第一話 降り立つ新たな地
今回初投稿となります。
分からない事ばかりですが、感想を頂けると幸いです。
さて、ログインするかな。
私、千条真冬は『ラスリア』にログインした。
『ラスリア』は今までにない新しい要素を取り入れたVRオンラインゲーム。
本来のRPGは戦士や盗賊といったジョブがあるものだが、『ラスリア』にはジョブという概念が存在しない。
このゲームは様々な武器が存在しており、ジョブにとらわれる事無く自分が使用したい武器を使用し、生き抜いていくゲームである。
ジョブが無いため、武器ごとによってスキルが存在しており、私はスナイパーライフルを極めていた。
私が使用している武器は『アンドロイドファイア』というスナイパーライフル。
現状、ラスリアに存在するスナイパーライフルの中では一番の火力を誇っている武器である。
この武器を入手するには凄まじい数の合成を繰り返し、エンドコンテンツのボスしかドロップしない素材を最後の合成に使わなければならない。
私はその過程がめんどくさくて私は課金して『アンドロイドファイア』を買った。
そしてログインして気づく。
「あれ、ウェルタじゃない?」
自分の周りに広がる景色は最後にログアウトしたと思われる場所、ウェルタの街ではなく、見知らぬ街道だった。
左右は高い木々が覆い茂っており、この街道の挟むように佇んでいた。
前後を見ても街のようなものは見えず、道が続いているだけ。
昨日寝落ちしたからもしかしたら知らない間に動いてたのかな?
考えられる要因はそれ位しかない。
正直こんな訳も分からない場所まで寝たまま移動してログアウトしたとは思えないけど……。
私はメニュー画面を開いてみる。
見たところインベントリやログアウトの機能に異変は無い。
マップも開けたが、現在地が『???』と表示されていた。
???という場所に私は見覚えがあった。
ラスリアにはダンジョンというものが存在し、ダンジョンの中で隠しエリアに入ると現在地が『???』と表示されるようになる。
ってことは、ここはダンジョン内の隠しエリア……?
でも、寝たままダンジョンに入るわけ無いだろうし……どうなってるんだろう。
「どちらにしても、ここがダンジョンなら油断は出来ないね」
私は独り言を呟いてアンドロイドファイアを手に取った。
今自分がどんなダンジョンにいるかは全く分からない以上、警戒するに越したことは無い。
いまの自分の服装が軽装であることも含め、油断出来ない。
本来なら防具を付けてダンジョンに入るものだが、街に居たこともあって防具を倉庫に預けていた。
街でも防具をつけていたら重たくて仕方が無いからね。
「今のは……」
覆い茂る木々から不釣合いな金属音が鳴り響いた。
この森の中で誰かがモンスターと戦闘している可能性がある。
それなら今すぐ駆けつけたほうがいいだろう。
他のプレイヤーを助けることにそこまでの利点は無いが、隠しエリアに湧く敵ならレアドロップがあるかもしれない。
私はスキルを使用して気配を消した。
スナイパーライフルのスキルには隠密行動を可能とするスキルがある。
『スニーク』と呼ばれるスキルで、自分の姿を透明にするスキルである。
このスキルで透明になっても自分自身は見ることが可能。
相手からは見えなくなるという便利なスキルである。
ただし一度でも攻撃してしまえば透明状態は解除されるため、ファーストアタックを仕掛ける際にしか使えない。
私は木々に触れて音を出さないようにゆっくりと歩みを進めていく。
スニークを使用している際は、移動速度が落ちるため不意打ちには気をつけなければならない。
進んでいくと徐々に金属音が大きくなってきた。
そろそろかな?
私はアンドロイドファイアのスコープを覗き込んだ。
見えたものは見たことも無いモンスターと戦う3人パーティのプレイヤーだった。
お、おお!やっぱりレアモンスターか!
私は基本エリアに出現する通常モンスターは全て頭に入っている。
その中に該当しないもんスターがいるとすれば、それはレアモンスターということになる。
モンスターは人型をしており、豚の様な顔をしていた。
通常エリアにも似たようなモンスター『オーク』が存在しているが、それとは似て非なるものだった。
本来のオークは緑色をしているが、今目の前に居るオークのようなモンスターは青色。
モンスターには希少種と言うものが存在し、本来の体色とは違う色をしたモンスターのことを指す。
恐らくあれはオークの希少種だろう。
数は7匹とプレイヤーの数に対して倍以上居る。
プレイヤーは男性が一人に女性が一人。
男性二人はショートソードを持っていて、女性の方は杖を持っている。
プレイヤーは恐怖しているのか足が震えており、とても戦える様子ではなかった。
それを好機と感じているのかオーク達はプレイヤーを取り囲むように立っていた。
これは、チャンスだね。
私のホームグラウンドは遠距離。
今の距離なら狙うことは十分可能だし、敵も私の攻撃だと気づかないはず。
私は一番手前に居るオークの頭に向けて銃の引き金を引いた。
「な、何だ!?」
男の一人が目の前の出来事に困惑して叫ぶ。
何故なら自分達を囲んでいたオークの一匹の頭が吹き飛んだから。
他の二人のプレイヤーも急な出来事に困惑していた。
さて、後6匹だけどどうしようか?
