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第二話 現実の認識

更新速度は基本的に遅いと思われますが、みていただけると幸いです。

「はぁ……、はぁ……」


 私は机に向かった姿勢のまま、息を切らしながらヘッドギアを外した。


 身体は汗で濡れており、気持ちが悪い。


 別に激しい運動した訳ではない。


 ラスリアでの出来事が頭の中にフラッシュバックする。


「一体……なんだったの……」


 どうしてあのような出来事が、その一言しか生まれない。


 あの悪夢から逃れることに成功はしたが、恐らくあの二人のプレイヤーと気絶していたプレイヤーは死亡したに違いない。


 死亡するなんてことがおきる事は無いはずだが、あの場の感覚ではどうしても死んだとしか思えない。


 どうしてこんな訳の分からない事が起こったのか、という事よりもあの光景が強烈過ぎて、他のことが考えられるような状態ではなかった。


 あの状態で混乱しない人間なんていない。


 自分で言うと少々難はあるが、これでもトップクラスの実力を誇っていた自分の攻撃が全く通用しなかったと考えると恐怖しか生まれない。


 いくらチートを使用していた可能性があったとしても、敗北によりこれまでラスリアに注ぎ込んで来た自分の人生を否定されるかのようだった。


「ふざけないでよ……!」


 自分自身の存在価値を潰されたと痛感してしまうことが恐怖よりも辛かった。


 あれが何だったのかは不明な点が多すぎて分からない。


「お姉ちゃんまだ起きてたのー?」


 不意に部屋の扉の向こう側から声が聞こえたと思うと、扉を開けて妹が部屋に入ってきた。


「お姉ちゃんさっき叫んでたけどどうかしたの?」


「……ううん。なんでもないよ。心配してくれたの?」


「うん……。お姉ちゃんの声辛そうだったから」


 妹の真衣は私の手を掴む。


「大丈夫だから心配しなくていいよ」


「……ほんとに?」


「ほんとにほんと。全くお姉ちゃんの心配してくれるなんて可愛いんだから、もう!」


 真衣の頭を撫でる。


 私の笑みは力ない苦笑だったが、真衣には本物の笑みに見えたのか笑いかけてくれた。


 私は中学2年生のときいじめに合い、引き篭もりと言うほどではないが学校で人と余り接しなくなっていた。


 そのときにハマったのがこのゲーム、『ラスリア』。


 私は中学2年生の後半から今まで家にいる時間はほとんどラスリアに注ぎ込んで来た。


 アルバイトをして溜めたお金も全てラスリアへ課金し、生活の主軸がラスリアといっても過言ではないほどだった。


 そして私はラスリアのpvpの大会で優勝を果たし、念願のトップランカー入りを果たした。


 この大会は何度も開催されており、今までに優勝者は私を含め4人出ている。


 私のキャラクター名は『哀華』。


 大会は既に8回開催されていて、私はその8回目の優勝者である。


 そのほかの7回は全て3人のプレイヤーが優勝していた。


 トップランカー成り立てとは言え、見知らぬ相手にあそこまで手も足も出ないものなのかと実感させられた。


 決定的な敗北という訳ではないが、私にとっては大きな心的負担であった。


 それにあれがチートによるキャラクターの異常行動だとすれば、確実に何日かの長期メンテナンスに入ってしまうだろう。


 そうなってしまえば暫くの間ラスリアがプレイできなくなってしまう。


 あのチート使いを探し出し、倒すことも出来ない。


 本当にあれは何だったのだろうか。


 あのときの森を思い出す。


 マップにも表示されない異形の光景で、見たことも無いオークが何匹も見受けられた。


 ラスリアのマップはどの場所も近未来的な場所になっていて、古くても現代位のマップしか存在しない。


 ダンジョン全てが解析されているわけではないが、あの場所はどうにも時代が遡っているかのように感じられた。


 ラスリアの時代設定からどれほど過去に遡った設定の場所なのかは分からないが、何故か違和感を感じる。


 それは現実感の違い。


 あの時あの場所に居るとき、私は途中からゲームだということを忘れてしまっていた。


 殺される直前になるまでログアウトできることを忘れていた。


 そしてログアウトした後はゲームで敗北したという感覚に襲われたが、ゲームの中では本当に死ぬと錯覚しきっていた。


 だとしたらあの場所はゲームではない……?


