とある教師の悩み (兄 九歳 / 妹 五歳)
――今日は夏休み中に設定された全校登校日。
うだるような暑さの中、学校へ登校させられた生徒は口ぐちに不平不満を述べながら、久々に会う級友たちと楽しそうに語らいあっていた。
下校時刻を過ぎた後も教室に居残っていた生徒に声をかけ、昇降口まで見送る。
走って帰ってゆく子供たちが途中で立ち止まり、振り返って手を振った。
仕方なくこちらも手を振ってやる。
「「「先生ー、またねー!」」」
「おぅ、気をつけて帰れよ」
返す声は、我ながらくたびれ切っていた。
懐いてくれる生徒は可愛いが、如何せん子供の体力にはついていけない。
久しぶりの登校日は、教師にとっても大変な一日だった。
「俺も、もう年だな」
ため息まじりにそう呟いたとき、背後から呆れたような声がかかった。
「…何を言っているんですか、十時先生。
三十路になったばかりなのに、老け込むのは早すぎますよ」
振り返るとそこには、学生時代からの友人が佇んでいた。
背広をピシッと着こなしている年下の友を見て、更に脱力した。
恐らく夏用の涼しい素材で作られているのだろうが、長袖なんざ見ただけで暑苦しい。
「何だ、省吾か。
まだピチピチの二十代の若造に言われてもなぁ…」
「ひとつしか歳が違わないのですから、私と大差ないでしょう?
それより『ピチピチ』という言葉は、オヤヂ臭いから止めたほうがいいですよ」
「その一歳の差が大きいんだよ」
「気のせいです。
もしくは気の迷い、あるいは言い訳ですね。
……そんなことより十時先生、ここは職場なのですから、私のことは理事長代理と呼んで下さらなければ困ります」
「理事長代理って、言い辛いだろ?
いーじゃん別に名前呼びで。
今、ここには他に人がいないわけだし、硬いこと言いなさんなって」
へらっと笑って誤魔化そうとすると、年下の友人でもあり上司でもある省吾は眼差しを険しく変化させた。
長年の付き合いから彼がお説教モードに突入しそうな事を察知して、早々に話題を変える。
「ああ、そういえば、ちょっとお前に訊いておきたいことがあったんだ。
この後、時間もらえるか?」
「…真面目な仕事の話ならいいですよ」
「マジだって、超マジ」
「…無理に若者言葉を使われると、聞かされているほうが居た堪れないので止めて下さい」
「うっわ、お前今マジで言っただろ?
俺の繊細なガラスのハートが傷ついたー、超傷ついたー」
「十時先生、五月蠅いですよ。
廊下で騒がないでください」
二人で軽口を叩きあいながら、人気のない校内を歩く。
先導した彼が選んだ場所は理事長室だった。
滅多に入らない部屋の中の調度品を興味深く眺めていると、省吾がソファへ座るように勧めた。
「檻の中の熊のようにウロウロしていないで、そこのソファに座っていて下さい。
今冷たい飲み物を用意してあげますから」
「熊って…お前酷くね?