他のオークたちも理解が追いつかないのか周りをキョロキョロと見渡している。
今の状況であれば6匹処理するのはそこまで難しいことではないが、レアドロップをしたらどうなるか。
それは勿論近くに居るプレイヤーに持っていかれるに違いない。
それだけは避けたい。
次の攻撃が無いと考えたオークはすぐにプレイヤーへと攻撃を開始した。
オークは武器を何も持っていないが、数が数だ。
男性が防御に徹して女性が魔法を放っているが、うまく当てられていない。
これだけ密集している場所で広範囲である魔法を打てば男性のほうにも当たりかねない。
そのことを危惧しているのか、威力が弱く命中しない。
同じパーティだったら即座に戦ってただろうなぁ。
私の一撃で沈む程度の敵なら問題なく倒せる。
だが、同じパーティでは無い以上迂闊に倒すわけにも行かない。
レアドロップが存在しているか定かではないが、可能性が捨てきれない以上加勢は出来ない。
様子を見ていると一人の男がオークに頭を殴られて気絶した。
これを好機だと感じたオークは攻撃を激化させてゆく。
もう一人の男に対してオーク達は拳をあらゆる箇所に叩き込んでいった。
肩、腹、腕、頭。
後ろに気絶している仲間がいるためか、回避する事無く全てガードしていた。
大丈夫かな?
そう思ったときには隣にいた女性が思い切り木に投げつけられて倒れていた。
よし、今かな。
私は再びスコープを覗き込み、オークの頭へ狙いを定める。
行け。
私が放った一発はオークの頭を吹き飛ばした。
また一人仲間の頭が吹き飛んだことに動揺するオークたち。
慌てていたらもう間に合わないからね。
また次の一撃を放つ。
残り5匹。
男も私の一撃が敵ではないと判断したのかオークへと斬りかかる。
オークの泳いでいた視線はすぐに男へと切り替わった。
大丈夫かな?
流石に全部のタゲを持っていったみたいだし危ないから助けてあげるかな。
オークたちは私の攻撃を全く警戒する事無く男へと攻撃を開始した。
普通に考えれば私の攻撃も警戒するだろうが、低知能で有名なオークにそんな高度な機能は持ち合わせていない。
私は注意がそれたオークへと向けてまた一撃を放つ。
頭を貫いた弾丸はもう一体のもオークを貫いた。
ダブルキル。残り3匹。
男も残りのオークを討伐するために動いた。
残り3匹とは言え、私が加勢しなければ3対1と圧倒的不利な状況は変わらない。
オークの攻撃は全て目の前の男を対称にしているからである。
遠距離武器を持っていないオークは目の前の男を優先して倒した後私を探し出すつもりだろう。
そんなことをしていたら私にやられるだけだってのにね。
私が次の一撃を放とうと構えたが、男の一撃がオークの脳天に振り下ろされた。
男のショートソードはオークの頭に深く入り、オークはその場に倒れた。
残り2匹か……。
残ったオークが男を挟み撃ちにして襲い掛かる。
2対1による手数の多さで男は防ぎきれずに攻撃を受けた。
オークの怪力から繰り出された一撃が男の腹へと叩き込まれ、そのまま直線状に大きく吹き飛ばされていった。
幸いにも後ろに木は無く地面に転がることで大きなダメージを受けずに済んだようだが、それまでの戦闘の疲労が響いているのか深刻なダメージは見て取れないが、男はその場で動けずにいた。
そしてオークたちは辺りを警戒し始めた。
遠距離攻撃の発射地点を見極めようとしているのかは分からないが、動かずにその場で周りを見渡している。
私からすればその光景は滑稽すぎて腹が痛い。
オークは鼻が優れているが目と頭はそれほど良くない。
オークが匂いで判断できる圏内から離れている以上近付いてこない限り私の位置が晒される心配は無い。
全く面白いなぁ。
私は一撃を放つ。
アンドロイドファイアから放たれた一撃は片方のオークの心臓の付近を撃ち抜いた。
見事心臓に当たったのかオークはその場に倒れこんだ。
もう一匹のオークはやっと勝てないと悟ったのか逃げ出そうとするが既にもう遅い。
逃げ出したオークの無防備な背中を余所に頭を撃ち抜く。
成す術も無く私の一撃を喰らったオークはその場に倒れこんだ。
最後の一匹もその場に倒れ、吹き出る血潮で付近が血塗れになっていた。
気持ち悪いな……。この隠しエリアは処理が遅いのかな?