 いやそんなはずは無い。


 実際にプレイヤーが3人居たし、武器スキルも使っていた。


 だとしたらあの感覚は一体……。


「お姉ちゃん……大丈夫?お姉ちゃん」


「え?あ……、ごめん。ぼーっとしてた……」


 先程から真衣は私を呼びかけていたようだ。


 真衣は妹なりの心配をしてくれている。


 私の事情を知っていると言う訳でもないのに、気遣いを示してくれた真衣の親切心が嬉しくて思わず抱きしめた。


「よし、もう大丈夫だから寝よっか!」


「はーい、おやすみお姉ちゃん!」


「おやすみ」


 最後にもう一度真衣の頭を撫で、そのままベッドに横になった。



――――――――――




 私は再びログインする。


 ログインをすれば再び同じ座標からスタートすることになる。


 ただしそれは『ラスリア』での話。


 前回に続きまたおかしな場所に続く可能性が有力である以上気を引き締めて行かなければならない。


 そして案の定また知らない場所に私は立っていた。


 今回私が立っていた場所は前回とは違い、見知らぬ山小屋の目の前だった。


 しかし前回のようにうろうろするわけにもいかない。


 安全を確保するために調べなければならないことが無数にある。


 まずは地理を理解しなければならない。


 場所は違うとはいえど、ここもラスリアの中ではない。


 マップに前回同様???と記されている。


 私がそのままマップを閉じようとすると山小屋の裏から物音が聞こえた。


 その音がするほうへ歩いていくと一人の男性が鉈で木を割っていた。


「ん……、誰だ君は?」


 男性は珍しい物を見るような目でこちらを見ていた。


 正直誰だと問いたいのは私も同じである。


「あ……、えっと、その、すみません。あなたはここに住んでいる方ですか?」


「ああ、その通りだがそれがどうかしたのか?」


 不思議そうな目でこちらを見つめる男性に違和感を覚えた。


 それはプレイヤーとは違う感じ、NPCの様な雰囲気を漂わせている男性がまるで私の言葉に『返事』をしたかのように思える。


 やはりここはラスリアとは違い、ゲームでもない本当の異世界なのか……?


