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第四話 むせ返る地獄

連日の投稿により文章が少々稚拙かもしれませんが、読んで頂けると幸いです。

 私が目を覚ましたとき、視界一面が火の海に変貌していた。


 あまりについていけない事態に私は困惑の表情を示す。


 ナナに抱きつかれて記憶を失って……それから……。


 詳しい事は思い出すことが出来ないが、私に用意された部屋に寝ているということは間違いなくあの後この部屋に運ばれたのは間違いない。


 全てを焼き尽くそうと燃え広がる業火は黒い霧と同時に盛る。


 尋常でない事態が起きている事は見るからに、いや、全神経で感じた。


 寝ている間に景色が逆さに一転した。


 記憶を失っている間に起きた事態は私の中では一瞬の出来事としか感じられなかった。


 夢の中にいるのか?


 そう疑いたくなる自分も居るが、そんな悠長な考えを保持している訳には行かない。


 明らかに今起きている事態は異常。


 イバラがいう限りこの街にいれば大丈夫とは言っていたが、現にこうなっている以上例の奴らがこの街に攻めて来たと考えるのが正しいはず。


 しかしあれほどの実力を持ったイバラの本拠地であるこの城が業火に包まれているということは間違いなく相手の戦力はそれ以上。


 そうでなければこの本拠地を攻められる要因が何一つ見当たらない。


 だから私は自体を把握するために部屋から、業火から、黒い霧から逃げるように扉を蹴り飛ばす。


 片手に自分の銃を持って。


 廊下に出ても景色が変わることは無かった。


 あるものは同じ混沌。


 さらに付け加えて私を出迎えたのは使用人たちの死体から発せられる死の香り。


 押し寄せる不安に焦燥に駆られていく中、廊下を必死に走り抜ける。


 イバラは?他のみんなは?


 誰か今この場所に居ないのか?


 自分の不安を拭い去りたく、私は必死に生存者を探しながら逃げる。


「あ、哀華!」


 不安に震えた声が聞えた方に振り返ると、強い恐怖を目に宿したナナの姿がそこにあった。


「ナナ!一体何が起きてるの!?」


「分からない。私も寝ている間にこんなことになってて……」


 ナナもこの事態を把握していない?


 だとしたら今起きている事態は一体どうなっている?


 敵が私たちに気付かれることなくこの事態を起こした?


