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第五話 新たな出会い

今回から話の方向性が大きく変わります。

「く、うう……」


 激しい痛みに襲われると同時に、身体を灼くような日差しを感じて目を覚ます。


 イバラと戦った後自分がどうなったのかよくは覚えてないないが、確実に理解できることがひとつある。


 まだ生きているということ。


 声も出るし、神経もある。


 無いのは右腕だけ。


 私は激しい痛みに襲われる体に鞭を打ってその場に起き上がる。


 空に映るのは鬱陶しいほど吹き抜ける青。


 周りに映る物は風に揺れる木々の緑。


 そして隣に倒れているのは武器を持っていない一人の少女、ナナだった。


 良かった……。


 私はイバラとの戦闘の最後を思い出した。


 最後に死を覚悟したあの場面でナナが攻撃を防ぎ、私を助けてくれたということ。


 転移結晶を使ってあの場から私たち二人は逃げた。


 ナナが最初から転移結晶を使わなかったのには理由があるのだろう。


 そうでなければ最初から使わない理由が見当たらない。


 それにしても、ここは一体何処なのだろうか?


 あの場から逃げ切れたのは不幸中の幸いであったが、何一つ理解できていない状況は変わっていなかった。


 でもイバラは居ない。


 あの狂気染みた地獄のような戦地からはなれることは出来た。


 それだけでも今の私を安堵させるには十分過ぎる現実だった。


「大丈夫なのですかー?」


 体の痛みで周囲に気を配っていなかった私は突如背後から掛けられた声に驚きを隠せなかったが、振り返るほどの体力も残っていなかった。


「ルナ。この人凄い怪我してるみたいなのです」


「そのようですなレナ。すぐに直してあげましょう」


「御意なのです」


 背後から聞えた二人の声に戸惑うばかりであったが、すぐにその疑念は払拭された。


 なぜなら見る見るうちに身体の痛みが引いていくからだ。


 隣で気を失っていたナナの怪我もほぼ全快しているように窺える。


 どうして見ず知らずの私の怪我を治してくれるのか。


 どうして警戒もせずに私に近寄ってきたのか。


 現状におけるあらゆる疑問を解決する回答などは持ち合わせていないが、助けられているという事実だけは変えようのない現実だった。


「これで傷は治りましたね。お姉さん、体の具合はどうです?」

「傷は治ったようです。お姉さん、体の具合は大丈夫ですかな?」


 名も知らない二人は同時に私に話しかけてきた。


 振り返るとそこには150cm位の身長の女の子が二人立っており、水色の髪をした子と赤色の髪をした子が私の顔を心配そうに見つめていた。


 それにしても顔がよく似ている。


 双子だろうか?