俺、仮にも先輩だぜ?」
「アイスコーヒーいらないんですか?」
「喜んでイタダキマス」
冷やかな友人の返答の中に苛立ちの片鱗を感じて、大人しく従うことにする。
決してアイスコーヒーに釣られた訳ではない。
俺はそんな安い男じゃない、断じて違う。
ソファに座って待っていると、隣室からコーヒーミルを回している音が聞こえてきた。
飲む直前に自分の手でコーヒー豆を挽くことを厭わない友人のことを、半ば呆れつつも心の中で賞賛しながら、自分が彼から訊き出したいことについて考える。
カララァン。
氷がガラスの中で鳴る涼やかな音と共に省吾が戻ってきた。
几帳面な彼はまずコースターをテーブルに置き、その上にグラスを置いてから、ガムシロップとミルクの入ったピッチャーをセットした。
「おぉ、なんか喫茶店に来たみたいだな」
「ストロー使いますか?」
「さんきゅー」
差し出されたストローをもらい、ガムシロップとミルクをたっぷりと入れてから、ストローでぐるぐるかき回した。
「十時先生、相変わらず甘党なんですね」
「俺はお子様味覚なんだよ。
人の好みにごちゃごちゃ言うな」
呆れたような省吾の呟きを封じて、甘いアイスカフェオレで喉を潤した。
人心地ついた後で、本題を切り出す。
「――話っていうのは、俺のクラスの迦我見優人のことなんだが…」
「彼が、何かしましたか?」
即座に訊き返されて、自分の疑惑が的外れではないことを確信した。
「理事長って奴の仕事には、全校生徒を把握することも含まれてるのか?」
「…?」
「省吾、お前は昔から真面目で優秀な奴だったが、自分が将来受け継ぐ学校の生徒全員を覚える手間をかけているとは思えない。
んなもん、生徒のデーターをパソコンで調べればすぐに解ることだからな」
「…。」
「普通の生徒なら、お前は名前を聞いただけでは解らない筈だ。
なのに、迦我見のことは覚えていた。
しかも、何かしでかしたのか…と俺に訊く。
それは何故だ?」
「…。」
黙り込んで何も答えない省吾の表情からは何も読み取れない。
仕方なく別の切り口から攻めることにした。
「二年前、迦我見が白蘭に転入してきた時…学年主任のゴエツから妙なこと言われたんだよ」
「後藤悦朗先生が、貴方に何を言ったんですか?」
「迦我見の言動から目を離すな。
何かおかしいと思ったらすぐに報告しろ…と。
あの狸ジジイが神妙な面して言ってたから、よく覚えている」
「…。」
「当時は転入生が上手く溶け込めるのか心配してるんだろう…としか思ってなかったんだけどな。
ゴエツの奴、迦我見を見るたびに何かこう…腹に一物あるって顔するんだよ。
それで最近、逆だったんじゃないかと気がついた」
「逆、ですか?」
「そう。
迦我見がウチの生徒に何かされるんじゃなくて、迦我見が何かするのを恐れてるんじゃないか…ってね」
自分の本音を暴露し、一気に核心を突く。
「この推測が当たっているなら、それはゴエツ本人の危惧じゃなくて、学校側の立場から考えたことなんじゃないかと思ってさ。
さっきお前が迦我見の名前を聞いて言った言葉が、最後の決め手だったな。
……で、実際のところどうなんだ?」
「どう、とは?」
「アイツについて知っていることを全部話せとは言わないさ。
だが、担任である俺が知っていた方がいい情報は流しといてくれ。
事情を把握しているのがゴエツだけじゃ、後手に回る可能性が高いだろ?」
ニヤッと笑って見せると、省吾は大仰にため息をついた。
「まったく貴方という人は…相変わらず人が悪い。
そんな風に言われたら、知らぬ存ぜぬで逃げられないじゃないですか」
「逃がすつもりなんか全然無かったから、まぁ当然だな」
ずずずっと音を立ててカフェオレを飲み干していると、省吾が俺を睨んでいた。
恐らく行儀が悪いと言いたいんだろうが無視する。
こちらからも目線を投げて話を促すと、省吾は渋々重い口を開いた。
「――彼の転入には、青陵の鏡理事長から口添えがあったんですよ。
迦我見君と漢字は違いますが…」
「同じ一族ってことか?」
「はい。
青陵の鏡家のほうが分家で、分かれたのは明治時代辺りの話だそうです。
彼の家族は遠い親戚であることすら知らないだろうと言っていました」
「…はぁ?
普通、本家のほうが分家を把握しているもんじゃねぇのか?