本来倒されたモンスターは一定時間が経つとその場から消えるが、このオークたちに消える様子は無い。
それにレアドロップも全くしていないところを見るとどうやら外れだったようだ。
「さて、と」
私は血塗れのオークの死体があるほうへと歩いていき、その場に倒れこんでいた女性に話しかけた。
「大丈夫?」
私の言葉に気が付いたのか、木に寄りかかりながら気を失っていた女性が目を覚ました。
状況を把握しようとしているのか周りを見渡す。
辺りの光景をみて女性は驚愕の表所を浮かべていた。
倒れている仲間を見て呼吸を乱し、死んでいるオークを見て混乱する。
明らかに状況が飲み込めていない。
「私がオークを処理したから大丈夫。そこの二人も多分死んでないから」
私の言葉に女性は身体を押さえながら男性へ駆け寄った。
「大丈夫!?しっかりして!」
女性の掛け声に一人の男は返事を返した。
もう一人は気絶しているようだ。
「悪い……。こんなことになるとは思わなかった……」
男はバツが悪そうな顔をして女性に謝っていた。
傷だらけの身体を押さえながら立ち上がり、息を切らしていた。
「随分とダメージが大きいみたいですね。一度街に戻った方がいいかと」
「ああ、そうするつもりだが……この女の子は誰なんだ?シエラ」
シエラ、と呼ばれた女性は傷だらけの男を支えた。
「分からないけど、あなたがオークを倒したのよね?」
「そうです。危ないと思ったので」
「……それは嘘だろう」
男は私の言葉を偽りだと言い放った。
確かに疑われる要素は多く存在する。
最初に放った一撃はこのパーティがまだ全快している時であったため、そのときに全てのオークに攻撃していればこの三人が怪我を負う必要は無かった。
遠距離攻撃で狙い辛かったから、といえばこの疑いは晴れるであろうがまだ他にもある。
この女性が投げられる際にオークを撃ち抜けた。
何故ならその時オークは全意識を女性に集中させていたため、完全な隙があったと考えていいからである。
「まあ、別にどう思ってもらっても構いませんけど。今は私に構うよりそこの人を街に連れて行ったほうがいいんじゃないですか?」
私は気絶している男を指差して言った。
男の細かい状態は分からないが、HPが減って危険な状態だということは気絶しているところから分かる。
「そうだな……悪いが、街まで運ぶのを手伝ってくれないか?」
「私が手伝うメリットが無いと思うんですけど?それに私の事を疑ってるんですよね?」
疑っている相手に力を借りる意味が私には理解できない。
下手したらプレイヤーキルされる可能性も捨てきれない。
なにより、私にメリットが無い以上手伝う行為は危険でしかない。
「……さっきは疑って悪かった。シエラも俺も動けないことは無いが、人を抱えながら歩けるほどの体力が残ってないんだ」
「悪いけど……他を……?」
先程まで天高く上っていた太陽が急激に沈んでいく。
本来なら日が沈むまで数時間もあったはずなのに、有無を言わす事無く辺りが夜へと塗り変わっていった。
次に聞こえるのは鳥が羽ばたく音と、一歩、一歩と近付いてくる足音。
その足音が聞こえる方からは疑いようの無いほどの殺気を感じ取れた。
それが誰なのかは分からない。
だが、確実に此処に居る私達を殺すべくして近付いてきていた。
そして次の瞬間、片方の耳に肉が飛び散る不快な音が入ってくる。
男の頭が潰れ、身体が糸を無くした人形のように崩れ落ちていく。
赤い鮮血が私の顔を、体を、辺りを、染めていった。
「嘘……」
力無くした女性はその場にへたり込み、男の体を見て後ずさりする。
どういうこと……?
私も状況が全く理解できていなかった。
謎の力によって男が殺されたのは分かるが、何故消滅して街に戻らない?
ラスリアでは死亡した場合、武器スキルのレベルが下がる代わりに街へと強制的に帰還させられる。
なのに男は帰還される事無く、その場に転がったまま。
バグ……だとしたら相当タチが悪いバグだ。
それに今の攻撃は全く見えていなかった。
私はラスリアでは銃弾も見切れるほど動体視力が上がっている。
それなのに見えないということは対峙したら確実にやられる。
「返して……!返してよ!」
叫んだ女性の目は怒りに染まっていた。
激昂と同時に女性は魔法を足元が聞こえた方に放つ。
怒りに任せた攻撃は激しく、荒々しい。
見えもしない敵に魔法を放つ行為は自らを攻撃しろと言っている様な物だ。
その目論見通り、私たちの目の前に黒いローブを纏った人型が瞬間移動してきた。
テレポートではなく、移動。
黒いローブの移動により生まれた風が辺りの木々を揺らす。
その刹那、黒いローブの人型は拳の弾幕を雨のごとく、凄まじい威力を乗せて叩き込む。
繰り出された拳の速度は人の目で追えるような代物ではなかった。
私には辛うじてその攻撃を見切ることが出来たが、次元の違う猛攻により女性の身体は原型をとどめる事無く、文字通り砕け散った。
恐らくこの人型が使っているのは素手のスキル。
強化と加速がされているのは分かったが、それだけではない。
一撃一撃にありとあらゆる拳法と技術が込められていた。
モンスターが武器スキルを使うなど聞いた事が無かった。
だとすればこのローブはプレイヤー……?