「ありがとう。あなた達のおかげで痛みは大分引いたみたい」


「それは良かったのです」


「うむうむ」


 二人は満足げに微笑んだ。


 それにしても、素手の状態でこれほどの回復力のあるスキルを使えるこの二人は何者なのだろうか。


 自分でも驚愕するほどの回復力で、失ったはずの右腕まで完全に復元されている。


 独特な雰囲気を持ち合わせている二人に私は若干の戸惑いを感じていた。


「助けてくれてありがとう。私は哀華。隣で寝ているのが……仲間のナナ」


 私はナナの説明に少し間を空けてしまった。


 今回の自体はナナが居なければ助かっていなかった。


 だがそれと同時にイバラの行動が脳裏に過ぎる。


 もしかしたらナナも私を裏切ってしまうのではないかと。


 しかしそんなことを言ってしまえばナナを傷付けることになる上に、私自身が誰も信じられなくなってしまう。


 最も重要なのは誰かを疑うことではなく、誰かを信じきること。


 そうやって思考を巡らせていた故に生まれてしまった間であった。


「良かったら二人の名前を教えてくれない?」


「良いのですよー。レナの名前はレナです」


「ルナの名前はルナです。双子故に覚え辛いかもしれませんが、間違えないようにお願いしますぞー」


 二人とも自分の名前が一人称になっているため、間違うことは無さそうだが少々ややこしく感じてしまう。


「お姉さんたちはもしかしてお困りなのですか?」


「きっと困っているに違いないですな。そうでなければあの怪我でこんな所に倒れている訳がないですからね」


 事情を何も話していないにもかかわらず状況の判断だけで私たちの現状を理解したルナとレナ。


 確かに私は今困り果てているといっても過言ではない。


 隣で気を失っているナナが転移結晶で何処に飛んだのかも分からない上に行宛もない。


「……無理なお願いだと思うんだけど、出来る限りのことはさせてもらうから私たちと一緒に行動してくれない?」


 私は無理だと分かりながら現状を打破するための提案を二人に提示した。


「そりゃあもちろん」

「よいのですよー」


 断られるかと思っていたが疑念を持つ事無くこの双子は答えてくれた。


「じゃあまず近くの街まで案内するのでお連れさんを起こしていただいてもよいでしょうか?」


「あ、うん。ちょっとまってね」


 未だに隣で気絶しているナナの体を優しくゆする。


 身体の不自然な揺れに気がついたのかナナが小さく呻くような声を漏らして目を覚ます。


「あれ……ここは何処……?」


「気がついた?」


 私の声に反応したナナが我に返ったのか急に辺りを見回す。


「い、イバラは!?」


「大丈夫。ナナが転移結晶を使ってくれたおかげで何とか逃げ切れたみたい」


「……よかったぁ」


 訳の分からない事態に様々な感情がかき混ぜられていた中、やっと安堵できたともいえるため息だった。


 何せあれだけのことが一瞬のうちに起き、尚且つ命を危険に晒すような事態でもあった中、今の現状はあれとは打って変わってとても好ましい状況であるに違いないからだ。


 きっとナナも業腹だが、生きているという実感が何よりも今は嬉しいのだろう。


「それにしてもナナ。どうして最初から転移結晶を使わなかったの?」


 私はずっと疑念を抱いていた事案に手をつけた。


 転移結晶は場所を念じると10分の待機時間を要され、その後指定された場所へ行けると言うアイテム。


 私が起床してからあの場面に行くまで裕に30分以上は経っていたのは間違いない。


 最初から転移結晶を使っていれば危機に直面することなく血か炎か分からないほど真紅に染め上げられた地獄に居座らなくて済んだはず。


 それをしなかった故に今の現状に陥ったといっても過言ではない。


 そう考えながら発した私の言葉には若干の棘が含まれていた。


「わ、私も分からないの……。イバラに襲われる直前に待機時間が経過しきった転移結晶が、急に私の手に現れたからとりあえず遠くに、って思って使ったの……」


 その言葉だけ聞いていれば到底信じることなど不可能だ。


 しかしあれだけの地獄を同時に体験していたナナがこのような嘘を吐くメリットなど無い。


 それにまあ、理解は出来る。


 急に転移結晶が現れたからそれを使用して一緒に逃げた。