 いや、そんなはずは無い。


 断じて有り得る筈が無い。


 これだけの事態が起きているのも関わらず、今まで目覚めなかったのもおかしい。


 何がどうなっているのか。


「今は理解出来ないことが起きてるのに間違いはない。だから早く走って!」


「う、うん!」


 私はナナの手を取って一刻も早くこの場を離脱するために全力で業火の中を駆ける。


 もう火の手がそこまで来ている。


 逃げられない。


 そう悟った私は窓から飛び降りようとするが、曲がり角に見慣れた人物が血塗れで立ってることに気付いた。


 一瞬私はその光景を疑い、信じようとしなかった。


 だがそれは紛れもない事実で、目の神経が破壊されるような衝撃を受けた。


「あれ、起きちゃったんですか」


 業火に包まれる中全身血塗れになったイバラは不適な微笑で私に話しかける。


 何と無く予想はしていた。


 そうでなければこの状況に説明がつく筈がない。


 だが、そんなはずはない。


 だってイバラはあんなに友好的な態度だったじゃないか……。


「ど、どうして……」


 私は今までの全てを覆された事態に酷く狼狽する。


 イバラは怪我なんて一つもしていない。


 その証拠に今も笑いながら此方を見続けている。


 イバラを血塗れにしている血は出血による物ではなく、恐らく返り血。


 この城を守るために戦って血塗れになった。


 そう思いたかった。


 だが、イバラの手に握られているのは紅い氷の剣。


 そしてその後ろに倒れている血塗れのアレックス。


 この光景が全て理解させるものとして十分すぎるほどだった。


「うーん。二人には最後まで眠ってもらって焼死してもらう筈だったんだけどなぁ……?なんで目を覚ましちゃったんだろ」


 ケタケタと笑いながら剣に付いた血を舐めた。


「え……?イバラ……?どうして……?」


「ナナもやってみる?男の筋肉を切り裂くって凄まじく気持ち良いよ?」


 笑みを零す事無く死んでいるであろうアレックスの肉体を切り裂き、嗤う。


 あまりに衝撃的な光景にナナはその場で嗚咽を零す。


 無理も無い。


 仲間であった人間に裏切られたとすればショックは相当な物だろう。


 私としても少しショックでは有るが、今はそれ以上に気がかりなことがある。


 イバラが何故このタイミングで反旗を翻したのか。


 私という戦力が居ないうちに行動を起こした方が確実に事が潤滑に進むはず。


 理由は?


 分からない。


 アレだけ友好的な態度で敵意すら見せていなかったイバラが何故こんな事態を?


 それも分からない。


 いくら考えてもイバラの行動を理解することなど到底出来る訳がなかった。


「まあ、ここから逃がす訳にもいかないので殺させてもらいますけど」


 アレックスの死体を足蹴にしたイバラは害虫を見る様な目で私たちに飛び掛ってきた。


「くっ」


 私は遣る瀬無い気持ちのまま銃で斬撃を防ぐ。


 後ろに立つナナは酷い狼狽を隠すことが出来ていない。


 その気持ちは痛いほどわかる。


 仲間だった筈のイバラに裏切られ、一緒に過ごしてきた仲間も仲間だった者に殺され、これ以上の絶望があるのだろうか。


 それを割り切るほどの強さを持っている人間なんて殆ど居ない。


 ナナが現にそうなっている。


 当然私だって同じような状況に陥れば確実に絶望する。


 これ以上の絶望をまだ生きているナナに見せる訳にはいかない。


 私は地面に向けてペネトレイトショットを放つ。


 砕かれた床と共に岩石があたりに散らばる。


 その隙に私はナナの手を取り、イバラから離れるように逃走した。


「まあ、逃げても無駄ですから」


 イバラはそう呟き、ゆっくりと歩き出した。



――――――




 アレから走り続け、城の外に出た。


 目に飛び込んでくるのは阿鼻叫喚の地獄絵図。


 人の形をしていない異形の者が町民を襲っている。


 魔物と呼ぶのも似つかわしくないほど禍々しい者。


 ばらばらになった身体を貪る奴も居れば、倒れた町民を潰しながら歩く奴もいる。


 その光景に耐える事が出来なかったのかナナはその場で嘔吐した。


「大丈夫。しっかり」


 私はナナの背中を摩りながら呼びかける。


 ショックで話すことも出来ないのかナナはその場で震えている。


 私がナナを担いだまま堀を飛び越え街へ出ると、奴らは一斉に此方に目を向ける。


 狙って来る事は想定の範囲内であったが、全て、言葉に偽る事無く全てが此方に向けて一斉に走り出す。


 そういうことか……!


 私は奴らの行動でイバラの狙いが仮定ではあるものの理解することが出来た。


 私が居ない過去の方が襲いやすいにも関わらずこの状況で事を起こし、尚且つ外に逃げた私を追わなかった。


 最初から狙いは他でもなく私だったということ。


 だったら何故街に入った時点で私を殺そうとしなかったのか……?


