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夢見がちな僕は落胆する

 ずんぐりとした体の大臣は整列する僕達の前へとタプンタプンとやってくると、その手に大事に抱えた真っ黒なトカゲをありがたそうに見せつけてきた。


「これは10色カメレオンと言いましてな、レガロとそのLVをこのブリリアントな体で表現してくれる、それはそれは希少な動物なのです。さあ皆様のレガロを判別させていただきますので、両手を前に出してください」


 皆が両手を差し出したので、僕も少し遅れてそれに習った。

 一番左に並んだ金髪のバーンさんの手にカメレオンが載せられる、すると10色カメレオンの肌色が漆黒から藍、青を通じて緑へと変わった。その変化を見届けた大臣は今度は徐にカメレオン抱え、ぶよぶよの頬で丹念に頬ずりをし始める。そして、存分にその感触を堪能した位で、すいと真面目な顔になって姿勢を正した。



「……バーン様のレガロLVは5、能力は、“熱力制御”でございます!!」

「「「おおおおおおおおおおおお! おめでとうございますー」」」


 途端に部屋中から大爆音の歓声が湧き上がり、バーンさんを盛大に祝福する。ここの人たちは予備動作無しで爆音の効果音を入れてくるから本当に心臓に悪い。それから、次々とレガロの判定が進んでいく。


 カメレオンの肌色がレガロのレベルを、カメレオンの肌質感が能力を示しているらしい。というか大臣のおじさんの顔の脂がべっとりついたカメレオンを持たされるのいやだな。


「ウインド様、思考加速LV3」


「ゴレム様、細胞再生LV5」


「アナ様、意思疎通LV4」


 大臣の声が轟く度に会場からは、大理石の床が振動するほどの歓声があがった。特にカテドラルさんのはしゃぎっぶりと言ったら群を抜いていて、優秀なレガロ使いがここに生まれたのだろう。そして5人目である僕の前にとうとう大臣がやってきて、カメレオンを手に乗せた。


 カメレオンの肌色は暗い寒色から徐々に明るくなっていく。


 青に変わり、

      緑に変わり、

           とうとう明るい黄色になった。




 「おい黄色はレベルは7だろう、すげーな」

「今回の転移者はすごく優秀だな、この調子なら最後の彼も」

    「今日の引きはすごいな」

  「初期LVが7は今までもないんじゃないか」


 周りから聞こえてくるヒソヒソ声と緊張感から、黄色がLV7であり、なかなか珍しいものであることがうかがえる。それにこれまでの4人が優秀な能力だったおかげか、会場には期待感がむんむんと満ちていた。鼻息が少し荒くなった大臣はごくりと睡を一呑みし、カメレオンを僕の手からゆっくりとおろし、そっと頬に寄せた。そして大臣はひと頼ずりすると、何かを確かめるように2度3度強めに類ずりを繰り返す。


 今までとはちょっと違う大臣の様子に、この場にいる全員が息を潜めた。

 カテドラルさんから待ちきれないといった様子で床を靴で床を打ち鳴らす音が聞こえる。それから何回か頬ずりして大臣がようやくこちらを向いて姿勢を正した。





「ノキ様、レベルは7、レガロは……“自動筆記"」




「______________」




 それまでのワイワイムードが途端に、お通夜みたいな静けさに打って変わる。

 大臣は特に説明する気もないといった感じで帰り仕度を始めているし、周囲からの声にならない落胆の声が部屋中に響いた。他の転移者の4人と比べてなんか弱そうなレガロ名だったけど、やっぱり弱いのだろうか。そんな僕の不安に気づいてか気づかないでか、カテドラルさんの側仕え執事の一人が愛想笑いを浮かべながら能力の説明を始めた。


「自動筆記はすごく綺麗に、すごく早く文字を書き取ることが出来ます。 ノキ様のレガロは戦闘には向きませんので、他の皆様とは別に文官としてお力訴えを頂けたらと存じます。それに自動筆記のLV7 は、おろらく人類初なんじゃないですかね、人類最速ですよ」

 

