日本国防衛省・自衛隊 予算 平成27年度 概算要求
先日、平成27年度の防衛省・自衛隊の予算の概算要求が発表されました。以下は私が資料を纏め、最後に私見を述べた物です。
取得数等詳しく知りたい方はPDFですが防衛省のページに掲載されていますのでご覧下さい。
防衛省及び自衛隊
・部隊
・実戦的なサイバー演習環境の整備
・ネットワーク監視器材の整備
・市ヶ谷庁舎被災時の代替機能の整備
・情報本部に人的情報収集に係る調査研究を実施するための体制を整備
・調査及び研究
・国内において戦闘機関連技術の蓄積・高度化を図るための実証研究
・陸海空自衛隊のリアルタイムによる目標情報等の共有に関する調査研究
・大型艦艇及び島嶼上の脅威に対処する誘導弾用弾頭技術
・BMD用能力向上型迎撃ミサイル(SM-3BlockⅡA)の日米共同開発を継続
・衛星通信システムの通信妨害対策に関する研究
・宇宙空間での2波長赤外線センサの実証研究
・宇宙監視システムの能力具体化に関する調査研究
・宇宙を利用したC4ISRの機能強化の為の調査研究
・サイバー空間の利用を妨げる能力に関する調査研究
・統合型地理空間データ基盤(統合型GDI)の実現に向けた調査研究
・艦載電磁加速砲の基礎技術の研究
・高高度の高速脅威に対処する技術の研究
・高機動パワードスーツの研究
・訓練
・自衛隊統合演習
・自衛隊統合防災演習
・離島統合防災訓練
・在外邦人等輸送訓練
・日米共同統合防災訓練
・サイバーディフェンス連携協議会との共同訓練
・ドーンブリッツ、コブラゴールド、カーンクエスト
陸上自衛隊
・取得及び調達
・ティルトローター機
・水陸両用車
・11式短距離地対空誘導弾
・03式中距離地対空誘導弾、
・中距離多目的誘導弾
・84mm無反動砲(B)
・81mm迫撃砲L16
・120mm迫撃砲RT、
・99式自走155mm榴弾砲
・10式戦車
・軽装甲機動車
・96式装輪装甲車
・NBC偵察車
・新除染セット
・化学剤検知器(改)
・各種線量率計
・NBC警報器
・個人用防護装備
・化学防護衣
・89式小銃
・対人狙撃銃、
・近距離照準用暗視装置
・防弾板
・07式機動支援橋
・双腕作業機
・部隊
・艦船や航空機の沿岸監視を担う与那国島に第303沿岸監視隊(仮称)を新編
・陸上総隊の新編準備
・水陸機動団、ティルトローター機、水陸両用車等の水陸両用作戦関連部隊の拠点及び関連施設整備
・南西警備部隊の配置等の配置に関連する奄美大島の用地取得等
・調査及び研究
・主に12式地対艦誘導弾システムへのリンク機能導入の調査研究
・野外指揮・通信システム一体化の研究
・新多用途ヘリコプターの共同開発
・CH-47Jの総飛行時間及び航続距離の延長
・米海兵隊との戦術・戦闘及び相互連携要領を訓練する為アイアン・フィストに参加
海上自衛隊
・取得
・P-1哨戒機、SH-60K哨戒ヘリコプター、イージス・システム搭載護衛艦、そうりゅう潜水艦
・調査及び研究
・新たな哨戒ヘリコプターの開発
・新たな護衛艦の建造に向けた調査研究
・艦載型無人航空機の調査
・新たな護衛艦用レーダーシステムの研究
・多機能艦艇について検討するための海外調査
・改修
・P-3C哨戒機の能力向上及び機齢延伸
・はつゆき型、あさぎり型、あぶくま型、はたかぜ型、こんごう型護衛艦、おやしお型潜水艦、
とわだ型補給艦、エアクッション艇の艦齢延伸
・あたご型護衛艦のBMD艦化改修
・あきづき型護衛艦及びあたご型護衛艦の対潜能力、たなかみ型護衛艦の短SAMシステム、
おおすみ型輸送艦の輸送能力の向上
・海上作戦センターの整備
・民間海上輸送力の活用に係るPFI事業
航空自衛隊
・取得
・新たな早期警戒(管制)機
・滞空型無人機
・F-35A戦闘機