 最初から持っていたのに使わなかったとすればあの時点で私を置き去りにしたに違いない。


 それにもう疑うのはやめよう。


 これ以上誰かを疑って疑心暗鬼になればいずれ自分自身の行動も曖昧になり、破滅するに違いない。


「……そっか。それで助かったんだね。ありがとう」


 私は精一杯の笑みでナナに言葉を返した。


「哀華は私を疑わないの?イバラがあんな裏切り方をしたのに」


 確かにイバラの裏切りは想定外のものだった。


 最初合った時など疑うどころかむしろ安心感を覚えていたのだから。


 だから私は心の底からイバラを信用しようと決めていた。


 その結果この事態を招いたといっても過言ではない。


 未だに分からないことが多々有るが、過去にこだわっていても切りはない。


「疑わないよ。だって疑ったって証拠もないし、何よりナナが居なければ私は死んでただろうから」


 私は力強く、答えた。


「あ、哀華……あ、ありがとう……!」


 私に疑われることを危惧していたのか分からないが、疑いの念が晴れて緊張が解けたのだろう。


 ナナは目から大粒の涙を頬に伝わせ、私に抱きついた。


「辛かったよね。もう大丈夫だから」


 私もナナを抱き返して呟いた。


「あのぉ……」


「お取り込み中悪いのですが、そろそろ本題に入ってもよいでしょうか?」


 私たち二人はハッとして顔を赤らめた。


「ご、ごめんなさい」


「し、知らない人の前で大泣きしちゃった……」


 ルナとレナの言葉で現実に引き戻された私達はまともにお互いの顔をみれない位恥ずかしい気持ちに潰されそうだった。


「お二人の友情が素晴らしいということが分かったのです」


「そうですな。これはとてもいいものだと思います」


 ふふ、と二人は小さく笑った。


「それでは私たちについて来て頂いてよいでしょうか?」


「手間取らせてごめんなさい。もう大丈夫。さ、いきましょうか」


「え、え?」


 ナナは事態を把握していない様子であったが、それは後で説明するとしよう。




――――――




「いらっしゃいませー!」


 私たち四人は近くの街、ノルンにある飲食店で働いていた。


 ルナとレナに付いて行き、しばらくして着いた場所がこのノルンという街。


 リリムと比べれば小さな街だが、行き交う人々の活気がとても心地よい物を感じさせてくれる。


 街に着くとすぐに知らない人に捕まった。


 この街で飲食店を経営しているらしく、丁度人手が足りないから手伝って欲しいとのこと。


 急に何なのだろう、とも思ったがここに来る旅人に毎回声を掛けているらしい。


 バイト代も出るとのことであったので快く承諾した。


 この町の活気を見ていると少し前まで死に掛けていたことなど忘却してしまいそうになる。


 ここに来る途中にナナにはこれまでの経緯を大雑把では有るが説明した。


 ナナが気絶している間に何があったか、あの二人が私たちに何をしてくれたのか。


 その説明の中で回復スキルの説明をしたときはナナも驚いていた。


 腕が吹き飛ぶ状況などラスリアでは存在していなかったが、現実的に考えて腕が再生するほどの回復力など私たちが知っている回復スキルのレベルではなかったからだ。


 何にせよこの二人に出会えたことで私たちの傷が完全に癒えたことは紛れもない事実。


 この二人に感謝してもしきれない位だった。


 お昼時が過ぎると激しい熱気が漂っていた店内も落ち着き、打って変わって閑散とした雰囲気に変化した。


「いやー、今日は助かったよ!またいつでも手伝いにきてくれよな!」


 そういって店の店主は銀貨を私たちに銀貨を5枚ずつ渡してくれた。


 銀貨を渡されて気付いたが、私はまだこの世界の通貨を見た事がなかった。


 周りをみて見るとルナとレナは当たり前のように受け取っていて、ナナも同じく当たり前のように受け取っていた。


 あれ、通貨知らないの私だけ……?


「ね、ねえナナ。私この世界の通貨初めて見るんだけど……」


「そっか。哀華ってまだお金みたことなかったんだね」


「おやおや、お姉さん通貨をみた事が無いなんて田舎者なのです」


「いやいや、田舎者ってレベルじゃあ無いでしょうよ」


 ルナの言葉に三者三様に頷く。


 やめて、その哀れむような目でみるのはやめて!