 そう言い終えた執事は冷めた笑顔を浮かべながら、カテドラルさんの方へと戻っていった。




 その後は、食後のティーパーティーとなったが、僕は輪から外れて一人壁際でコーヒーをすすった。

 きっと僕は大ハズレなんだと思う、だってカテドラルさんなんて一切こちらを気にする瞬間なく、バーンさんやウィンドさんと楽しげにおしゃべりをしているから。ふと、元の世界でやっていた携帯ゲームを思い出した。コツコツ貯めたクリスタルでひいた課金ガチャなのに、全く使えもしないノーマルキャラが出てきて少し落ち込んだ時のことだ。だが今となっては、その時出てきたノーマルキャラのヤシノッキー君にまずは土下座して、そして一緒に楽しくお酒でものんでみたいなと本気で思った。






「ノキ君、元気ないな? 背中に猫が取り付いてるぞっ?」


 突然背後から声をかけられ、現実逃避していた意識が急に引き戻された。ゆっくりと声の方向に振り返ると、さっき隣の席に座っていたアナさんが、にこにこと笑顔を浮かべながら立っていた。


「えーっと、アナさんですよね。今ちょっと、ヤシノキ型のノーマルクラスモンスターに同情しているところでして。僕は一人で大丈夫ですのでので」

「くくくっ、それってモンバトの雑魚モンスターのヤシノッキーのこと?」

「え、知ってるんですか? もし、アナさんがもう一度ゲームをするなんてことあったら彼のことをぜひ使ってあげて下さい」

「くっくっくっ、あはははは、ノキ君ってやっば面白いなー。知ってると思うけど私はアナ・グレン、私たち何かすごい面倒なことに巻き込まれた感じだけど、同郷の仲間としてこれからよろしくね」


 アナさんは綺麗な顔をくしゃくしゃに歪めて大笑いしながら、僕へと右手を差し出してくる。


「アナさんが大変気さくで優しい人だということは分かりました。そんなアナさんは、ヤシノッキー同然の僕では無くカテドラルさんや他の皆さんと仲良くしていたほうがいいですよ。ここに来るまでに執事さんが言ってましたもん、ここで同期と友好関係を築いておくのが得策だって」

「えーっとね、私は、私が正しいと思ったことをするようにしているの。まあ、ある人の受けうりなんだけどね。ここだけの話しにしてほしいんだけど、なんかこの国の人たちってうさん臭そうな感じがしてて、疲れちゃんだよね。それで、まずは確実な仲間作りってわけ」

「確かにそれには同意ですが、僕は今後はみなさんとはバラバラになると思いますから、ぜひ少しでもあちらで味方を作ってください。まあ、アナさんの美貌と親しみやすい性格なら心配は無用でしょうが。ですがこの国の人達の口ぶりからすれば、アナさん達を戦力にしたいみたいですし気をつけてくださいね。僕は、……処分されないことだけ折るばかりです」

「それは困るわ!! ちゃんと生きておいてもらわないと、仲間なんだから。それにノキ君を処分なんてしたら私たちに不信感を植え付けてしまうでしょ。きっと私たちが生きてる限り大丈夫だよ」

「こうして秘密を共有してくれるのはとても嬉しいですが、オープンすぎるのは善し悪しかと思いますよ?」

「そんな誰でもこんなことは言えないわ。そんなことより、ノキ君は必ず生き延びてね。私のレガロは意思疎通で、LVがあがれば幻獣と友達になれるらしいから、そうなったらきっと遊びにいくから」

「……なんだかアナさんって物語の王子様みたいですね。まあ、プリンセスがヤシノッキーではお話しになりませんが。冗談はさておき、アナさんはそろそろ戻ってください、アナさん達のほうが断然危険を伴うんですから、少しでも味方が多い方がアナさんの為です」


「ノキ君がそういうなら、そうしとこうかな。

 あ、そうだ最後にこれだけは言っておきたかったの。

 私、ヤシノッキーをレギュラーメンバーに入れてるよっ! じゃあまたねノキ君」

 




 そういえば軽い対人恐怖所の僕でもアナさんとは不思議と普通に喋れたな。人間追い詰められた状況だとなんでもできるんだなと、時折こちらへ振り返って小さく手を振ってくれるアナさんを眺めながらそう思った。






 

 その後、僕以外の4人はとりあえずレガロを使えるようになるべく、ゴーマニア公国の親衛隊に仮入隊した。そこで、先輩レガロ使いから指導を受けたり、職業を選んだりするらしい。あと、アラブの石油王みたいな賛沢な衣食住環境の中で過ごせるらしい。

 

 そして僕は一人、僕と同じような非戦闘系かつ非戦闘支援系でないレガロ持ち転生者が所属するという“資料管理室”へと配属というか、厄介払いされるのだった。

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