分家が本家の事情を知っいて、本家より金持ちなのか?」
驚きながらも呆れつつ訊き返すと、省吾は肩をすくめて答えた。
「なんでもそういうことを些末事として考える方が、本家には多いというお話でした。
世事に疎いと言うよりは、関心を抱かない気質だそうです。
分家が本家より繁栄していても、それを祝うだけで…おこぼれに与ろうと考える者は居らず、時の流れと共に忘れ去ってしまったのでしょうね」
「あー、なるほど…。
そう言われてみれば、アイツも似たようなところがあるな。
自分の優秀さには無関心だし、周囲と比べない…比較して考えたりしない」
自分が担当している生徒の顔を思い浮かべながら呟く。
省吾は苦笑いしながら話を続けた。
「鏡家を興した方はご長男で、父親と喧嘩して勘当されたそうです。
家を出て苗字を改め、一代で財を築いたものの、家に残してきた弟と年老いた母を心配して、自分が亡くなった後も本家を見守るようにと遺言されたのだとか。
当代が遺言の通りに本家の動向をそれとなく見守っていたところ、彼の妹さんが大怪我をして、彼が本校に転入を希望していることを知り、密かに連絡を入れてきた…というのが一連の流れです」
「迦我見の妹ちゃんが大怪我って…どういうことだよ?」
脳裏には、家庭訪問の際に会った幼い少女の姿が浮かんでいた。
兄ほど日本人離れしている容姿ではないが、外国の血を感じさせる可愛い顔立ちの子供だった。
初めは見知らぬ大人を警戒していたのだろう。
柱の影に隠れてこちらの様子を窺っていたが、母と兄が親しく言葉を交わしているのを見て安心したのか、ぬいぐるみを抱いたまま近寄ってきた。
アイツは妹に気がつくと、自分の膝の上に乗せて優しく話しかけていた。
学校では見せない柔らかい笑みを見て、面倒見のいい兄なんだな…と感心したのを覚えている。
「彼が妹さんの子守りばかりをして自分たちと遊んでくれないから…という理由で、彼のクラスメイト五人が共謀し、妹さんを公園のジャングルジムの上に置き去りにしたそうです」
「は?
ちょっと待て、それいつの話だ?」
「二年前、彼女はまだ三歳でした。
三歳の幼子を高所に押し上げて、自分たちは彼と遊ぶために立ち去った。
彼女が怪我をして病院へ運ばれた後、彼らはこう言ったそうです。
『優人くんが遊んでくれないから、妹さんがいなければいいと思った』と。
『優人くんが遊んでくれなかったのが悪い』」
「…。」
「共謀した五人の内、男子生徒二名とその親は謝罪したそうなのですが、女子生徒三名とその親御さんたちは謝罪すらしなかったそうです。
『子供の喧嘩だから』『悪気はなかった』と言い張って」
省吾の淡々とした口調は、憤りを抑えながら話しているせいだ。
そのことに気がついて、自分もゆっくりと息を吐く。
「――彼は、妹さんがされたのと同じことを、彼女たちにやりました。
怒鳴り込んできた彼女らの両親に、彼は平然と言い返したそうです。
『子供の喧嘩に親は口出ししないんだよね?』『怪我をさせるつもりは無かったんだから、僕のしたことも悪いことじゃないんだよね?』…と。
女子生徒の親は、自分たちが言った言い訳に口をふさがれたんです。
違うと言えば、子供と自分たちも彼の妹さんの件で責められ、謝罪しなければなりませんからね」
省吾は口の端に笑みを浮かべた。
ブラックのアイスコーヒーを一口飲み、話を続ける。
「彼は公立小学校でも人気者だったらしく、彼女らの悪事は大勢の生徒に知れ渡る事となり、謝罪しなかった女子生徒全員が転校していったそうです。
彼女たちのご両親も職場で不祥事が発覚したり、不誠実な関係が明るみに出たり…と、各自それぞれのご事情で遠くへ引っ越したようですよ」
「――あいつはキッチリと仕返しをして、妹に危害を加えた人間を他所へ追いやった…ってことか」
「はい。
彼がどの程度関与した結果なのか解りませんけどね。
彼はいろんな意味で周囲に影響を及ぼす。
他の生徒にとって危うい存在に成る危険もある…というのが我々の見解で、それ故に特別な監視が必要だと考えていました」
「…ん?