 普段プレイヤーならプレイヤー表示、NPCならNPC表示を示すマップだが、全く機能していないらしく男性をマップ上に表示させていない。


「あったばかりでこんな事を尋ねて変かも知れないんですけど、ここは何処ですか?」


「何?お前さんはリリムから登って此処まで来たんじゃないのか?」


 リリム、男性の口調から察するにこの山の麓か近くにある街のことを指しているのだろう。


「ええ、そうです。リリムに戻る途中でして……」


「ほんとうか?ちょっと待て――――――――」


 これ以上絡まれるのも面倒だったため、軽く会釈してその場からそそくさと退散した。


 しばらく歩いていくと、整理された道が見えてきた。


 道の脇には立派な木が幾本も茂っており、現代の何処かに飛ばされたような感覚になる。


 そしてラスリアの中での私のアバターは制服。


 これではまるで学校へ登校するような格好だ。


 唯一つ違う点を言うとすれば、銃を担いでいるということ。


 さらに歩いてゆくと、大きな川沿いに出た。


 見覚えの無い景色ばかりに少々困惑していたが、ついに見えてきた。


――――リリム。


 話の内容から察するにあの場所から一番近い街がリリムという街で間違いないだろう。


 遠めに見える街並みは大きな城を取り囲むように作られていた。


 いわゆる城下町という奴だろう。


 街の正面には大きな門が有り、そこに兵士の格好をした人が立っていた。


 今は情報を集めなければならない。


 自分の現状を理解したい一心からか、私は駆け足で門へと走っていった。


 門の前に着くと予想通り兵士に足を止められ――――――無かった。


 それどころか門が一人でに開いたのである。


 いきなりの光景に私は戸惑いを隠せなかったが、開いた門に入るように兵士が促してきた。


 このまま立ち尽くすわけにも行かず、そのまま門を潜ると同じように独りでに門が閉じて行く。


「ふふ、驚きました?」


 背後から聞こえた声に驚いて私は咄嗟に飛び退いたが、それ以上に声の主に驚きを隠すことが出来なかった。


 モノクロのチェックのワンピースを着た女性が、燃える炎のような形をした赤い結晶が付いた杖を持って立っていたのである。


 ここが異世界でこういう格好が普通なら驚くことは無い。


 女性が持っている杖がラスリアに存在する杖であるから故に驚いたのである。


「え、え……?」


 あまりに予想外すぎる展開についていけない私は、その場で驚いたまま硬直した。


「詳しい話は歩きながら話すので付いて来てください」


 女性は私の手を取って街の中心部にある城の方へと歩き出した。


「イバラって名乗ってます。あなたは哀華さんですよね?」


 イバラと名乗った女性はニッコリと私に微笑みかけてきた。


「ええ、そうだけど……。やっぱりここって」


「そう。ここはラスリアの世界じゃないです。哀華さんも薄々分かって来てるとは思うんですけど異世界、なんですよ」


「やっぱり……」


 イバラが言っていること全てが事実であるなら、とんでもない事態が起こっているということ。


「その顔を見ると大体理解しているみたいなので良いんですけど、まず話さなければならないことがあるんです」


 イバラは神妙な面持ちでその場に立ち止まった。


「ここは異世界であってゲームじゃないんです。だからここで死ねば本当に死ぬ。だから命を狙ってくる連中には気をつけなければいけないんです」


 その言葉に思い当たる節がいくつかあった。


 私の目の前で死んだ三人。


 そして私を殺しにかかってきたあの男。


「哀華さん。最初にログインしたとき襲われませんでしたか?」


 まるで見透かしたかのように尋ねてきた。


「ええ、襲われたわ。チートでもしてるんじゃないかって位の強さで手も足も出なかったわ」


「もしかして黒いローブの……?」


「そう。思いっきり殴られたわ」


 イバラは驚愕の表情で私の顔を見る。


「あの黒ローブはこの世界に居るプレイヤーを殺しにかかってるみたいなんです。実際に殺されたプレイヤーを何人も知っています。でも流石ですね……。私はあの黒ローブに実際にあったことは無いですけど、アレから逃げ切った人は二人しか知らないですから……」


「実際に逃げ切ったわけじゃない。どちらかと言えば見逃されたって言う方が正しいかも」


「なるほど。逃げ切った二人も同じように見逃されたって言ってましたね」


 あの黒いローブが何を考えているのかは分からないが、敵であることは間違いない。


「何が目的なのかは分かりませんが、同じようにラスリアのプレイヤーを狙う奴は他にもいます。黒ローブ以外の奴は実際に見たことが無いので詳細は分かりませんが大きな勢力が他にもいくつかあるみたいです」


「なるほどね。少なくともあなたは敵ではないのでしょう?」


「それは勿論!敵対するんだったらこの街に入った時点で奇襲をかけてますよ」


 さらっと恐ろしいことを言ってくれる。


 どちらにせよイバラの言うことに思い当たる点がいくつもある以上信じるに値すると考えて良いだろう。右も左も分からないならある程度分かるイバラに話を聞いた方が手っ取り早い。


 イバラの態度はもとより、漂う雰囲気がとても敵に対する物ではない。むしろ安心感を与えてくれるような雰囲気だ。


 どう言葉にすればいいのかは分からないが、現状疑う事は選択肢に入っていない。


 まずはイバラから知っている限りの情報を聞き出し、これからどう動くかの基盤を作っていかなければならない。


 そういう面も含めイバラが最初から友好的であるのは願ったり叶ったりである。


「そういえば、何処に向かっているの?」


「何処ってそれは勿論私の城ですよ!」


 私はその言葉に耳を疑った。


 この街にある城らしきものは街の中心にそびえる大きな城以外は見当たらない。


「え、あの城に行くの?」


 私は街の中心にある城を指で指して尋ねた。


「そうですよ?あれが私の拠点ですからね!」


「ええ……!?一体いつからこの世界に居るの……?」


「私はここに着てそろそろ二年位ですかねー」


 先ほどからイバラの言葉には驚かされてばかりだ。


 私が着たばかりのこの世界に二年前から居る上に、街で大きな拠点を作っている。


 流石の私も驚き疲れた。


 これ以上イバラがなにを言っても驚かないことにしよう。


 歩き疲れて来た頃には目の前の視界がが大きな城で埋め尽くされていた。


 遠目だからこそ大きな、と大雑把な表現であったが単に大きいだけではなく城の至る所に細かな装飾が施されていた。城の周りは水が張った堀で囲まれており、橋が下ろされなければ渡れないようになっていた。