馬鹿な、有り得ない。
このゲームには限界速度と言う物が存在する。
移動速度を上げる方法はいくらでもあるが、あそこまでの速度は通常出せない。
それにあの男の攻撃によって倒された場合、町に戻る事無くその場で死んでいる。
考えられる要因は一つしかない。
コイツがゲームのプログラムを改ざんして、所謂チート状態であるということ。
チートが使えれば限界も何も無い。
体の構造、体力、防御力、当たり判定、その他諸々全てを覆すことが出来る。
間違いなく私は圧倒的不利な状況に立たされていた。
「くッ……!」
私は咄嗟にアンドロイドファイアをほぼ零距離で撃ち込んだ。
しかし奴は棒立ちのまま回避する所か手足すら動かさずに私の攻撃を、弾いた。
物理攻撃を弾くスキルは杖の最上位スキルに存在するリフレクトというスキル以外は存在しない。
それを奴は杖無しで使った。
つまり奴が通常プレイヤーでは無いと言う事が完全に証明された。
「なんだ、その程度か?」
奴は次の攻撃を待つかのようにその場に立っている。
武器も持たずにただ立っているだけというのに私は攻撃を躊躇した。
「甘く見るな!」
私はスナイパーライフルのスキル『ペネトレイトショット』を使用した。
アンドロイドファイアから放たれた重厚な弾丸は奴目掛けて一直線に飛んでいく。
このスキルによって放たれた弾丸はどんな敵をも貫通するという最上級スキル。
「所詮その程度か、つまらんな」
「がはッ……!」
私の弾丸が当たる直前、正面から神速の拳が私の鳩尾を撃ち抜いた。
反撃を予測していなかった私の体はいとも簡単に吹き飛ばされ、後方にある木に凄まじい威力で叩きつけられた。
四肢がばらばらになってもおかしくないほどの衝撃は、私のHPを大幅に持っていった。
それだけではない。
正確には奴の攻撃は一撃ではなかった。
吹き飛ばされる直前に目に見えない速度でもう一発私に叩き込んでいたのである。
今残っているHPが無くなればどうなるか。
目の前に転がるプレイヤーの死体を見て私は震え上がった。
死んでもすぐに復活できる。
そんなことを考えていた私は何処へ行ったのだろうか。
常軌を外れた自体に私の思考は現状に追いつけていなかった。
今のダメージが大分体に堪えたのか身体が全く動かない、言葉も出ない、そして視界も薄らと眩んでいる。
そして奴は今までとは違い、倒れている私へ向けて拳を構えた。
あれは、確実に殺そうとしている。
眩んでいてはっきりとした事は分からないが、これまでの出来事から察することは容易だった。
喰らえば私は確実に四肢が砕け散り、死ぬだろう。
ゲームで?
これはゲームなのに?
私は死ぬの?
どうするべきか、逃げることは出来ない。
それなら残された選択肢はここからログアウトすると言う選択。
本来モンスターと戦闘中の場合はログアウトは出来ない仕様になっているが、奴がプレイヤーだとすればログアウトは可能であるはず。
私は咄嗟にメニューを開き、ログアウトを押した。
ログアウト完了まで10秒。
奴は構えを崩す事無く私に近付いてくる。
9秒。
このままではログアウトする前に殺される……!
8秒。
私は痛む身体に鞭を打ってアンドロイドファイアを構えた。
7秒。
そして引き金を引いた。
6秒。
的確に放たれた弾丸は奴の頭目掛けて射出される。
5秒。
奴は構えを解く事無くまたリフレクトを使用して私の弾丸を弾いた。
4秒。
奴が神速の拳を私へと放つ。
3秒。
その一撃は私に当たる事無く、背後の木へ直撃した。
2秒。
「これから楽しませておうじゃないか」
奴はローブのしたから気味の悪い笑みを浮かべながら言った。
1秒。
その表情に私は恐怖し、動けなくなってしまった。
0秒。
-ログアウトに成功しました-
ここまで見て下さった方ありがとうございます。
また次回もご覧ください。