・UH-60J救難ヘリコプター
・軽装甲機動車
・基地防空用地対空誘導弾
・対空戦闘指揮統制システム
・改修
・E-767早期警戒管制機の能力向上
・F-15J戦闘機の近代化改修
・F-2戦闘機の空対空戦闘能力向上及び自衛隊デジタル通信システムの搭載改修
・C-130H輸送機の空中給油機能付加
・那覇基地の戦闘機部隊2個飛行隊の配備に伴う第9航空団(仮称)の新編
・PAC-3部隊の市ヶ谷における展開基盤等の整備
今回の概算要求は色々と気になる物が多いと思います。P-1哨戒機を一気に20機も取得する事や新しい哨戒ヘリの開発や陸上総隊の新編等・・・中でも私が1番気になったのは新しい早期警戒(管制)機の取得とイージス・システム搭載護衛艦(DDG)の建造です。
ここから先は私個人の私見です。素人ですので間違った知識を書いているかもしれません。その場合は個別に指摘頂ければ対応します。
発表される前にとある雑誌を見まして、その中の記事の1つが現在青森の三沢と沖縄の那覇に配備されているE-2Cの後継候補についてでした。しっかり読み込んでいないのですが、今のところ候補はE-2Cのアップデート型であるE-2DとB737 AEW&Cーーオーストラリア空軍ではE-7Aーーの2つのようです。当然どちらも長所と短所があります。居住性と航続距離ではB-737AEW&Cが有利で、レーダーとアビオニクス、E-2Cの運用をする為の物の流用?ではE-2Dが有利であると。空自内でも様々な意見がある為まだどちらがという話までにはなっていないようです。新しい早期警戒(管制)機に共同交戦能力が対応されている機体が採用された場合、これは空自だけではなく海自も絡んできます。その理由がイージス艦の建造についてです。
海自は新たにあたご型の3・4番艦になると言われている2隻のイージス艦の建造を決定しています。今回の概算要求では“1隻の建造及び2隻目のイージス・システム等の調達”とあります。イージス艦とは米海軍が旧ソ連の飽和ミサイル攻撃に対処する為、艦隊防空を担う武器システムーーイージスシステムーーを搭載している艦という事はご存知の方が多いと思います。このイージスシステムは1983年にタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦の1番艦が就役して以来、改良され続けアメリカ以外に日本とスペインとノルウェーと韓国がイージス艦を就役させ、新たにオーストラリアも建造しています。この改良により生まれた多数のバージョンを“ベースライン”と呼び区別します。ベースラインは1~8が実用化され運用されてきました。現在、ベースライン9が研究中です。ここで重要なのはベースライン7以降のイージスシステムは上記の共同交戦能力に対応しているという事です。これに該当するのは米海軍のアーレイ・バーク級(41番艦以降)、スペイン海軍のアルバロ・デ・バサン級5隻、韓国海軍の世宗大王級3隻、そして海自のあたご型2隻です。これ以前の海自のイージス艦であるこんごう型のシステムも予算が承認されれば改良を進めています。今回の概算要求で新たに加わる2隻のイージスシステムはベースライン7以降の筈です。
共同交戦能力とはCooperative Engagement Capabilityの略称で米海軍が考えた戦闘コンセプトです。このコンセプトを実現する為のシステムがCETPSと総称される物で、AN/USG-2を艦船にAN/USG-3を航空機に搭載する物として称します。CETPSはDDSという今まで存在した戦術データリンクーー作戦行動に必要な情報等を伝達、配信、共有するシステムーー有名な物ではリンク11やリンク16等よりも大容量・高速のデータリンクと受け取った情報を処理するCEPという情報処理システムで構成されています。この技術は別段新しい物ではなく既にアメリカ軍では運用されている。