 理解できない点が多すぎて頭の整理が追いつかない。


 しかし完全にわかりきっているのは戦闘もままなら無いナナを抱えて奴らと戦うとすれば確実に私が殺されるということ。


 少なくとも総攻撃を受けてはならない。


 そう、細い路地に逃げ込まなければ。


 私は再びナナを抱えながら私は地を駆ける。


 しかしそう簡単に事が運ぶ筈も無い。


 ありとあらゆる所、ほぼ全方位といっても過言ではないほどの範囲から魔法攻撃が私目掛けて幾多も襲い掛かった。


 予想通りこの場で私を殺すつもりだと理解した。


 逃げ惑う町民はもう見当たらない。


 狙う的はただ一つ、私。


 何対一をやっているのか分からないが、今置かれている状況が脅威であることに変わらない。


 もたもたしていたら確実に魔法の餌食。


 私は狙える範囲で奴らへと反撃を開始する。


 響く銃声と魔法による一斉射出が戦火と化す。





――――――





 上手く逃げ込むことに成功したが何度も魔法による攻撃を身体に浴び、軽症と呼べる怪我ではなかった。


 何処に逃げても奴らの手は止む事無く、現に今も魔法による一斉放火が私に向けて放たれている。


 ナナも少しは気を持つことが出来るようになり、大剣で魔法を防ぐ補助をしている。


 だが、震えている身体は隠しようもなかった。


 一瞬の隙を見せるだけで私たちの敗北は目に見えるほど凄まじい火力が襲い掛かる。


 四面楚歌。


 いつまでこの状況が持つかも分からない以上、何か手を考えなければならない。


 幾多もの魔法を躱し、僅かな隙を見て銃弾を貫通させる。


 だが敵の手は一方に止む様子はない。


 手数が違いすぎる。


 だが、スキル攻撃で一掃することは出来ないこともない。


 敵が全て正面に固まっている以上撃ってしまえば潰す事は可能。


 しかしナナが万全の状態でない上に僅かな隙が出来てしまえば相手にとって思う壺になるのも事実。


 明らかなジリ貧だった。


 そう思っていた矢先、ナナが先頭に立ちスキルを放った。


 構えていた剣が巨大化し、攻撃を防ぎながら敵を圧殺する。


 みたこともないスキルだが、ナナの機転を利かせた一撃により圧倒的不利な状況に追い込まれていた私たちの形勢は逆転した。


「ごめん、もう大丈夫」


 震える手を押さえながら微笑むナナの顔は涙で濡れていた。


 大剣が元に戻ると既に奴らは肉片と化し、粉々に砕け散っていた。


 私は敵が居なくなったことを目視し、最初に路地から出た。


 が、突如私の体は激しい衝撃を受け、宙に舞う。


「がぁっ……!?」


 何が起きたのか理解できない。


 私はそのまま地面に叩きつけられると同時に衝撃が来た方向へ振り返る。


 そこには半分異形の者となったイバラが口が裂けるほどの顔笑っていた。


 あの時戦ったのとは桁違いだと言わんばかりの威圧が私に押し寄せる。


「もう分かってるんでしょ?殺し合い、始めましょ?」


 殺し合いを始める。


 それは何の問題もない。


 そもそも私が棚に上げているのはそんなことではない。


 最初から私が目的ならどうして私だけを狙わなかったのか。


 私は抑えられない怒りを込め、引き金を引いた。


 放たれた弾丸をイバラは避ける事無く受け止める。


 弾は簡単にイバラの身体を貫通したが、全くダメージが通っていないのかイバラはゆっくりと近付いてくる。


 ナナも今までとは桁違いの殺気に驚愕しているのか、はたまたイバラの姿に呆然としているのか分からないが、その場でへたり込んでいた。


 このまま攻撃してもダメージが通らないなら終わらない上に切りがない。


 それでも私は状況を打破するためにスキル攻撃を放ち、必死にイバラの歩みを止めようとする。


 このまま攻撃しなければ確実に殺されるのは私。


 私だけでなくナナも殺されてしまう。


 何が目的なのか不明だが、今はこの状況を切り抜けるほか策はない。


 ただどうやるか。


「攻撃は終わり?それならこっちから行かせて貰いますねぇ……!」


