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朝陽と骸骨  作者: 山藍摺
12/33

塞の河原にて


 ――灰色の世界で、朝陽は声にならない叫びをあげ、かたまった。

 そんな朝陽の顔には、「何で!?」とはっきり書かれている。何で目の前の小鬼の口からラギ――セラがいっていたラギの名前が出てくるのか。


「ねえちゃん……柊の旦那のコレ?」


 小鬼は首をかしげながら、ぴんっと小指をたてた。尖った鋭利な小刀のような小指を立て、コレ? と朝陽に問うた。


「……ぅえ?、えええっ?!」


 小鬼と同じように首をかしげ、小指を立ててのコレの意味に? だった朝陽は、しばらくして悲鳴をあげた。小指を立てての意味がわかってしまった朝陽の顔は、瞬時に真っ赤になり、今にも湯気が立ち上りそうなほどだった。


「〆△→→∪゛ヾ‐/“/\っ!」


 しばらく言葉にならない言葉を発しながら、両腕をぐりんぐりん回し始めた朝陽に、小鬼は無言で、どこからともなく座布団を差し出した。朝陽は素早い動作で座布団を手にし、座布団をべしべしと叩き始めた。

 しばらくの間、小鬼は朝陽が落ち着くまで彼女を見守ったのだった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「……落ち着いたかぃ?」


 小鬼の問いかけに、どうにか落ち着いた朝陽は頷いた。朝陽は穴があったら入ってしばらく転げ回りたい心境だった。


「…………なんとか………」


 穴がなかったら掘ったらどうだろう――少し混乱が残っている朝陽は、頭の隅っこて考えつつ、そろっと顔をあげた。

 そして朝陽はまだ火照る顔で、会話を再開するために口を開いた。


「さいのかわらって、どこですか……?」


 朱色の小柄な鬼は、朝陽の先ほどの「ここはどこですか」の問いに「さいのかわら」と答えた。朝陽には、「さいのかわら」がどのような字を当てるかもわからないし、想像もできない。


「えー……っと、そっからかぃ……うーん、と」


 鋭い爪で頬をポリポリかきながら、小柄な鬼は大きな目の視線を泳がせた。


「嬢ちゃん、地獄ってェ信じるけぃ?」


 朝陽は首をかしげて連想し始めた。

 ――ジゴク、じごく、自極、次国、地獄。


「地獄………」


 ――地獄、あの世、閻魔大王、舌を抜かれる。


「舌は抜かないでー!」

「……嬢ちゃん、舌は抜かれねぇから」


 その後、朝陽は連想による頓珍漢な会話を挟みつつ、いま自身がいる場所をようやく把握した。

 ――次代の母とは何かを問えば、朱色童子に落とされたここは、地獄の入り口・塞の河原。彼岸(地獄)と此岸(現世)の境目であり、小鬼を始め閻魔大王の元で働くものたちがいる場所。そして、此岸から彼岸へ渡るものたちが通る場所。

 そんな場所で、朝陽は小鬼に保護されたというわけだった。朝陽は本来ここにいてはならない生きている命であり、ここにとっては異物。塞の河原にも、朝陽にもどんな影響があるかわからないため、はやくこの場所から離れて此岸へ戻った方がいいという。


「てっきり、ラギの旦那の匂いをまとってたからなァ……ラギの旦那に会いに来たコレかと思っちまった」


 再びのコレ発言に固まった朝陽に、小鬼はいう。どうやらコレ発言に悪意というか、悪戯心は込められていないらしかった。本当に心からそう思い、残念がっている。


「……恋人じゃねぇかったンだなァ……、ラギの旦那の想い人で守る対象なんだな」


 ――固まっていた朝陽はその言葉に解凍した。

 いま、何といった? いま、何といった?


「見たとこ、たげぇに想いつつ想われつつの両想いじゃねぇの。腹ぐれェ上官もいるこった……嬢ちゃん、確か次代サマのオフクロだろ? 柊の旦那が次代の母についてたって最近知ってなァ……」


 小鬼はいう。最近柊が……ラギがこちらへ戻った際に、朱色童子との会話を聞いたのだと。

 朝陽はさらに小鬼の言葉に敏感に反応した。

 ――いま、さらに何といった?

 朝陽の思い過ごしだろうか、聞き間違いだろうか。凄く朝陽が元気になりそうな言葉が、小鬼の口からでてきたような。


「なら、腹ぐれェ上官に対処できるヤツがいたらいいんだよなァ………?」


 小鬼は、実に「鬼らしく」笑ってみせた。


「次代サマのオフクロの先代に会わせてやるサ、ナァに、すぐそこにいらぁ」


 ――脱衣婆、と小鬼は呟いた。


「あぁン? 誰だい、ワシを呼んだのは。ワシは忙しいんだよ。六文銭も持たずに渡ってきなすった輩の服を剥ぎ取るのにねぇ!」


 朝陽は開いた口がふさがらなかった。

 一瞬生暖かな風が吹き付けたと思えば、そこには……長い灰色の髪を背にたらし、頭部を手拭いで覆い、首からじゃらじゃらと銭ね首飾りを垂らした老婆がいたのだから。


「ァ? ……柊の坊主臭いね、あんた! オンヤァ?」


 ねっとりした黄ばんだ瞳で、老婆は朝陽を見て、欠けた歯を見せて高らかに笑ってみせた。


「あんた! 次代の母かぃ、うちの息子も年を取ったもんだね!」


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