 今の身体能力ならこの堀を飛び越える事も出来なくは無いが。


 これだけの物をこの世界に来て二年で作れるというのは大したものだと思う。


 派手すぎず、しかし地味だとは言わせない雰囲気が外装から一目で分かる。


 これじゃあまるで王様か何かだ。


「……ここに住んでるの?」


「それは勿論!だって私の拠点であり、今の我が家ですからねー!」


 イバラが私と繋いでいた右手を離し、上に挙げると橋が降りてきた。


「さ、行きましょ」


 促すイバラに従って、恐る恐るといった感じで私はイバラの後に付いて行く。


 城の大きな扉を開けると、そこには大きな豪邸が建っており、大きな庭が目に飛び込んできた。


 私はその庭に敷かれた玄関への道を歩いていき、イバラと共に館の中に入った。


「お帰りなさいませ、お嬢様方」


 信じられない位の使用人が私たち二人を出迎えてくれた。


 まあ、なんとなくは予想していたが、現実でもゲーム内でもこんな光景を見るのは初めてで戸惑ってしまう。


 それに外観に劣らないほど美しい装飾で飾られた内部にも圧巻だ。


 そんな中男性が二人、女性が一人こちらに駆け寄ってくる。


「よう、遅かったな薔薇嬢。そこに居るのが例のランカーか?」


 最初に口をあけた男性は内容から察するに同じラスリアのプレイヤーであるに違いない。


 他の二人もラスリアで見覚えのある格好だった。


「うん、そう。哀華さん。これから私たちの仲間になってくれる人」


 おお、と他の三人は驚いた顔をしているが私は一度も仲間になるとは言っていない。


 断る理由も無いので反論するつもりは無いが。


「まあ、哀華さんもまだ分からないことだらけだと思うから色々説明しないとね!」


「では私が案内させて頂きます」


 並んでいた使用人の一人が私たちの前に深い礼をし、招いてくれた。


 私は見たことも無い装飾が施された廊下を使用人の案内で歩く。


 入ってすぐに移動することになったが、急いでいるという雰囲気は感じない。仮にゆっくりしていたとしてもこの廊下の長さでは返って遅くなってしまうだけだ。


 未だにこの豪華さには慣れないが、ラスリアのプレイヤーが他に居るだけで居心地が悪いということは無かった。


 ある程度進むと大きな部屋の前に着き、使用人の人が去るとイバラがその扉を開けた。


 中の部屋は執務室のような出で立ちで、同じように装飾が至る所に施してある。


 これだけ見ると流石に慣れてきた。


「さ、哀華さん座って座って」


 イバラに指示されたとおりにテーブルの前のソファに腰を掛けた。


「そういえば私以外の自己紹介がまだだったね」


 そこにきて、他の三人が名乗っていないことにようやく気づいた。


 装飾ばかりに目が行っていて完全に忘れていた。


「おう。なら俺から自己紹介させてもらうぜ。俺の名はアレックス。使用武器は槍だ。一応それなりのレベルは有ると自覚してる」


 身長は大体180cmくらいだろうか。


 とても高い身長に合わせた赤いロングコートが印象的だ。


「むー。私が最初に挨拶しようと思ったのに!いつもいつもアレックスは私がやろうとする前にやるんだから……あ、ナナです。使用武器は大剣で、一応大剣スキル使ってます」


 長い金髪をツインテールにした髪型にゴシック調の黒いドレスがよく似合う。


「僕は黒と呼んでくだされば結構です。武器はサーベルを使用しています」


 落ち着いた口調にタキシード。


 まるで執事のような出で立ちである。


「哀華です。使用武器はスナイパーライフル。これからよろしくお願いします」


 私の言葉に三人ともよろしく、と返してくれた。


「さて、自己紹介は終わったみたいだし哀華さんはまだ分からないことが多いと思うから色々説明するね」


「ええ、お願い」


 ある程度のことは分かったがまだ分からないことの方が多い。


 私が促すとイバラは此方に向き直り少し咳払いをしてから話しはじめた。

今回の話をみていただきありがとうございました。

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