現在イージス艦が主に運用している艦対空ミサイルはスタンダードミサイルです。その中でも艦隊防空に用いるミサイルはSM-2と言われる物で、弾道ミサイル防衛の一翼を担い、ペトリオットPAC-3システムと同様に弾道ミサイル迎撃に用いるミサイルはSM-3と言われる物です。そしてSM-2の後継としてSM-6が開発され、低率量産を開始しています。このSM-6というミサイルは、中距離空対空ミサイルAIM-120 AMRAAMと同様の終端誘導装置を使用する事よりファイア・アンド・フォーゲットーー撃ち放しーーが可能となりました。ファイア・アンド・フォーゲットが可能となる利点はSM-2より複数の対空目標への同時対処が可能になる点とレーダーの視界外となる遠距離の目標に対しても対処が可能になる点です。しかし目標はこちらがミサイルを発射してからも動きます。そこで命中精度をより向上させる為、目標情報は逐一発射母艦からSM-6に送信されます。
ベースライン7以降のイージスシステムを搭載した複数のイージス艦や共同交戦能力が対応されている早期警戒機又は早期警戒管制機を同時に運用すればイージス艦のSPY-1レーダーが捕らえていない目標を発見・共有するだけでなく、ミサイルを発射したイージス艦とは別のイージス艦や早期警戒機から誘導し撃破する事が出来ます。これがベースライン9とSM-6を搭載したイージス艦ならばその対処能力は大きく増加すると思います。
これは7月に閣議決定した集団的自衛権に関係する事になると思います。私は集団的自衛権を次のように理解しています。AさんとBさんとCさんの3人が居て、AさんがBさんを殴った。AさんをBさんのことを殴り返した。これは個別的自衛権である。これに対し、AさんがBさんを殴ろうとしている手をCさんが受け止めて防ぐ、または殴られたBさんと一緒にCさんが殴り返す権利を持っているという事だと理解しました。
政府の集団的自衛権行使の事例の中には米国を狙った弾道ミサイルの迎撃や邦人輸送中の米海軍の艦艇の保護等がありますが、例えば海自のイージス艦と米軍の早期警戒機又は早期警戒管制機が連携して対処したり、その逆で航空自衛隊の早期警戒機又は早期警戒管制機と米海軍のイージス艦が連携する事はこれに該当すると思います。
防衛大学第1回卒業式で当時の吉田茂総理は有名な訓示をされました。
「君達は自衛隊在職中、決して国民から感謝されたり、歓迎されることなく自衛隊を終わるかもしれない。 きっと非難とか叱咤ばかりの一生かもしれない。御苦労だと思う。しかし、自衛隊が国民から歓迎されちやほやされる事態とは、外国から攻撃されて国家存亡の時とか、災害派遣の時とか、国民が困窮し国家が混乱に直面している時だけなのだ。言葉を換えれば、君達が日陰者である時のほうが、国民や日本は幸せなのだ。どうか、耐えてもらいたい。」
“自衛隊が必要だ”と言われるような事態が起きて欲しいと願う普通の人はいない筈です。私もその1人です。自衛隊は“抜かずの剣”であって欲しい。でも現実には難しいと思います。自然災害での災害派遣は過去数多くありました。それを抜きにしても昨今の日本を取り巻く安全保障環境は厳しい物になっていると思います。いつの日にか防衛出動が発令されるかもしれません。勿論、そのような事態にならないように様々な方々がそれぞれの分野で活躍しておられます。自衛隊は“いつ抜くか分からぬ剣”を、“一生抜かぬかもしれない剣”をいつまでも磨き続けなければなりません。それを怠れば、いざ有事の際に錆びて使えなくなってしまうからです。そして、その“錆び”の部分に当たると思う法整備が出来ていない点については早急に対応すべき点であると思います。