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朝陽と骸骨  作者: 山藍摺
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朝陽とアマチカ山



 塞の河原より上流へ向かうことしばらく。

 小鬼が操る船は、ぎぃっと低い音をたてて、大小様々な小石で埋め尽くされた河岸へ到着した。

 遡上する船の上空にて繰り広げられた老婆と鬼の大群の戦いの顛末は、それから目を覚ました朝陽に告げられた。

 ――鬼の大群の襲来は、朝陽に「自身が狙われる立場にあること」を否でも応でも実感させた。

 あれから、もう一度襲来があった。一度目と同じように、老婆が危なげなくあっという間に倒してしまった。

 その戦いの後、目的地であるアマチカ山に辿り着いた朝陽と老婆は、船に残る小鬼に見送られ、砂利に覆われた山道を歩いていく。

 岩肌の高い山のてっぺんの先は、灰色の雲間に埋もれるようにして見えない。その岩肌の山を、ふたりは歩いていく。

 軽やかな足取りの老婆と違い、朝陽はぜぇはぁと息を乱しながらも、その足取りは不思議と疲れが少なかった。また、登るにつれて、疲れがとれていくような気がするのだ。

 老婆いわく、霊力が強いものは山の頂に近づくにつれてその影響を受けるのだという。アマチカ山は霊山であり、地獄の中でも聖なる気配が濃い場所なのだという。霊気が頂に近くなる――天に近くなると濃くなるゆえに、霊力が強いものは影響をうける。

 道中、ふたりは無言に近かった。登るにつれ体力が回復していくとはいっても、朝陽にとっては慣れないどころか、人生初の本格的な登山なのだ。慣れない運動に弾む息で、思うように口を動かせないのだ。

 そんな朝陽は、道中ずっと考えていた。

 朝陽は、前を歩く老婆の背を見た。

 過去、朝陽と同じく次代の母であったという老婆。老婆は自分を守ることができる強さを持っていた。

 老婆が戦う姿を見て、朝陽は感じたのだ。自分は守られるだけだ、と。老婆の圧倒的な強さを見て、気づいてしまった。気づかされてしまった。

 朝陽には、特別に他者より秀でている部分はない。老婆のような卓越した戦いの技術も、老婆のようなも怪力のような力も持ち得ていない。

 きっと、これから先も持ち得ないだろう。朝陽の逝去した両親も、朝陽をたらい回しにした親戚も、朝陽を引き取った母方の叔父でさえ、みんなみんな、不思議な力を持っていないのだから。

 朝陽は自然と下腹部を撫でた。

 そんな強くも特別でもない朝陽は、次代の母に選ばれた。老婆いわく、次代の魂が次代の母を選ぶのだと。

 強くも特別でもない朝陽を母を選んだ、次代の魂。

 朝陽は、もう一度下腹部を撫でた。

 守られるだけの、霊力だけが強くて、自身で守る術を持たない朝陽。

 でも、だからこそ。

 自身を守る術を持たないからこそ、朝陽はかけがえのないこの気持ちを感じることができた。

 骸骨――ラギへの気持ち。

 朝陽は、幼い頃からいたラギを好いている。

 朝陽は、顔をあげて、上を見た。

 アマチカ山は、朝陽が人間ではないラギと結ばれる可能性を持つ「特殊な水」がある。

 まだ、この気持ちも伝えてはいないけれど。

 朝陽は、再び下腹部を撫でた。いつかはこの場所に宿ることを選んでくれたという次代の魂のためにも、水を手に入れて想いを伝えようと、朝陽は足に更に強く力を込めて前へと歩を進めた。

 目指すは、山の頂。

 朝陽の目は決意に満ちて強く輝いていた。

 ――甘露、醍醐、アムリタと呼ばれる、天から降るもの、特殊な水を求めて。


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