「ま、まあ何でも良いから通過のこと教えてくれる?」


 私ははぐらかすように言葉で雰囲気を遮った。


「えっとですね。通貨は銅貨、銀貨、金貨の三種類があるのです。銅貨100枚で銀貨1枚。銀貨100枚で金貨1枚なのです」


「銀貨が5枚あれば1週間位は生活できるでしょうな」


 二人の言葉に私は少し驚いた。


 たった数時間働いただけでこれだけのお金が貰えるとは思ってもいなかった。


「きゃあああああああ!」


 その時女性の悲鳴のような物が聞えた。


「……またなのです」


 レナの表情が苦悶の表情へと移り変わる。


 何が起きたのか理解できなかったが、私はすぐに声が聞こえた方へと走り出す。


 その後を追うように3人も走り出した。




――――――




「……酷すぎる」


 私が最初に漏らした言葉だった。


 目の前に広がるあまりにも残酷な光景に私は目を逸らしたくなる。


 あの時聞えた悲鳴は間違いなく女性の声だった。


 何故なら目の前で身包みを剥がされ、殺され、ありとあらゆる物を奪われた女性の死体があるからだ。


 女性の顔に見られるのは酷い出血と、陥没した頭。


 恐らく鈍器か何かで思い切り殴られたのだろう。


 何度も死体を見て来たからこそ冷静で居られる。


 でも決定的に違うのはこの女性が人の手によって殺されたということ。


 人出なければ身包みを奪ったりするわけがない。


 私は何も出来なかった自分が情けなくて仕方がなかった。


 私以外にも悲鳴を聞きつけた人が女性の死体の回りに集まるが、見ては立ち去るだけ。


 警察のようなものを呼ばないのか……?


「……お姉さん。早くいきましょうや」


 ルナは苦虫を噛み潰すように呟く。


 早く行く?何もしないのか?


「これは最近この街に蔓延っている賊のせいなのです……」


 レナはどうしようもないと言わんばかりに女性の死体に背を向けて歩き出す。


「ちょっと待ってよ!そんな状態なのに見て見ぬ振りするの!?」


 私は思わず感情的に怒鳴り声を上げてしまった。


 それでもレナとルナは無言で小さく頷く。


 二人がこうまでして頑なに意見を変えないということは賊の強さが尋常でないか、数が尋常でないのだろう。


 そうでなければ街の人もこの二人もこの光景をみて行動しない訳がない。


 でも。


「そうやって何でも逃げてたら何も解決しないでしょ」


「分かっているのです。でも賊の規模が桁違いすぎのです……」


「……相手は二千近い規模ですからな」


「に、二千……」


 ナナは二人の言葉に驚愕を示す。


 それと同時に私も衝撃を受ける。


 自分自身の実力が有ればある程度のことは解決できると思っていた。


 だが、二千人を相手するとなれば話の方向性は大きく変化する。


 いくら単騎の質が突貫していても、賊の数が質を上回っていれば勝つ事は到底不可能。


 ましてや一人の質には限界がある。


 しかしそれに対して数の限界はない。


 その状況の中で二千と言う数は絶望的と言っても過言では無いほどの数であった。


 私だけが戦ったって結局は敗北し、この街を滅ぼす結果を招くだけ。


 自分が考えていた正義が脆く崩れ去る様子に、思った。


 私の考えは自惚れに過ぎないのだと。


「……でも見過ごせない」


 それでも食い付く私の声に二人は足を止めた。


「何故お姉さんはそこまでこだわるのです?確かにこの光景は無残な光景だとは思います。でもお姉さんからすれば無関係なことなのですよ?」


 レナは早口で言葉を捲くし立てる。


 そこに窺える表情は真剣そのもの。


 その言葉に一瞬冷たさを感じたが、当たり前のことを言っただけ。


「……それでも私は見過ごせないの」


 私は力強く呟く。


「……ナナお姉さんはどうなんだい?」


 ルナは話の方向性をナナに向ける。


「私だってこんなのみすぎせない!……あっ」


 ナナの言葉にルナとレナはクスッと笑う。


「お二人の気持ちは分かったのです」


「うん。ここまで本気になってくれる人初めてみましたぞー」


「じゃあ行くのです」


 二人は私たちの手を取った。


「何処に行くの……?」


「とりあえず付いてきてほしいのです」


 いわれるがままに私とナナは二人についていった。

今回もみて下さりありがとうございます。

また次回も見て頂けるとと幸いです。

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