何で過去形なんだよ?」
ふと違和感を覚えてツッコミを入れると、省吾はふっと柔らかい表情を浮かべた。
「十時先生の野生の勘を信じよう…という結論が、一学期末に出たんですよ。
勘のいい貴方を彼の担任にしたのは、貴方ならクラスの異変を素早く察知できるだろうと考えた為です。
貴方が二年以上傍に居て、彼に何も感じず、クラスにも目立った影響がないのならば、問題はないだろう…とね」
「……マジか?」
「マジです」
涼やかな即答に一瞬イラっとしたが、ぐっと堪える。
「それでアイツが変な目で視られることが無くなるなら、まぁ、いい。
ってか、俺の『野生の勘』ってなんだよ?」
抗議の意味も込めて睨みつけると、省吾はにっこり笑って言った。
「後藤先生が言い出した事ですから、詳しくはご本人にどうぞ。
私も含め、会議に参加された先生方全員がその言葉で納得していましたから、褒め言葉ではないにしろ、適格な表現だったんじゃないでしょうか」
「…。」
いろいろと言いたいことは山ほどあった。
だが、自分のクラスの生徒が学校の教師たちから危険人物視されなくなったことを、何よりも先に喜ぶべきだ…と思い直す。
子供を教え育む学び舎では、教師が大人の代表だ。
平日は親よりも長い時間を子供と一緒に過ごす。
子供は大人の感情に敏感に反応する。
身を守る術がない無力な存在だからこそ、周囲の大人の機嫌を無意識に読み取っているのだろう。
庇護してくれる筈の大人に疑いの眼差しで見られたら、寄る辺が無くなってしまう。
助けが必要な時に声を上げられないだろうし、人を信じられなくなってしまう恐れもある。
監視が解かれ、あらぬ疑いをかけられることがなくなったのなら、それで良しとしよう。
自分には、もうひとつ解決しなければならない難題があるのだから。
「――理事長代理、折り入って相談があるんだが…」
「お断りします」
「なんだよ、話ぐらい聞けよ!」
「嫌です、どうせ面倒ごとでしょう?」
「当たり前だろう。
この俺が頭を下げて頼むぐらいだからなっ」
「頼み事をする立場で偉そうに言わないで下さい。
あと、頭、下がってないですよ」
くそぅ、生意気に口答えしやがって…。
俺は歯噛みしたい気持ちを抑えながら、強引に話を始めた。
「迦我見の監視をしていたのなら、アイツの自由課題の件も知ってるんだろ?」
「…自由課題?
ああ、夏休みの宿題のことですか」
怪訝そうな省吾の表情を見て、何も聞いてないことが解った。
仕方なく、一から説明することにする。
「そう、夏休みの宿題のひとつ。
自分の興味があることを自由に選択する課題だ。
低学年は植物の観察日記や図画工作を選択する奴が多いが…」
俺は途中で一息ついた。
コイツを味方にして迦我見の自由課題を変えさせなければならない。
でないと、自分が恥ずかしい思いをすることになる。
「アイツが一昨年提出したのは、妹ちゃんの観察日記…というか成長記録だな。
ノートの上半分が絵で、下半分に文章が書いてあった」
「…。」
「夏休みの自由課題は、秋の文化祭に父兄にも一般公開されるだろう?
そこで、えらく注目されちまってな。
妹想いの優しい兄だって評判が立った訳だよ。
……で、去年のアイツの自由課題は妹ちゃんをモデルにした水彩画だったんだけどな?
そいつの出来栄えも良くて、県の美術展で金賞を受賞した。
父兄にもその絵が好評でさ、『さすが十時先生のクラスの生徒さんは優秀ですね。来年の作品も楽しみです』って話で盛り上がった訳よ」
「…。」
「登校日の今日、ちょいと気になって、俺、アイツに訊いたんだよ。
お前今年の自由課題は何にするんだ…ってさ。
そしたらアイツ何て答えたと思う?
『妹の人形を作ろうと考えてます。身体は木彫りで、服は布で』って言ったんだよ」
「…。」
「いや、もう、俺、内心超焦りながら、必死で誘導してさぁ。
彫刻刀を独りで使うのは危ないから止めとけ、とか。
布地は意外と高価だから、学校の課題に費やすのはもったいない、とか言って…」
俺は省吾の生温い視線に気がつかないフリをして必死に訴え続ける。
「奴は『もう一度よく考えてから決めます』って言って帰ったんだけどさぁ…。
お前想像してみろよ?
