西銀河物語 第2巻 アメイジングロード 第一章 航宙試験 (6)
第一章 航宙試験
(六)
アルテミス9を出航してから一日が経ち、恒星を公転している惑星からの軌道も遠く離れた宙域に「第三二一広域調査派遣艦隊」は来ていた。
今回、航宙試験の為、同行している「航宙機開発センター」の開発課長シゲル・タナベ少佐とカクジ・ナカニシ大佐及び「航宙艦開発センター」の開発課長トオル・カジヤマ少佐とナオコ・ミネギシ大佐は、旗艦アルテミッツの司令階映し出された映像の中で今回の艦隊による航宙試験の最終説明を行っていた。
「「航宙空母ライン」より発艦したカワイ大佐は、母艦より二万キロメートル離れた段階で同時に発艦した無人戦闘機とシンクロして頂きます。シンクロモードによる飛行を行った後、三万キロメートル離れた摸擬駆逐艦に対して「デルタフォーメーション」のまま、荷電粒子砲の攻撃を行います。以上が、新型機「アトラス」の宇宙空間によるシンクロテストです」説明が終わるとタナベ開発課長は、ヘンダーソン総司令官の顔を見た。
「テストの概要は、分かった。すぐに始めてくれ」
航宙戦隊旗艦の「航宙空母ライン」の発艦ゲートでは、カワイ大佐が発信の為の最後の確認を行っていた。
「こちらカワイ大佐搭乗機、「レイサ」発進準備完了」
「発着管制官よりカワイ大佐へ。同期発進の二機の発進準備完了。航路クリア。エアロック解除します」聞きなれた声が、カワイ大佐のヘルメットと一体となっているヘッドセットから流れた。
カワイが搭乗する「レイサ」の周りをドームが覆い、エアロックが解除された信号が点灯した。
「エアロック解除確認。カワイ大佐、レイサ発進します」
ランチャーロックが解除され、慣れているとはいえ、強烈なダウンフォースを感じながらカワイは宇宙空間に躍り出た。すぐに目の前のパネルがオールグリーンである事を確認すると、同時に発進した無人戦闘機を確認した。全て正常であることを計器が示している。
「すごい」カワイは、「スパルタカス」と違い、「オールビューモード」の視界は、自分が宇宙空間を飛んでいるかのような錯覚になるこの新型機を気に入っていた。
「旗艦ライン、こちら「レイサ」これからテスト宙域に向かいます」
「こちら、「ライン」了解しました」
カワイは、最高速度の速度の半分に落として、同期されている無人機の様子を見た。「レイサ」に標準体形で後続している。
「すごい。全くぶれがない。これがシンクロモードの航法管制機能か」自分の航宙にぴったり付いてくる無人機に感心していた。「全て上手くいくようになったら、名前でも付けるか」無人機といえども無神経ではなく、人間の言葉を理解する機能やカワイの操縦をトレースする機能が付いている。
「ちょっとやってみるか」テスト宙域まで距離があるのでカワイは、自分の行動神経を上昇に変えた。更に直進した後、左側に上昇し、壁をつくるように右へ降下した。いわゆるスロースクロールである。何も指示しない急な進路変更なので付いてくるかと思ったが、後ろを見るとカワイは絶句した。まったく「レイサ」との距離が変わっていない。
信じられない面持ちでカワイは、
「UF1、UF2、すばらしいぞ」と言うと同時に「トレースしているだけです」とそっけない返答があった。カワイは「こいつらに少しは感情がないのか」と思いつつ、テスト宙域に向かった。
テスト宙域に近づくとヘッドセットから「カワイ大佐、シンクロモードにして「デルタフォーメーション」にしろ」聞きなれた男の声がすると「了解」と言って、ヘッドアップディプレイの「DM」と映されているパネルにタッチした。
「レイサ」と「UF1」、「UF2」の両弦に有った「片弦八〇センチ二門の荷電粒子砲」が横から機体の下に回り込んだ。ほんの数秒のことである。と同時に「UF1」と「UF2」が「レイサ」の下に来たと思うとそれぞれの機体の腹で三角形を作り始めた。距離は五〇メートルでもないだろう。さすがにカワイは「えっ」と思ったが、ターゲット補足マークが点滅している。
すぐに視線をヘッドアップディスプレイに映るターゲットに合わせた。後は一瞬の出来事であった。一機四門の荷電粒子の束が、三機まとまって五〇メートルの幅で収束しながら三万キロメートル先に有る摸擬駆逐艦に向かった。
その時間、〇.二秒。人間の意志では到底行えないことが、攻撃制御コンピュータが瞬時に行ったのである。
摸擬駆逐艦に荷電粒子の束が到達した瞬間、まばゆい光が広がり、数秒後、全長二五〇メートル、全幅三〇メートル、全高五〇メートルの摸擬駆逐艦の中心部に修復しがたい大穴があいていた。
収束された五〇メートルの荷電粒子は、摸擬駆逐艦のシールドを簡単に破り、少しも衰えないエネルギーは、駆逐艦の外壁を溶かし反対側の外壁も破り抜けたのである。
