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引き篭りの僕は異世界転移する

最初の3話であらすじのゴミ箱行きまでを回収。

ヒロインは2話目から登場します。スキルは5話くらいです。


 

 ここではないどこかを望んでいた。


今日ではない今日を望んでいた。


  どうしてこうなってしまったのだろう、

    どうすればよかったのだろう。


僕は何も得ることのない自問を延々と繰り返している。

 

 いや、もはや自問することでしか自我を保てないのかもしれない。



 昔飼っていたハムスターが回す車のように、

  同じ問いをぐるぐるカラカラ巡り続ける僕は、



 ただひたすらに弱く、現実に向きあうことなんてできなかった。






 僕が16才の5月、両親と妹がテロに巻き込まれて死んだ。





   Λ




 葬儀や後処理は親族の手によりあれよあれよと言う間に済んだ。

 事件の1ヶ月後には、家族との思い出が詰まった家と僕だけがこの世界に残った。


 僕は苦労して合格した高校にもいかなくなり、ただ家の中でうずくまって、現実世界から目を覆い、人間社会から耳を塞いで過ごした。いや、ただ息をして、代謝をしていただけで、生きているとは言えなかったかもしれない。

 1年が過ぎ、最早生きるということが分からなくなっていたある日、突然に僕は光に包まれる。




「……この世界を望む者よ、手を伸ばしなさい」


 光の中でかすかな声が聞こえる気がする。

 真っ白に睦む意識で、僕はぼんやりと右腕を上げて、声に引き寄せられるように光の先にある誰かの手をつかんだ。


「…うこ、そ、…ニアへ…」


 再び誰かの声がすると、僕を包んでいた光が消えていく。

 そして、僕はどういう仕組みか6畳間の自室ではなく、巨大な大聖堂の中いにいた。あたりに立ち込める静畜で清浄な空気は、両の肺を心地よくサラサラと撫で、厳粛な木と石の匂いが鼻腔の奥にツンとくる。今さっきまでいた自室のすえた臭いとは、間違いなく別物だった。


「え、なにこれ。……夢?」

「夢ではありませんよ、ようこそセラニアへ」


 自分自身へ投げかけたはずの疑問は、後方にいる誰かによって投げ返された。慌てて声の方へと振り向くと、真っ白なレースを幾重にも折り重ねた豪華なドレスを来た女の子が一人、それを取り囲むようにビロードの燕尾服の紳士が5人、僕のことをまじまじと見ている。ドレスを来た女の子が一歩だけ前にでて、ちょこんとお辞儀をする。


「ようこそ、我が呼び声に答えたもうセラニアを求めし者。この世界の名はセラニア、世界神の名はセラーネ、そして私の名前はカテドラル。あなたは私の”レガロ”によって、このセラニアへと運命的に召喚されました。それは、あなた様が秘める偉大な力でもって、私共のゴーマニア公国を陥れようとする隣国とモンスターの脅威から守っていただきたいのです。お力をお貸しいただけないでしょうか」


 それだけ言い切ると、全員一斉にこちらへと深く頭を垂れた。


「はぁ?」

「……(あれ、この人あんまり異世界を御望みでなかったのかなあ?)、

 えーっと、立ち話もなんなので祝宴の場にて詳しくお話ししますね。これバトル共、場所を移します、転移者様を丁重にお連れしなさい」


 そういうと、カテドラルと名乗った女の子は召使4人を連れて大聖堂の床をツカツカと歩き、奥にある扉の向こうへと早々に消えて行った。


 人間本当に驚くと声も出ないというのはこういう事なのかもしれない。理解の限界を超えてしまうと脳って本当にショートするんだとバカなことをふと思った。ただ、どこまでもリアルな世界の質感が、これがどうしようもなく現実であることを、現実逃避しようとする脳に無理やりに押し付けてくる。正直に頭が限界だった。



「私、第5執事のチンクともうします。あなた様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか? 顔色が優れませんが、ご気分が良くないでしょうか?!」


 一人残った執事の人が、いつの間にか目の前で心配そうに下賜づいていた。いや、この有無を言わせない展開に呆けてしまったとしても、何もおかしいことはないだろうと言いたい。

 だけど少しづつ落ち着いて来た意識が、今はこの怪しげな人達の言うことに従うしか道はないと言い切っていて、自然と言葉を発していた。


「林 伊紀です、17歳です。すみません、混乱してしまって……」

「ノキ様ですね、当然のことです。ノキ様のいらした世界はおそらく地球ですね。大丈夫です、ノキ様のご同郷の方もここゴーマニア公国にたくさんいらっしゃいます。さあ、詳しい説明をいたしますので、こちらへお越しください」


 チンクさんの後について歩いていく。大聖堂を抜けて、映画に出てきそうな豪華なお城の廊下を延々と歩いた。小さかったころは、ファンタジーの世界に迷い込んで冒険するような夢をよく見たりしたが、実際に目の前で起きてみるとなかなか恐怖体験だなと、一人で思ったりした。

 深緑色の高級そうな絨毯の上を歩いていると、先を行くチンクさんが僕に顔だけ向け、ひそひとと話しかけてくる。


「あなたの他に4人の方が今回召喚されております。これから向かいます祝宴の場が、ノキ様を合わせて5名の方の顔合わせの場にもなります。当面、他の4名の方との行動が多くなると思いますので、まずは4名や周囲のの方と友好関係を築くのが得策かと存じます。またノキ様の”レガロ”の判定もその場にて行いますので、ご承知おきください。さあ、祝宴会場に着きました、ノキ様にセラーネ様の強いご加護がありますように」


 チンクさんは大きな扉を引き開けて、その奥へと僕を誘った。

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