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直人

 最後に心に浮かぶのはやはり、地球のことと共通の幼馴染み藤森圭のことだった。


「また、圭ちゃんのお好み焼きが食いたいな」


 雄介がふとつぶやく。


「ああ。山芋いっぱいでふわふわのやつがいい」


 直人も調子を合わす。


 直人の恋人だったクリスはこの前の戦いで戦死している。


 雄介の胸がズキリと痛んだ。




「広島風は嫌だな」


 雄介が言った。


「野菜ばかりで具がないからな」


 直人が頷く。


「そうそう、あんなん頼んだら食った気がしないよ」


「まったくだ」


 雄介の心に圭の泣き顔が浮かぶ。


 あれほど気丈に見えた圭だったが、行かないで、と最後は泣き崩れた。


 そんな彼女に、必ず帰ってくるという言葉をかけてやれなかったのが、唯一の心残りだった。




「時間だ」


 直人は、物思いに沈んでいる雄介に最後の言葉をかけた。


 雄介は慌てて、スタンドウルフの操縦システムであるゴーグルとヘルメットをつけた。


 雄介のヘッドマウントディスプレイに長髪でいつもクールな直人の顔が映る。


 直人は不思議な笑みを浮かべていた。


 黒い瞳には悲しみと喜び、複雑な感情が見て取れた。



 そんな表情が見えたのも、一瞬のことだった。


 すぐにゴーグルによって直人の表情は見えなくなった。





「エンジン始動」


 通信傍受を防ぐための有線通信ケーブルを切り離すと、直人の機体はゆっくりと空間に溶け込むように消えていった。


 雄介の機体も特殊空間に侵入する。


 ダークグリーンの異次元空間が雄介の目の前に広がる。


 少し前に直人の漆黒の機体も見える。


 突然、雄介のヘッドマウントディスプレイが、ブラックアウトした。


 最初、機器の故障かと思った。


「直人………」


 雄介は何か云いかけたが、ディスプレイに流れ出した文字を見て、絶句した。





*******************************************************


 雄介、勝手に航行プログラムを変えさせてもらった。


 お前の機体は、俺が自爆するまで動作しないようにプログラミングしてある。


 死ぬのはひとりで充分だろう。


 俺が失敗したら、後は頼む。


 どちらにしても、クリスが待っているので。


 悪いな。


*******************************************************





 圭は星空を見上げた。


 今頃、直人と雄介は最後の戦いに臨んでいるはずだ。


 圭にできることは、祈ることだけだった。


 帰ってきたら、お好み焼きを焼いてあげよう。


 瞳を閉じて、両手を合わせて願いをかける。


 三人、それぞれの想いを乗せて星が流れる。


 星に願いを。


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