場がないのが現状です。この部署には仕事らしい仕事はありませんし、給金も雀の涙ほどしか出ません。ですが私とあと数人の有志の給金をここの方々の生活にあてていますので、最低限の衣食住だけは安心してください。あと、私は毎日朝と夜にこちらへ参り皆様からご用命を聞いておりますので、気軽にお声掛けください」
そういうとチンクさんは重そうな木の扉の取っ手に手をかけると、ずずずずっと横にスライドさせた。
「スライド式かよっ!」
「そう思いますよね、でも私はここの扉がこの城で一番好きですよ。では、これ以降はここを取り仕切られているゴーダ様にお任せすることに致します。ほら噂をすればあちらの方がゴーダ様です」
チンクさんが指し示す先には巨大な二足歩行のジャンガリアンハムスター(太め)が立っていた。
腰くらいの大きさで、なんか服を着ている。つまりそれはもう非常にかわいらしかった。その魅力に取りつかれてか、気づくと僕の右腕は勝手に巨大ハムスターの額に触れようとしていた。
「ノキ様、危ないっ!! なにをやっているんですか、死にますよっ!?」
「へっ?!」
「……おう、坊主、助かったな。もしあのまま俺のドたまを握でていたら、お前は今頃血だらけだったぜ」
目の前の大きくてキュートでなハムスターは、超ハードボイルドなセリフを吐いていた。僕はそんなギャップの大判振る舞いに溺れて、チンクさんの注意も頭から早々に吹き飛び、今度は無意識に左手を伸ばしていた。
「だからノキ様っ、死にますって! もしかしてハムスター愛好家ですか!?」
気づいたらチンクさんに羽交い絞めにされていた。
いいや、僕は悪くねえ、ハムスターのゴーダさんがかわいいのが悪いんだ。目の前のキュート120%のゴーダさんはクリクリとした瞳でこちらを睨んでいるが、それは睨んでいるっていえないんじゃないのおおおお。
「小僧、度胸あるじゃねいか。
だがおめいが俺を撫でるときはな、おめいの右腕が千切れる瞬間だと覚えておきな」
いやいやゴーダさん、その短い手で頭をクシクシしながらそんなこと言っても全然効果ないというか、逆効果だよおおお。ゴーダさんは僕の表情は無視することにしたらしく、こちらを無視して説明モードへと入っていった。
「小僧、俺がここの資料管理室、通称“ゴミ箱"を取り仕切るゴーダだ。
おめいも気づいていると思うが、ここにいるのはしょっぼいレガロを持ったゴミ共ばかりだ。だが不安に思うことはねい! 今日から俺らが家族だからだ。まずは、おめいの名前とレガロを教えてくれよ」
「ハヤシノキです。レガロは自動筆記LV7です、ここに引き寄せられる前は引き籠りのヒッキーでした。好きなハムスターはジャンガリアンです。よろしくお願いしますゴーダさん」
「俺は挨拶が出来る奴はでいすきだ、これから俺のことは親方と呼びねい。俺は見ての通りのハムスターの獣人で、 レガロは粘菌交渉って粘菌をすこーしだけ動かすことが出来る力だ。しかし、おめいさんは偉くレベル高いのに自動筆記たあ、運がなかったな。ああそうだ、自動筆記は3人いるから後でいろいろ聞くといい。じゃあ、早速俺らのゴミ箱を紹介してやろう」
ゴーダ親方は丸っこくでふわふわのハムケツをふりふり、部屋の中へと歩き出した。
部屋の中でまず目についたのが、黒くて大きな書類棚の大群だった。天井まで届く棚にはびっしりと本や書類が収まっていて、かなり広い部屋に数え切れないほど置いてあった。
「ここが資料保管室だ、まあゴミばかりだがな。たまにいい物があるから、死ぬほど暇なら探してみると面白いぞ。あと、この上の階も同じような資料保管室が広がってらぁ。そいで、次に紹介するのが俺自ら土を被りながら建設した集合住宅街”ゴーダマンション”だ」
このハムスターは家までつくることができるのだろうか、やだすごい優秀。
そんな自信満々な親方の後に続くと、入口と同じような重そうな木の扉があった。親方は扉の前で腰をかがめながら扉の取っ手を掴み、ふんぬと声をあげて扉を上へとスライドさせた。
「シャッタああああああああ! はっ、しまった、また」
「おいうるせいぞ、小僧! あと、ここは次開けるときは回転ドアになってるから、びびるんでねいぞ」
現代シャッターも顔負けの滑りで開いた扉の先には地下への階段が続いているようで、ゴーダ親方は地下へとどんどん進んでいく。ここは暗くて冷たくて、ひきこもりの僕にはとても落ち着く場所だなと思った。階段を降り切り、三度現れた重そうな木の扉を普通に開けると、そこにはなんと資料保管室に負けない程広い地下空洞と家々?が待ち受けていた。