実戦であれば、瞬時に、戦闘及び航宙が不可能になり撃沈という判定が下される。摸擬駆逐艦でなければ乗組員数百人は、痛みも感じる暇がないうちに消滅しただろう。
既に駆逐艦から一万キロメートルまで迫っていた「レイサ」と他に二機は上昇に転じ衝突を回避した。
「信じられない。重巡航艦並みの破壊力だ」この映像を見ていた、ヘンダーソン中将をはじめとする参謀及び関係スタッフは、息をのんだ。
やっとの声でこう言ったアッテンボロー主席参謀は、自慢たっぷりな顔をしている「航宙機開発センター」の二人に「これからこれが主力になって行くのか」と聞いた。タナベ開発課長は、
「残念ながら、今回は開発途中です。有人用「アトラス」は、量産体制にもって行けますが、今回使用した無人機は、カワイ大佐と「レイサ」用に特別に仕上げたものです。
これを汎用型にもっていくには、まだ研究が必要です。カワイ大佐の卓越した能力がなければとても今回のテストは成功しませんでした」ここまで言うと今度はナカニシ開発部長が、
「FC38の開発試験中にカワイ大佐の技量を知り、カワイ大佐であれば、我々の長年の夢であった、「シンクロモードによる無人機の制御」が可能であると思い、アティカ・ユール准将の同意を得てカワイ大佐にテストをして頂いた次第です。これが可能になれば、「アトラス」のパイロットは「スパルタカス」の三分の一で済みます。パイロットの養成には長い時間と大変なお金が掛ります。それを思えばこその開発です」これも自慢そうに言うナカニシ開発部長にヘンダーソンは、
「話は解った。パイロットへの負担はどの位だ。あのシンクロモードによる飛行と従来機では考えられない機動性。肉体的、精神的な負担がかなり大きいと思うが」そう言うと開発部長は、少し真顔になって
「ですから、今回はカワイ大佐専用になったのです。他のパイロットもカワイ大佐と同レベルであれば良いが、そうはいきませんので、これから、ミドルレベルの操縦能力を持つパイロットでもシンクロできるように研究開発が必要です。今回のこのテストは十分な結果を出せましたので、改めて艦制本部に予算を申請するつもりです」
「やはりそこか」そう思いながらヘンダーソンは、目にモノを感じさせながらナカニシ開発部長の顔を見た。ナカニシは、一瞬戸惑ったが、「これで新型機のテストを終了します。「レイサ」と無人機を回収します」と言った。
航宙空母ラインでは、近くまで戻ってきているカワイ大佐に
「着艦準備完了。「レイサ」着艦どうぞ」聞きなれた声にカワイは、
「レイサ了解、「UF1」、「UF2」共に同時着艦する」そう言うとカワイは、「レイサ」と無人機二機をラインの下・・航宙母艦の大きな逆U字になっている格納エリアに誘導した。 後は誘導ビームが行ってくれる。「レイサ」と無人機二機は同時にラインから出てきた「ハンガーアーム」につかまれると、「すーっ」と白いドーム・・アトラスの格納庫・・に吸い込まれた。
やがて、ランチャーロックの音がして、ドームの底が閉まると
「ランチャーロックオン、エアーロックオン。カワイ大佐お疲れ様」聞きなれた声にカワイは
「ふーっ」と声を出すとドームが両側に開き整備員が取り付いた。「レイサ」のハッチを外側から開けると
「カワイ大佐。お疲れ様でした。整備準備室の「スクリーン」で見ていました。感動しました。カワイ大佐の機を整備出来て光栄です」興奮冷めやらぬ整備員に「ありがとう」と一言言うと「レイサ」を降りた。
近くに着艦している「UF1」と「UF2」に「ご苦労様」と言うと「どうしたしましてカワイ大佐」と帰って来た。「えっ」と声を出すと無人機は、「我々は、エネルギーオンの状態では常に意識があります。カワイ大佐のヘッドセットから今のように声をかけてくれれば、いつでもカワイ大佐と意志の疎通が出来ます。カワイ大佐、身体機能に軽い疲労のモードがあります。少しお休みください」カワイは、またまた「えーっ」と今度は大きな声を出した。頭の中で「こりゃヘッドセットをかぶったら注意しなければ」と考えていると「そうです。カワイ大佐の脳神経シナプスは我々の神経コンピュータとリンクしています」
それを聞いたカワイは、「うぉーっ」と思ってヘッドセットを外し、モードをオフにした。
一瞬「UF1」のパネルの一部がグリーンからブルーに変わった事をカワイは気付かなかった。・・実はカワイ大佐の来ているパイロットスーツは、体液の流れと体の変化を「運動ニューロン」と認識し、これを無人機とシンクロさせていた。これにより「レイサ」を操縦するカワイ大佐の体の全てが無人機に搭乗しているのと同じ状態になる。また万一、カワイ大佐が意識を失った時でも、航宙母艦に戻れるようにプログラムされていた。ここまでは説明を受けていなかったようだが・・・