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挙動不審な僕は顔合わせする

 事態の進む速度に追いつけないままの僕が通された大広間には、先ほどこの世界に僕を呼び出したっぽいカテドラルさん、バラバラな見た目の4人、壁沿いに並ぶ大量のメイドさんがいた。会場の中央にある凄く長いテーブルにはきらびやかな食器類が並び、いわゆるお誕生日席にカテドラルさん、その右手と左手側の辺に2人づつが座っているフォーメーションだった。僕が部屋に入った瞬間、その全員から一斉に視線が注がれる。


 この一年間まともに人間と喋った記憶もなければ、大量の視線に晒されることに耐性が0になっていた僕は、意識がスーッと遠のいてしまった。ふらふらと倒れかける僕をチンクさんが後ろから支えてくれなかったら、僕はその場で倒れて気絶していたかもしれない。チンクさんはそのまま、僕の代わりに丁寧なお辞儀をしてから、ざわざわとする部屋の空気を少し和らげ、僕を空いている席へと誘導してくれた。

 僕が席へ着くなり、待ちに待ったといわんばかりにカテドラルさんが立ちあがり、一呼吸する。どうやら僕たち5人へ向けて何か言いたいようだ。


「転移者の皆様、この度は私の呼び声に応えてくださり本当にありがとうございます。さきほども皆々様に言いましたが、現在我がゴーマニア公国は、他国からの領土侵略、モンスターによる災害級の被害に困窮を極めている状況です。そんな我が祖国を皆様に救っていただきたく、私の”レガロ”の力である“引き寄せ”でセラニアにお越しいただいた限りです。今日は皆様の世界渡りの儀の成功と、我が祖国の発展を祈って、ささやかながら祝宴の席を設けさせていただきました。我が祖国の食事を楽しみながら、まずはごくつろぎくださいませ」


 カテドラルさんはすらすらと言い終わると、呼吸を整えてから椅子へと深く腰掛ける。

 その瞬間、周りのメイドさん達から耳が割れんほどの拍手が鳴り響き、再び僕のか細い心臓は意識がブラックアウトしそうな程締め付けられた。肘おきを掴んでなんとか堪えたが、そういうイキナリ爆音系は本当にやめてほしい、本当に。僕が自分のことであくせくしている対面では、いつの間にかちょっとイカツイ金髪のお兄さんが手をあげながら立っていた。


「おい!! 質問は後で受け付けるといっていたが、もういいのか!!」


 テーブルの上の銀色の食器類を震わせるような低く大きな声が、金髪のお兄さんからカテドラルさんへ発せられる。あばばば、だから急に大きな音を出すのはやめてほしいいのにいいいいい、心臓が3つあっても死んじゃうう。


「ええ、どうぞバーン・スタインさん。さっき聴きたがっていたのは”レガロ”とは何か、なぜバーンさん達が呼ばれたかでいいですか?」

「ああ、そうだっ!!」


 返事一つすらうるさいバーンさんは、回答に満足したのかどさっと椅子に腰掛けて、品定めするようにカテドラルさんを注視した。


「このセラニアでは、人間は女神セラーネ様から“レガロ”と呼ばれる特別な力を賜ります。レガロの能力は千差万別ですが、空を飛んだり、雷を降らせたり、花を咲かせすことができます。それが、まさしく神の御技の一端と言えるでしょう。そして我々は、外界に住まう強大で無慈悲なモンスターとの生存競争のため、極少ない人間の領域を巡って他国と戦争をするためにレガロを用いるのです。すなわち、強力なレガロ使いのお力添えこそ、国家生存力に直結するというわけです。ここでなぜ異なる世界の皆様に助けを求めるのか、それは転移者の皆様が世界渡りの瞬間に女神様から強力なレガロを賜るからなのです」


