直人
最後に心に浮かぶのはやはり、地球のことと共通の幼馴染み藤森圭のことだった。
「また、圭ちゃんのお好み焼きが食いたいな」
雄介がふとつぶやく。
「ああ。山芋いっぱいでふわふわのやつがいい」
直人も調子を合わす。
直人の恋人だったクリスはこの前の戦いで戦死している。
雄介の胸がズキリと痛んだ。
「広島風は嫌だな」
雄介が言った。
「野菜ばかりで具がないからな」
直人が頷く。
「そうそう、あんなん頼んだら食った気がしないよ」
「まったくだ」
雄介の心に圭の泣き顔が浮かぶ。
あれほど気丈に見えた圭だったが、行かないで、と最後は泣き崩れた。
そんな彼女に、必ず帰ってくるという言葉をかけてやれなかったのが、唯一の心残りだった。
「時間だ」
直人は、物思いに沈んでいる雄介に最後の言葉をかけた。
雄介は慌てて、スタンドウルフの操縦システムであるゴーグルとヘルメットをつけた。
雄介のヘッドマウントディスプレイに長髪でいつもクールな直人の顔が映る。
直人は不思議な笑みを浮かべていた。
黒い瞳には悲しみと喜び、複雑な感情が見て取れた。
そんな表情が見えたのも、一瞬のことだった。
すぐにゴーグルによって直人の表情は見えなくなった。
「エンジン始動」
通信傍受を防ぐための有線通信ケーブルを切り離すと、直人の機体はゆっくりと空間に溶け込むように消えていった。
雄介の機体も特殊空間に侵入する。
ダークグリーンの異次元空間が雄介の目の前に広がる。
少し前に直人の漆黒の機体も見える。
突然、雄介のヘッドマウントディスプレイが、ブラックアウトした。
最初、機器の故障かと思った。
「直人………」
雄介は何か云いかけたが、ディスプレイに流れ出した文字を見て、絶句した。
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雄介、勝手に航行プログラムを変えさせてもらった。
お前の機体は、俺が自爆するまで動作しないようにプログラミングしてある。
死ぬのはひとりで充分だろう。
俺が失敗したら、後は頼む。
どちらにしても、クリスが待っているので。
悪いな。
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圭は星空を見上げた。
今頃、直人と雄介は最後の戦いに臨んでいるはずだ。
圭にできることは、祈ることだけだった。
帰ってきたら、お好み焼きを焼いてあげよう。
瞳を閉じて、両手を合わせて願いをかける。
三人、それぞれの想いを乗せて星が流れる。
星に願いを。