プロローグ(橘カツキ)
人はみな、なにか役割を持って生まれてくるのだと、どっかの大層えらい人が言っていたような気がする。
べつに偉くなくても、そこら辺で酒にかまけて大暴れしながら、肩を貸してくれるいたいけな後輩サラリーに迷惑をかけているオヤジが喚き散らしていただけだとしても、まあいいさ。
大して人生を積み上げてきたわけでもない若造の塾教師がとうとうと語り聞かせようとして、でも威厳が無いから失敗していたってだけでも、べつにいい。
とにかくそういう標語なり教訓なり、まるで人生に諦めを付けた人間に対しての励ましのような――あるいはむしろ憐憫のような――言葉があることを、おれは知っている。
でも。とおれは思うわけだ。
そんなもんは嘘っぱちだって。
ヒエラルキーの最下層の人間をなぐさめて、なぐさめたことでまるで自分がそいつより上にいるんじゃないかと錯覚させたいがためのような都合のいい言葉に過ぎないって。
人は役割を持って生まれてくるんじゃない。そんなわけない。
人は役割を演じて生きていくだけだ。ただそれだけだ。
神サマはあまねく人類すべてを愛していて、どんな奴にも必ず一つは長所があるって?
天は人の上に人を作らず。だって?
そもそもその有名なコトバ……大事な末尾が途切れたまま現在まで謳われ続けちゃってるしな。
本当は、『天は人の上に人を造らず。人の下に人を造らず。――されども』って続いて、現実には人間世界では貧富の差があるし、バカもいれば天才ってよばれるやつもいる。
じゃあどうしてそんな理不尽が横行しちまうのか考えてみたら、結局は学んだ奴と学ばなかった奴の差なんじゃないか、って言って、自分の説を説得力あるモンにしたかっただけのユキチさんの方便なわけだ。
今の世をみたらユキチさん、怒るだろうなぁ。
「解せぬ」って言って。
とにかく、おれがなにを言いたいのかというと、つまり人生はRPGだ。
ロールプレイングゲームなんだよ。つまるところ。
この地球には六十億――もうすぐ七十億になるんだっけ。もうなったんだけ。――ものNPCがうぞうぞと蠢いていて、“人間社会”っつーRPGゲームを内側から操作してる気になってるに過ぎないのさ。
ホントは人間なんてゲームのバグが間違って繁殖しちまった結果かもしれないし、
ホントは画面の向こうに、宇宙の闇の向こうに、よだれ垂らしてコントローラーを握ってるガキのプレイヤーがいるのかもしれない……。
なーーーんて、まるで見当違いな哲学論でも披露してみたりして。
ンなこと、結局のところはおれらにわかるわけもねえ。
高二にもなってこんな中二臭いガキガキしてること考えてるって思われたら確実にバカにされるから言わないだけ。だから思ってるだけなんだけどな。
でも。
でも、だ。
万が一、いやさ億が一にでもそんな可能性があったとしたら、そこには確かに救いがあるような気がするんだ。
おれらはみんなカミサマって奴の言いなりの、操り人形だって。
だってそう考えたらさ、楽じゃん。
どんな結果になっても、どんな結末になっても、その責任をぜーんぶカミサマに擦り付ければそれで済む話なんだから。
今度はもうちっとマシな役割を与えてくださいよー。
今回みたいにわけ分からん理由で、わけ分からん死に方をするような人生はもうこりごりですからねー、って、進言することができるんだから。
頼みを聞いてくれるかどうかはともかくとして、もしかしたら鼻くそほじりながらでも少しは次の采配を考え直してくれるかもしれない。
話が脱線したかな。
まあいいか。これはおれの独白だし。
以上の理由から、おれはどうしても、そういう風に考えたいんだ。
この世界に輪廻転生とかいうコンテニュー機能がついていることを。
デスルーラでもなんでもいいけど、形はどうあれやり直す機会が与えられることを。
なんでさって?
そりゃあ、いま、おれが衝突事故を起こして絶賛“宙を回り”中だからさ。
まったく、長い走馬灯の割には過去のくだらねえこととか、親きょうだい、友達のこととか、全然、一切、金輪際脳裏を駆け巡らないもんだよな。
聞いてたのと違うよな。
まさかこんなにも長々と在って欲しい仮定の空想を繰り広げるだけになるとは。
いかん。
もうすぐ後頭部が地面につく。
こんなことなら姉ちゃんの言うこときいて、ちゃんとヘルメットしときゃあ良かったかな。
跳ね飛ばされた勢いがけっこう凄まじかったし、多分コンクリに打ち付けられた瞬間にまるで擦りリンゴみてえに頭蓋骨が摩り下ろされるんだろうな。
ああ。
第一発見者が不憫だぜ。
いや、そんなことよりも、おれの無残な亡骸を家族が直接目にしないでくれたら、それが一番ありがてえかな。
姉ちゃんの泣き顔も、母さんの泣き顔も、正直見るに耐えねえし。
あー。そうだな。
どうせなら、一つ祈らせてもらえるとしたらそれは、
荒唐無稽な輪廻転生でも、ましてRPGでもなくって、
カミサマに祈るなら……そっちの方を祈ろうかな。