 ここでバーンさんの横に座る、紫髪と岩の様に無機質な肌が特徴的な男性がすっと手を挙げる。


「なんでしょうか、ゴレム・シアンマウンテンさん」

「某は元の世界では兵隊をやっていた、だがここにいる者の中には、そういった争いに向かぬものもいるのではないか? 某は人助けとあらば持てる力を貸そうと思うが……」


 そういってゴレムさんはこちらをちらっと横目で見る。ああ、そうだろう、僕はどう見たって戦闘には向かないよ、ゴレムさんの優しさに胸が痛むぜ、ちくしょお。


「勿論、そこは皆様のご意向に沿わせていただきます。お力添え頂けても、頂けなくても皆様のゴーマニアでの生活は、手前どもが最大限おもてなしさせていただきますのでご安心ください。先輩転移者の方々の中には、戦闘に全く向かないレガロ、優しい性格の方も勿論いらっしゃいますが、そういった方にはレガロを活かした職業や、安全な職を紹介させていただいております。ただ、強力なモンスター討伐を生業とする“カサドラ”、他国からの侵略を守る盾“ゲレイロ”といった危険な職に就いていただける方へお渡しする報酬やサービスの方が断然良くなってしまいますが」

「分かり申した。某は某のなすべきことを為すまで」


 今度は僕の隣の隣に座っている、絵画から抜け出してきたかのような美貌と尖った耳が特徴の青年が手をあげる。カテドラルさんはゴレムさんから視線をテーブル反対側に移し、どうぞとお辞儀で合図を出す。


「私、”白き矢”ウインドは、麗しきカテドラル公女殿下とこうして出会えた運命に感謝を捧げております。エルフ族を代表して、カテドラル公女殿下の剣となり、盾となることを誓いましょう」


 あの人やっぱりエルフなんだ、なんかエルフっぽいなーと思ってたんだけど、やっぱりそうなんだ。さっきの軍人さんも普通の人間っぽくないし、なんかすごい得した気分だなぁ。


「ありがとうございますウインド様、なんと心強いお言葉でしょうか。……エルフの皆様は総じて優秀なレガロ使いですので、ウインド様のお力にも期待しております。アナ・グレン様とハヤシノキ様は何か聞いておきたいことはありませんか?」


 ぼーっと聴いてたら急にこっちに来た。そして、そんな急かすような目でこっちをみるのはやめてくれい。そんなテンパる僕には大変都合よいことに、隣のプラチナブロンドの美人さんが手を挙げて、カテドラル公女へと質問するみたいだ、助かったー。


「カテドラルさんのレガロは引き寄せとおっしゃていましたが、どんな能力なのですか? 私たちが選ばれた理由がさっきの説明ではまだ今一わかりません。あと元の世界に帰ることはできるのですか?」

「……私のレガロは神から賜った神聖で高位なレガロでして、世界の壁を超えてあなた方のような素晴らしい人を引き寄せることができるのです。引き寄せは、“異なる世界”での、“自由”や、“救世”を欲しておられる方々へ届くようになっています。ここにいる皆様は、崇高なる意志を備えられた皆様ということです。いまのでお分かりいただけましたでしょうか? 帰る方法もありますが、残念なことにそれに必要な”送り付け”のレガロを持つ者は、今はこの国にはいないのです」

「お教えくださりありがとうございました。私もできるだけ頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。カテドラル様」


「それでは、そろそろお食事も済まされたところだと思いますので、皆様のレガロの鑑定をさせていただきたいと思います。メイドはテーブルを片付けて、お茶を用意せい」


 え、料理ってなんのこ……いつの間にか僕の前には豪華な料理がたくさん並べられていた。バカな、僕が話しに気を取られている内に置かれていたというのか、そして僕は何一つ口にすることなく料理を下げられてしまうというのか。無常にも料理は飛ぶように消えていくが、あたりを見渡すと、皆んなは料理を十分に楽しんだようで、満足げに食後のお茶なんてすすっている。くそおおおお。





ーゴーーーーーーン、ゴーーーーーーン


「レガロ管理局大臣のおなーりいーーーー」


 今度はどこからともなく大きなドラの音がなり、長いヒゲと丸々としたお腹が特徴的なおじさんがメイドさん達が消えた扉から出てきた。

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