 イバラが私に向けて手を翳した途端、幾多もの氷剣が眼中に形成される。


 一瞬のうちにこれだけの氷剣を形成したにも関わらずイバラは余裕の表情を示している。


 これが軽い一手だとすれば戦力比は冗談にならない。


 しかしここでヤケになればどちらが敗北するかなど目に見えていた。


 つまり私は最善の選択をし続けなければ死という敗北に塗り潰されると言うこと。


 今この状況で戦えるのは恐らく私だけ。


 先ほど立ち直ったばかりのナナも今の状況、ましてや相手がイバラであればなおの事戦うことなど到底不可能だ。


 極限状態。


 一瞬の緩みが即全滅に直結すると理解しながら、私は後退しながらもなんとかスキル攻撃で氷剣を破壊し、回避する。


 反撃を何度も放ってもイバラの身体は瞬時に再生し、傷が癒える。


 何か手はないのか……。


 そう思っていた矢先ナナが走り出し、イバラに大剣による凄まじい一撃を振り下ろした。


 その刹那、イバラの身体から黒く禍々しい塊が吹き出しその一撃を止めた。


 馬鹿な……。


 背後から攻撃した確実な不意討ちだったにもかかわらず、イバラは視線を向けることなく一撃を止め、尚且つ私への攻撃の手も加速させていた。


 ナナが危険に晒された状態になった以上、助けるほか選択肢は存在していなかった。


 私は咄嗟にグレネードバーストを地へと放ち、ナナの元へと凄まじい速度で移動する。


 それと同時に私が立っていた場所にイバラの一撃が振り下ろされた。


 一撃による衝撃は街の地面を裂き、近くで燃えている建造物をいとも簡単に吹き飛ばすほどの威力だった。


「あーあ、避けられちゃいましたか」


 さらに衝撃的な光景は続く。


 今度は先ほど吹き出した黒い塊がもう一つ生え、イバラの身体を覆うように展開された。


 これだけみればただの防御系スキルとして見えないこともない。


 だがその黒い塊からは声が聞えるのだ。


 助けて、出して、殺さないで、犯さないで、と。


「驚いた?この中には住民みーんなの魂が入ってるの」


「そういうこと……」


 どういう原理か分からないが、恐らく魂が有ればあるほど力が増す仕様なのは間違いないはず。


 この仮定が合っているとすれば、今のイバラは凄まじいほどの力を有しているということ。


 そう考えれば先ほどの威力も、氷剣の形成の早さにも納得がいった。


「多分この仕組みにも大方気付いてるんですよね?だったら話は早い」


 次の瞬間、私に向けて黒い塊が目にも留まらぬ速さで放たれる。


 あまりの速さに完全に避けきることができなかった。


「が、あぁ……!」


 辛うじて全身でダメージを貰うことだけは回避出来たが、右腕を持っていかれた。


 文字通り切断や破砕されたのではなく、持っていかれた。


 ダメージを受けた右腕は体から離れると同時にあの黒い塊に飲み込まれたのだ。


 それでもイバラの攻撃は止まない。


 イバラの周りに形成された氷剣、氷柱、氷塊、様々な物が瀑布のごとく目で追える限界速度を越えて押し寄せる。


 私の技は今のイバラには一切通用しない。


 規格外の治癒力に攻撃力。


 イバラはほぼ動いていないにもかかわらず私は既に満身創痍の状態。


 この理不尽な状況において勝利するなどという言葉は既に頭の片隅にも存在していなかった。


 右腕が持っていかれた以上武器スキルを発動することもままならない。


 完全に詰んだ。


 だがナナは諦めずにスキルを発動し、巨大化させた剣で全ての攻撃を防ぎきる。


「く、ううっ……!今のうちに……!」


 ナナは受け止めている剣をそのまま放棄し、私の手を取る。


「やっと溜まった……。転移結晶で逃げるね!」


 ナナのもう片方の手に握られていた結晶が光だし、私は蓄積したダメージ耐え切れなくなりその場で意識を失った。

今回の話もみていただきありがとうございました。

次回からはストーリーの進行が少し遅めになります。

また次回もみて下さると幸いです。

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