アンティークドールみたいな人形が自由課題の展示場にある様子を。
共学なら女子が作ったと思われるだろうが、ウチは男子校だ。
間違いなく浮く、そして目立つ、誰の作品だと注目が集まるっ。
何より俺のクラスの生徒の作品だとバレたら、俺が恥ずかしい!」
「子供が作るものなんですから、拙い出来でしょう?
むしろ微笑ましく見てもらえるのでは?」
省吾の言葉を俺は力いっぱい否定した。
「馬鹿野郎、アイツの無駄に高い能力は全方位に発揮されるんだよ。
おまけに可愛がっている妹ちゃんがモデルなんだから、手抜きなんて絶対にしない。
全力を費やしてくるに決まってるじゃねーか。
ってことは、出来上がるのはプロ顔負けの精巧な人形に決まってる!」
鼻息荒く断言すると、省吾は呆れたような表情を隠さずに訊いた。
「…それで、私に何をして欲しいんですか?」
「アイツん家に電話してさ、『今年も君が描く絵を期待してます』とかなんとか言ってくれよ。
理事長代理に期待されてるって解ったら、人形製作は止めて絵を描く気になるかもしれねぇだろ」
うん、きっとそうだ。
そうに違いない。
誰だって期待されるのは嬉しいしな。
俺が自分の考えを自分で褒め称えていると、省吾はゆっくりと立ち上がり、トレイを片手にグラスを片づけ始めた。
「お話はそれだけですか?」
「お? …おぅ」
「では、退室して下さい。
この後人と会う約束があるものですから」
テキパキと動き出した省吾の動きを目で追っているうちに、まだ了承の意を得ていないことに気がついた。
「出てくのはいいんだけどさ、お前、俺のお願い叶えてくれんの?」
ミニキッチンの流し台でグラスを洗う友の背中に問いかけると、明瞭な声で返答が返ってきた。
「――もちろん、お断りしますよ」
「なっ」
「自由課題とは、生徒が自由に課題を選べるものです。
大人の都合で生徒の意志を捻じ曲げるのは好ましくありません。
それに…」
省吾は後ろを振り返り、爽やかな笑顔で言った。
「…貴方が困惑する姿を見るチャンスを潰すのはもったいないですからね」
「お前、先輩の俺を助けてやろうという優しい気持ちにならんのか」
「長年の貸しが山ほど積み上がっていますから、地道に仕返ししていかないと」
「何だよ、その貸しって?」
「自覚がない辺りが、貴方のダメな処ですよね」
省吾はふぅっと大きなため息をついて、そのまま振り返らずに部屋を出てゆく。
「ちょっ、待てよ、オイ!
薄情者ーっ!」
慌てて追いかけて叫んだ声は、夕暮れの色に染まる校舎の中に響き渡った。
だが、俺の叫び声を聞いて足を止めてくれる者は誰一人いない。
ただ蜩の鳴く声だけが、物悲しげに応えてくれた。
その声を背に、俺は職員室へ向かって歩き出す。
足取りは重い。
だが、歩き出さない訳にもいかない。
西に沈む太陽を横目で眺めながら、俺は神に祈った。
どうか迦我見が人形作りを諦めてくれますように……と。
※ 本編の続きがまだ書きあがっていないため、
明日の更新は後夜祭分になります ※
うち兄一周年記念祭☆第一弾(前夜祭)
サイ様のリクエスト「兄の自由研究」を題材に書かせて頂きました。
チートな生徒を持つ先生も苦労しているんだよ…というお話でした。
(後半、協力を得られなかったのは自業自得っぽいですが)
兄の残念具合はデフォルトです。
先生の祈りが通じたのかどうかは、後夜祭分のお話でお確かめ下さい。
十時 健 … 白蘭初等部教師。ちょい悪でちょい俺様。
学生時代は高等部から白蘭へ入学。
生徒会長と寮長を兼任していた。
白神 省吾 … 白蘭創立者一族。真面目。
初等部と中等部は青陵。
高等部から白蘭へ入学。
先輩である十時に目をつけられ、学校と寮でいぢられまくった。