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05.石組

 生い茂る枝を掻き分け、数歩進む。急に視界が開け、落ち葉が降り積もった小さな広場に出た。

 明るい木漏れ日の中にひっそりと「ときのいわふね」が佇んでいる。

 それは、いつ、誰が、何の意図で積み上げたのかわからない巨大な石組だった。

 三つの巨石が船形に組まれている。

 船尾にあたる部分は開いており、「ふね」の中に立ち入ることができた。船底にあたる巨石は、ほぼ二等辺三角形で、その斜辺を挟んでふたつの巨石が立てられている。

 落ち葉が厚く降り積もり、深い緑の苔が、柔らかなクッションのように船室を(くる)んでいた。

 その日は、案内の村人が怯えて何度も呼ぶので、龍はざっと見ただけで引き返した。


 村人は、「ふね」に影が住んでいる、と恐れて近付かない。

 庄野龍(しょうのりゅう)はその言葉に魅かれ、度々この石組に足を運ぶようになった。


 村人が恐れる通り、山中の「ふね」には時折、龍以外の人影が乗る。

 船尾は西に開き、黄昏時は船首付近に影を映す。斜めに差し込む夕日が、船尾に立つ龍の影を「ふね」に乗せた。

 一日の内、この時間帯にだけ「ふね」に日が射す。しばらく経つと確かに「ふね」には誰のものとも知れない影が、シミのように現れ、通り過ぎて行った。

 夕日に照らしだされた石の扉に、(あるじ)のない影たちが、次々と現れては消えてゆく。その形は、コートのような丈の長い服を着ているように見えた。小走りに(よぎ)る影の肩で、長い髪が跳ね上がる。龍の影が一瞬、過ぎ行く影と重なった。


 〈レポート間に合わない~! どうし……〉


 確かにそう聞こえた。

 聞き覚えのある声だ。同じ学部の女子。特に親しくしていた訳ではない。顔はわかるが、名前は出て来ない。

 (ひるがえ)ったのは、コートの裾ではなく、白衣だった。

 日が真西から差し込み、龍の影を船首に落とした。


 ……どういうことだ? 幻聴? 幻覚? いや、ムラの人たちも見聞きしてるから、恐れて誰も近づかないんじゃないか。

 一体、どうなってるんだ? これが、「誰にもわからない話」の正体なのか……

 わかる訳ないよな。実験のレポートなんて、この時代にはないんだから。


 不意に、龍の脳裡に(てる)の顔が(よぎ)った。


 ……(てる)の奴、どうしてるかな……まさか、あんなガラクタで成功するとは思ってなかったもんなぁ……

 あいつにだけでも、言ってから実行すればよかったな。

 親父とかは絶対心配してないだろうけど……(てる)はなぁ……


 龍が、昔の人の暮らしを教えて欲しい、などと漠然とした質問をした時も、色々心配してくれた。昔から心配性だったが、大学院生になった今も、それは全く変わっていない。


 待てよ、大学……に繋がってる……としたら……何とか連絡できないかな?

 あの時代の影が映って声が聞こえるんなら、こっちの声も伝わらないかな?

 ……そーいや、研究棟になんか、怪談じみた噂があったような……?


 既に宵闇に包まれた「ふね」の中で、龍は緑の壁に背中を預けた。

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