第七話 一時の安らぎ
今回は短いです。
あの戦いの後私たちは英雄視され、この街ノルンに留まってくれないか、と言われた。
この街を守ってくれないかと。
しかし私にはやることが有る以上長くは留まれないと告げた。
それでも中々食い下がらない人々に押され、結局3日ほどこの街に留まっていた。
「よーし、そろそろ……」
「こら、哀華どこ行くの?」
ナナに肩を掴まれ、ピクッと反応する。
英雄視されたことにより、私たちはこの街の管理を任されていた。
この街がそこまで大きな規模でないお陰で私たち四人で見回りきれる。
賊が完全に壊滅したこともあり、今は活気に満ち溢れている。
少し前まで事件を見過ごしていた街とは思えない。
そして今は見回り中であり、お昼時でもある。
こっそり抜け出してお昼ご飯を食べに行こうとした所をナナに止められた。
「まーた抜け出そうとしたでしょ」
「い、いえ。そんなことないわ」
「じゃあ目の前に見えるお店は?」
「……パン屋です」
この街はパンが名品で、この前一度食べたときは絶品ともいえる味に舌鼓を打った。
だから今日も警邏中にこっそり買いに行こうかと思ったところを、ナナに見つかってしまった。
「哀華様!」
私に気付いたパン屋の店主がパンを持って私に寄ってきた。
その表情は前とは違う笑顔に満ち溢れた表情。
私が指揮し、誰一人の犠牲を出さずに賊を討伐したことが誉められるのは良いのだが、様付けで呼ばれるのにはどうにも慣れない。
私はたどたどしい口調で軽く会釈をしながらパンを受け取った。
手に握ったパンを右手で一口サイズに千切り、それを口に含む。
ナナはその様子をジッと見つめると、ため息をついてから口を開いた。
「全くもー……。食べるのは良いけどちゃんと仕事してよねー」
「サボりって言葉が有るのだからサボらないのは言葉への侮辱ね」
今度は足蹴にされた。
ちょっと痛い。
「……自我自賛するつもりではないけど私たちが戦ったことでこの街が活気に溢れて本当に良かった」
その言葉にナナはそうだね、と返した。
「でもサボっていいわけじゃないよね?」
「……その通りです」
私はずるずる引きずられながらその場を後にした。
―――――
見回りが終わり、昼食の時間なのだが三人とも何故か無言だった。
怒っているのか分からないが、私が話しかけても三人で会話して無視。
ナナだけは私を無視することに若干の抵抗を感じているのか、表情が苦い。
私が一体何かしたのだろうか?
私が思考を巡らしている間にルナが口を開いた。
「なあ、お姉さんや。最近私たちを邪険にしていませんかな?」
私の手が止まる。
予想外の言葉で驚愕したが、予想通りとも言える言葉だった。
「そうなのです。最近お姉さんがよそよそしいと言うか」
「……あえて近付かないようにしてるよね」
無言で無視までしていたのが嘘のように一気に言葉を捲くし立てられた。
「……えっと」
私は言葉を濁す。
確かに少し避けていた面はあった。
でもそれは皆を信用していないから、という事ではない。
本当の理由は自分の過去にある。
何が原因で今こうなっていたのか、理由を探るために遡ればすぐに分かる。
あの時イバラは私を狙っていた。
その事が今でも頭の隅々にこびり付いて離れない。
もしこのまま一緒に居て皆に被害があったらどうするの?
この考えが頭に過ぎるとどうしてもその時だけ態度が余所余所しくなってしまっていた。
嫌われれば自然と私から離れてくれる。
嫌われずにずっと一緒にいたい。
そんな感情を両方抱いていた。
次にイバラに会った時に負けるつもりなど毛頭無いが、いくら強固な想いを抱いてイバラに挑もうとも結果は目に見える。
振り返れば私は悩んでばかりだ。
でも、現実味がないこの現実に悩まない方がおかしい。
だからこそ私は本当に自分がどうしたいか分からなくなっていたのである。
「……ごめん」
私は謝る事しか出来なかった。
自分の気持ちをここで吐き出しても仕方がないし、話したところで理解してもらえるとも思えない。
「違うよ」
しかし私の言葉は真っ向から否定された。
ナナに。
「私たちに余所余所しい態度をとる時だけ凄い悲しそうな顔をしてる哀華が見てられないの」
うんうん、とルナとレナも頷く。
「レナたちはお姉さんの心配をしているのです。何も怒っているという訳ではありません」
「そう。ルナも同じ。ちょっと無理してるんじゃないかと思ってー」
私は戸惑う。
実際どうしたら良いのかが分からない。
小難しいことはこの際一切放棄して行けばいいのかもしれない。
けど、これだけの事が起きてきた中で放棄しろというのは少々無理がある。
「何か難しいこと考えてる?」
「ううん、そういうわけじゃ……」
「嘘ばっかり。なに考えてるのか私には分からないけど、難しく考えて分からないことがあるなら回りにあわせてみたらいいと思うよ?」
周りに、合わせる。
私の余所余所しい態度がこの三人に嫌悪を抱かせているならそれも一つの選択肢かもしれない。
「……そうだね。変な態度とっちゃってごめんね」
「良いのです。お姉さんが分かってくれれば」
「そうそう。もーちょっと気楽にいきましょうや」
ありがとう、と告げて私はお昼を再開した。
感想などお待ちしています。